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30-5(母の呪い5)
はあ、はあ、はあ
荒い息が響く。足が重い。いつものように動いてくれない。腕の中に抱えたカタイの首が重い。
痛みはない。
不思議と感じない。
ただ足が重い。
転倒する。
立ち上がる。
カイト
愛しい娘のことを思う。
遠く、酔林国にいる筈の娘のことを思う。
いま、連れ帰ってあげる。
森に。
父さまを。
あんたの大好きな父さまを。
連れ帰ってあげるわ。
はあ、はあ、はあ
息が乱れる。
森が遠い。
走っても走っても辿り着けない。
どうしてこんなに遠いんだろう。
どうしてこんなに足が前へ進まないんだろう。
ずいぶん長いこと走っている気がする。
カイト。
いま帰るわ。
森に。
もう少し。
ああ、でも、足が重い。
森が遠い。
はあ、はあ、はあ
いま、あんたのところに。
足が重い。
息が苦しい。
カイト。
カイト。
カイト……。
ああ。昏い。
くらい。
もう、何も見えない--