29-3(全ての神々の背信者3(一ツ神、現る1))
「さてと。次は一ツ神の信徒たちね。マルタ、よろしくね」
「はい、フラン姉さま」
「何をするの?」
「あたしの妖魔に捕まえさせておいた一ツ神の信徒たちを、ここに連れて来るわ。一ツ神の信徒の中でも幹部の子たちだけだけど。
彼らを、王に従うように説得するのよ」
「説得できるの?」
「それはやってみなければ判らないわね」
「マルタさんは、何をするの?」
「モルドがやっていたようにあたしの声に力を乗せて貰うわ。あたしの言葉が、あの子たちの心に届くようにね。
フウも、マルタに協力して貰えるかしら」
「難しくはないわ、フウ。わたしが主導するから、力を合わせてくれれば大丈夫よ」
フウを安心させるようにマルタが言う。
「はい、マルタ姉さま」
「フウとマルタさんの力で、その人たちに言うことを聞かせるということ?
えーと、迷宮大都に百神国が攻めて来た時に、モルドさんがみんなに言うことを聞かせたみたいに」
「そうじゃないわ。ちょっとあの子たちには信じられない話をするから、それを信じさせるのを、マルタに手伝って貰うのよ」
殺しちゃダメよ、カイト。
と、信徒たちを呼び出す前に、フランはカイトに注意した。
もし、あたしたちに殺気を向けてきても、彼らはみんな、あたしの妖魔で動けないようにしているから。口は利けるけど、何も出来ないわ。
いいわね。
と。
息絶えたモルドの脇にフランが立ち、カイトたちはモルドの椅子の後ろに立った。
「いいわよ」
フランが妖魔たちに命じる。
何もない床から、一ツ神の信徒たちが浮かび上がる。
20人には少し足りない。
全員が戸惑っている。
「ここはモルドの執務室よ」
無言の問いに、フランが答える。
「あなたたちに話したいことがあるから、来て貰ったの」
信徒たちの視線がフランに集まり、フランの傍らで力なく椅子にもたれ掛かったモルドの姿を見て息を呑む。
「執政!」
信徒たちが叫ぶ。悲鳴を上げる。全員が執務机に駆け寄ろうとする。しかし、動けない。足は前に出ることなく、腕も上げられない。
「何だ、これは!」
信徒たちの一番前に立った男が叫ぶ。
背が高く、細身だ。
「動いちゃダメよ。ガラク補佐官」
フランが男に声をかける。
「貴様、執政に、モルド執政に何をした!」
ガラク補佐官と呼ばれた男がフランに向かって怒鳴る。
「この子は常世に旅立ったわ」
「な」
短い沈黙があった。フランの言葉を理解するまでの間だ。信徒たちの顔に理解が拡がる。歪む。
聞き取ることもできない言葉が叫びとなって執務室に響き渡る。
「何者だ、貴様」
涙を流し、歯軋りをしながらガラクが問う。
「失礼な訊き方ね、ガラク」
「わたしのことを知っているのか!」
「あたしが知らないことは何もないのよ」
冷ややかにフランが言う。
「あたしは、シャッカタカー。千の妖魔の女王と呼ばれているわ。ご存知?」
信徒たちが再び鋭く息を呑む。
「”古都”の首席か!」
「ええ」
フランが頷く。
「そして、あなたたちの主でもあるわ」
「何だと」
フランが己の胸に手を添える。
『フウ--』マルタが声にならない声をフウに飛ばす。『わたしの力に、あなたの力を乗せて。フラン姉さまの声に--』
フランは、胸の奥にマルタとフウの力を感じ、妖しく艶やかな笑みを口元に浮かべ、信徒たちにはとても信じられない話を、重々しく厳かに口にした。
「一ツ神というのは、あたしのことよ」




