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プロローグ1 いつか
涙に霞む目を空から戻し、彼は呆然と口を開けた。
先程まで傍らにいて、彼と同じように怒り、慟哭していた仲間が、誰もいなくなっていた。しかも峠を守る城砦にいたはずがいつの間にか浜辺にいて、波が静かに彼の足元を濡らしていた。
浜辺を歩いて行った先で出会った者は、誰も彼の言葉を理解せず、身なりも彼が見たことのない物ばかりだった。
翌日、住民が魔術師を連れて来た。魔術師は、彼の知る通り足元まである黒いローブを纏っており、彼をほっと安堵させた。
だが、魔術師が話す言葉を、彼は理解できなかった。
「ここはどこだ、オレは……!」
芝居がかった大袈裟な仕草でそう叫んだ彼に、魔術師は頷いた。とても満足したように、満面の笑みを浮かべて。