24-9(新しい神9(二本足で歩く犬))
クスルクスル王国軍は、トワ王国軍をロールーズの街に押し込んだ後、まず、近くの川に堰を造った。ロールーズの濠に水を引き入れるには、その堰をひとつ崩せば済む状態まで準備をしてから、ロールーズの街を攻めた。攻めながら空堀を整備し、空堀に架かる橋を落とした。最後に北門の前に架けられたアーチ橋を夜陰に紛れて一晩で崩し、堰を切って濠に水を満たした。
たった一夜で濠に水が満たされ、孤立させられたロールーズの街の人々の心理的な衝撃は大きかった。
もちろんそれも計算の上だったのだろう。
ロールーズの街を孤立させたカン将軍は降伏を勧告し、拒絶されると直ちに、内堀を囲むように塀を建て、城壁よりも高い物見櫓を幾つも築いた。
防御の為だけでなく、さらに心理的な圧迫を加えるために。
ロールーズの街の正門である北門の前に築かれた塀が他の場所よりも高く、弓兵が矢を放てるよういくつもの矢狭間が穿たれていたのも、北門前に一晩中篝火が灯され、これ見よがしに多くのクスルクスル王国軍の兵が詰めていたのも、同じ理由だろう。
夜明け前のまだ薄暗い中、ロールーズの街の北門が開いた。
物見櫓の兵がすぐに気づき、「まさか」と思いながら目を凝らした先で、何人ものトワ王国の兵士たちが出てきた。
太い柱にロープ括りつけ、引っ張っている。
柱が立てられる。アーチ橋の土台の上に、柱が慎重に倒されていく。
橋を架け直そうとしていると気づいて、二人いた物見櫓の兵士のうちの一人が警告の叫び声を上げようとし、もう一人が鐘を打ち鳴らそうとする。
しかし、いずこからか飛来した二本の矢が、それを許さなかった。
この口髭。
剃り落としてしまおうか。
苦い思いとともに、彼は朝、起きる度に思っていた。
ファロの子供たちを死なせてしまったあの日から。名を口にするのも忌々しい、あの神官と似ている。ただそれだけの理由で。
軍を離れて故郷に帰ろうかとも思う。
そもそも軍を率いるのがカン将軍でなければ、徴募に応じることもなかった。
しかし、兵士たちに連行されるカン将軍に「後を頼むぞ」と言われた、その言葉が彼をクスルクスル王国軍に留めていた。
気持ちを引き締めるために一分の隙もなく軍装を整え、宿舎となっている民家を出る。担当部署であるロールーズの街の北門に近づくにつれ、彼は眉間にしわを寄せた。
「何をしている!」
塀の向こうから工事でもしているかのような音が響いている。反乱軍が北門に橋を架けようとしている、と彼はすぐに悟った。にも関わらず、兵士たちは何もすることなくただ呆然と立ち尽くしている。
「何を呆けたように突っ立っている!ヤツラを止めろ!」部下である副官の名を口にし、「--は、どこにいる!」と叫ぶ。
「亡くなられました」
ひとりの兵士が、掠れた声で答える。
「何?!」
兵士が指さした先に、死体があった。
「な」
それもひとつではない。よく見ると、塀から落ちたのだろう、弓兵の死体が塀に沿っていくつも転がっていた。
弓兵たちに混じって、副官の死体もあった。
違和感があった。
何か。
いつもと違う。
矢を放とうとした弓兵が、逆に矢で射抜かれて転げ落ちた。それは判る。だが、何かおかしい。いつものいくさ場なら、もっと--。
はっと気づく。
矢が少なすぎる。いずれの死体にも一矢しか刺さっていない。
正確に。喉に。額に。
ひとりも負傷者がいない。
全員が死んでいる。
ぞっとした。
外れた矢がない--?
彼は物見櫓を振り仰いだ。そこからなら、ロールーズの街が見えるだろうと。しかし、物見櫓に人影はなかった。
いや、と見直し、物見櫓にいるはずの兵士が倒れていることに気づいた。
ぴくりともしない。
死んでいる。
「馬鹿な……」
立ち竦み、呆然と呟く。
兵の誰かが、
「帰って来たんだ」
と、恐れを含んだ声を漏らした。
自分の心を読まれた気がして、彼はぎくりっと声を振り返った。
「帰って来たんだ……。あいつが言ってた……、娘が」
あいつ。キヒコのことだ。
『嬢ちゃんが帰ってくる!
そうしたらザカラだろうが、リプスだろうが、もうお終いだ!
嬢ちゃんの矢から逃れられるヤツは一人もいねぇ!
ここにいるヤツラは全員、もう死んだも同じさ!だから安心して、オレは先に行かせてもらうぜ!』
腹を裂かれても尚、叫ぶのを止めなかったキヒコの声は、兵士たちの間に拭い難い恐れとなって残っている。
それが次第に大きくなっている。
「狼狽えるな!」
自分自身の不安を振り払うように、彼は叫んだ。
「戦闘の用意をしろ!橋を架けるのを止められないのなら、ヤツラをここで迎え撃つ!全軍に……!」
声が途切れる。
訝し気に上官を見返した兵士が息を呑む。
彼はロールーズの城壁からは見えないところに意識して立っていた。
矢で射られないように。
しかし、兵士たちの視線が彼に集中していた。彼を見つめる兵士たちの視線が、指示を出す立場にいる者の場所を教えていた。
彼は射抜かれていた。
背後から。
ロールーズの街とは塀で遮られている筈が、一本の矢が、彼の喉を正確に射抜いていた。
崩れ落ちる彼の視界が大きく回り、剃り落とせなかった口髭のことが、なぜか大きな後悔となって彼の心に残った。
塀の向こうの騒ぎを気にすることなく、トワ王国軍の兵士は濠に橋を架ける作業を続けていた。
崩れたアーチ橋の上に柱を4本倒し、杭で厳重に固定し、横板を張り、手際よく釘を打ち付けていく。最後に、架けられた橋の強度を確認し、トワ王国軍の兵士が北門に向かって合図する。
乗馬姿のサッシャが姿を現す。
城壁の上に兵士が現れ、太鼓が荒々しく、リズミカルに打ち鳴らされる。
クスルクスル王国軍の陣地は静まり返っている。
サッシャに続いて、攻城槌を抱えた兵士たちが二組、馬に跨ったサッシャの両側に姿を現す。
「子供たちを非道にもだまし討ちにした者どもを、許すな!」
サッシャが叫ぶ。
トワ王国軍の兵士の応えが大きく響き、攻城槌が塀を打ち砕き、及び腰となったクスルクスル王国の陣へ、何の備えもできていない敵兵の中へ、サッシャを先頭にトワ王国軍は喚声を上げて突っ込んでいった。
北門からトワ王国軍が打って出たという知らせは直ちにロールーズの街を囲むクスルクスル王国軍の全軍に広まっていった。だが、兵士たちの不確かな話ばかりで、伝令が来なかった。
ロールーズの街の東門が開いたのは、「東門からも打って出るやも知れぬ!警戒を怠るな!」と、東門の守備隊の隊長が命令を下した直後である。
弓兵がすぐに塀の上から弓を構えたが、彼らが開いた東門に見たのは、たったひとりの男だけだった。
顔の平べったい小男が、背中を丸め、のそのそと歩いて出て来た。
「なんだ、アイツは」
誰かが呟く。
小男が顔を上げる。
笑う。
愛嬌のある笑顔だった。
「何をしている、射て!」
隊長が叫び、弓兵が気を取り直し、矢を放つ。
放たれた矢が、地面に突き刺さる。
「えっ?」
小男の姿がない。
跳んだ、と気がついた時には、小男の身体は、弓兵たちの遥か頭上にあった。
軽々と濠も塀も飛び越え、小男はクスルクスル王国軍の陣内に、兵士たちの間に降り立った。
長剣が閃く。
何が起こったか理解する前に数人が倒れる。
小男が立ち上がる。
嗤う。
「て、敵襲だ!」
怒声が湧き起こり、クスルクスル王国軍の兵士が小男へと殺到した。
東門からは別の人影が走り出ている。
二人の男が何かを肩に担いでいる。橋だ。とても人が持つことなど出来ないだろう、すでに組み上げられた巨大な橋を、軽々と運んでいる。
投げ出されるように橋が濠に架けられる音が重く、低く響く。
ひとりの男が強度を確かめ、城内に合図する。背後の東門から兵士が何人か走り出て来る。手早く杭を打ち、橋を固定する。
塀の向こうからは怒声と悲鳴が響いている。
誰も塀の外側には注意を向けていない。
橋を担いできた二人の男は橋を渡って、橋の先に建てられた塀に手を添えた。人の背丈を越える高さの塀だ。深く杭も打たれている。人が二人で押した程度でどうにかなるものではない。
しかし、塀は倒れた。
メキメキメキと、音を立てて押し倒された。
とつぜん視界が開け、クスルクスル王国軍の兵士が驚いた顔で一斉に振り返る。怒声が静まり、負傷した兵士の呻き声だけが残った。
大きく開け放たれた東門から一台の馬車が現れる。
いくさ用の戦車だ。
二頭立てで、御者の他に二人の女が乗っている。
ひとりは弓を持っている。
兵士たちの視線が、もうひとりの女に集まる。なぜか視線を外せなくなる。澄んだ菫色の瞳に惹きつけられる。
風になびく長い金色の髪が陽の光を受けて眩しく輝き、まるで女の背後に後光が差しているかのように、兵士たちには見えた。
「我らの敵は、郡主様のみ!」
凛とした声に、夜明けの涼しさを残した空気が震えた。
「道を開けよ!」
「まさか」
誰かが呟く。ひとりではない。多くの兵が気づいた。理屈ではなく。身体の奥深いところで。
「姫巫女様……?」
ロールーズの街には、いずれの神の姫巫女もいない。
いない筈だと、兵士たちは知っている。
もし姫巫女がいれば、必ず兵士たちに伝えられている。決して姫巫女には手を出さないように。神々の怒りを買わないように、と。
しかし--。と、すると--。
子供たちを殺す手引きをした神官のことが、兵士たちの脳裏を掠めた。
「まさか、あ、新しい神の……、姫巫女……?」
「そうだ」
兵士の呟きに答えたのは、塀を押し倒した男のうちの一人。イタカである。
「道を開けろ」
兵士がイタカを見上げる。自分が対峙しているのが新しい神の英雄なのだと気づく。悲鳴を上げる。
後ろを見ることなく兵士が逃げ出し、あとは総崩れとなった。
「は、反乱軍が、打って出たぞぉ!」
宿舎として割り当てられた屋敷の私室で、ザカラも兵の叫び声を聞いた。すぐに彼は一人の奴隷を呼んだ。
「支度しろ」
姿を現した奴隷に、短く命じる。
「は、はい」
奴隷が服を脱ぐ。慣れない手つきで、ザカラが投げ出したザカラの服に着替える。
「お、お約束は、守っていただけますね」
ザカラが不機嫌そうに「ワシを誰だと思っている」と告げる。
「ヤツラは東門から打って出たようだ。隙を見てロールーズの街に逃げ込め。誰もワシがロールーズの街に逃げるなどとは思わないだろうからな。適当に時を見計らって服を着替えれば、民人に紛れられよう」
「は、はい」
「行け」
「ぜ、絶対に、お約束を忘れないで下さいませ、よ……」
奴隷が部屋を出て行く。猜疑心に満ちた視線だけが残る。
海都クスルにあるザカラの屋敷に残してきた彼の妻子のことだ。やはり奴隷だ。彼らを自由にするという約束のことだ。
「そこまで疑われては、守る約束も守る気にはなれぬわ」
忌々し気にザカラが吐き捨てる。
もちろんザカラに、奴隷との約束を守る気など始めからない。奴隷ごときとの約束を破ることに、罪悪感もない。
予め用意しておいた薄汚れた庶民どもの服に着替える。反乱軍に犬の獣人がいることは知っている。臭いを辿れないよう、ワザと汚している。
散歩にでも出かけるかのような落ち着いた足取りでひとり屋敷を抜け出し、人々の流れを読み、人々とは反対の方向へと逃げた。
『街の外に逃げるのは、下策か』
自分が人に恨まれていることは自覚している。
反乱軍でなくともトワの民人に見つかれば、殺される恐れがあった。
『所詮は反乱軍。この騒ぎもすぐに収まろう』
見知らぬ民家の庭にある納屋に隠れ、物陰に潜む。
ここなら安全、と確信する。
危険を察知する才には自信があった。人とは違う行動をする。そうすれば、危険は自ずと自分を避けていく。
と、信じていた。
人々の声が遠ざかっていく。
静けさが戻ってくる。
『ホレ。ワシを殺すことなど、できるかよ』
ひとりほくそ笑む。
だが、タンッと、まるで矢が刺さるような音が納屋の外から聞こえた。
「そこです」
と、声も響いた。
女の声だ。
まさかな。ワシのいる場所が判る筈がない。とタカをくくって、たいして不安にも思わず、木製の壊れかけた衣装棚の後ろで身を縮めながら、ザカラは外の様子に耳を澄ませた。
ガラリッと勢いよく納屋の扉が開いた。
心臓が跳ね上がった。
早鐘のように鳴る心臓の音を聞きながら、まさか、と思っているうちに大股の足音が近づいてきて、いきなり光が差した。
投げ飛ばされた衣装棚が、壁に当たって粉々に砕けた。
男が立っていた。
見知らぬ男だ。
「ようやく会えましたな。郡主殿」
ぽかんと口を開けたザカラを冷ややかに見下ろして男が言う。イタカだ。イタカの背後、開け放たれた戸口の向こうにも多くの人々がいる。
ザカラはすばやく視線を回した。生きる道を懸命に探す。
「ま、待て、ワシは……」
他人のふりをするか。命乞いをするか。むしろ開き直って見せるか。誰か。誰かいないのか。
ええい。能無しどもめ。
こんなハズがない。ワシがこんなところで死ぬハズがない。
ザカラの心が空転している。現状を正しく認識できていない。いや、現実を信じられずにいる。
ザカラの心に黒い壁がある。
絶望の壁だ。
無意識の言葉で塗りつぶされた壁だ。壁は、ひとつの言葉で埋まっている。隙間なく、びっしりと。カネ。ただひとつの言葉。カネ。カネ。カネ。トワ郡の郡主の立場を利用して貯め込んだ裏金だ。海都クスルの屋敷に隠しているカネだ。
ワシのカネ。あれは、ワシのカネだ。
海都クスルにいる筈の妻子のことを思う。オム市で捕らえられ、すぐに自由にされ、海都クスルに逃げ戻った筈の妻子のことを、寒気がするほどの焦燥感とともに思う。
ヤツラが使ってしまう。
ワシのカネを。
血が滲む想いで、必死に貯めてきた、命よりも大事な、
ワシの、
ワシのカネを--!
イタカがザカラの襟首を掴む。引き摺り出す。開いたままの戸口へ、細い悲鳴を上げるザカラの身体が、軽々と放り投げられた。
クスルクスル王国軍の司令官であるリプスは、眠っているところを起こされた。
「ご主人様にお会いしたいと、兵が参っております」
海都クスルから従っている使用人が、恐る恐るベッドで眠る彼に声をかけた。
「なんだ」
不機嫌にリプスが呻く。
「その、トワ王国軍……、いえ、反乱軍が、北門から打って出たと、申しております」
使用人の声に余裕がない。
そわそわしている。
「ああ?」
「起きた方がいいと思いますよ。将軍」
戸口からリプスに声をかけたのは、海都クスルで雇った護衛のひとりである。リプスは彼の指揮下にある兵士を信じていない。所詮は田舎の兵士と侮っている。反乱軍と示し合わせていつ裏切るかも知れない、と思っている。
だが、カネの力は信じている。
だから、海都クスルを出発する前に、最上の護衛を二人、雇った。戸口に立っているのは、そのうちの一人だ。
「どうもヤバそうだ」
言葉とは裏腹に、護衛の声にはどこか騒ぎを楽しんでいる響きがあった。
リプスは巨体をベッドに起こした。
「何をボヤボヤしている!」
ベッドから降りながら使用人を怒鳴りつける。
「とっとと甲冑の支度をせんか!」
甲冑に身を包み、二人の護衛を従えて、玄関ホールでリプスは報告に来た兵士に会った。
「どんな具合だ」と問う。
北門から打って出た反乱軍の勢いを止められない、と兵士が答える。
「ええい。ワシがいなければ何もできんのか」
ぶつぶつと文句を言って、使用人を振り返る。水を飲む。コップを返し、鷹揚に手を振って使用人を下がらせ、正面に向き直って、きょとんとする。
兵士が倒れている。
なぜか。
兵士の首に矢が刺さっているように見えた。下卑た笑いを浮かべた獣人がいる。倒れた兵士の向こうに。犬の獣人だ。全身、真っ黒い毛で覆われた。
「なんだ、お前は」
横柄な口調で訊く。
「いやあ、内輪の話で申し訳ないんだけどね、お姫様たちもサッシャも手いっぱいで、アンタのことはもういいかって話も出たんだよ。
でも、それはちょっとどうかなぁって思ってさ、オレが行くってことになったんだ」
獣人の口調は軽い。
「いちばん良い家を探しゃあいいか、と思ってたけど、当たりだったな」
リプスが後ろの護衛を振り返る。
「何をしている!コイツを……!」
リプスの声が途切れる。
護衛が倒れている。大金を払って雇った最上の護衛が。矢で喉を射抜かれている。二人とも。大きく目を見開き、歪んだ口元に不敵な笑みを残したまま、ぴくりとも動かない。
「な」
顔を青ざめさせ、リプスが獣人に視線を戻す。
息を呑む。
獣人がすぐ傍にいた。
いつの間にか。
リプスの視界から光が消える。
巨体が痙攣する。
リプスが喘ぐ。
驚愕と疑問がリプスの顔にある。
これまでのことを走馬灯のように思い出す。
頭の悪い、才能の欠片もない、と侮っている王のことを。
あんな馬鹿に頭を下げてここまで来た。もはや収穫するだけとなった果実を手にするために。本来、自分の物であるはずのモノを手に入れるために。アマン・ルー。あんな得体の知れない女が宰相などと、そんなこと、許される筈がない。あの女を引き摺り下ろし、ワシが宰相になるのだ。クスルクスル王国をワシが率いるのだ。ワシにはそれが相応しい。そうでなければならない。それがあるべき姿だ。
こんな田舎まで来たのはそのためだ。
本来ワシのモノであるモノを取り戻す。正しい形に戻す。ただそのためだ。
それなのに、
何故?何故?何故?
リプスの唇が弱々しく動く。
疑問が形になる。
お前は、誰だ。
獣人がリプスの耳元に口を寄せる。
闇に閉ざされたリプスの脳裏に、平板な声が響く。
「オレは、二本足で歩く、ただの犬さ」
と、リプスの甲冑の隙間に差し込んでいた剣を引き抜きながら、獣人は答えた。