22-3(キャナヘ3(リアの質問2))
「プリンス、ハル。リアちゃんを連れて来てくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
ハルが笑いながら言う。
「あんたが急いできたのは充分判ったから、その湯呑、どこかに置いたら?」
「えっ?……あ」
カイトが手にしたままの湯呑を見下ろす。
「ちょうど今年できた酒を呑んで貰っていたところだったんだよ」
酒蔵からトロワが姿を現す。トロワの後ろには、トロワに隠れるように二人の娘が続いている。二人とも瞳が明るく輝いて、リアに対する興味を隠し切れていない。
「久しぶりだね。プリンス」
「トロワさんのお酒を呑みたくなって、帰ってきてしまいましたよ」
「それじゃあ、さっそく味見をしてもらわないとな」
「この子は--」
「ハル。オルガ一族のハルです。よろしくお願いします」
弓を肩に掛け、ハルがはきはきと挨拶する。さすがハル。と、カイトは感心した。名乗りが自然で、立ち姿にも隙がない。
「カイトから聞いているよ。こちらこそよろしく」
「この子が、リアちゃんです」
プリンスに促され、リアが緊張した様子で前へ出る。
「はじめまして。とろわさま。りあ、ともうします」
「よろしく、りあちゃん。君のこともカイトから聞いているよ。だから、そんなに硬くならなくても大丈夫だよ」
「あの、とろわさま」
身体を乗り出し、リアが更に言い募ろうとする。
「待って。リアちゃん」
そこへハノが割って入った。
「早くお話ししたいのでしょうけど、少し休んでからにしましょう。まず汗を流して、食事をしてから、ね」
「でも」
「諦めた方がいいわ。リアちゃん」
カイトが横から言う。
「この家で一番エライのは、ハノさんだから。逆らっちゃダメなの」
「そうそう」
双子の娘が同意する。
「まずはお風呂だね!」
双子の娘に両腕を取られ、カイトも加えた3人に風呂に入れられ、着替えさせられ、食卓に座らされ、食事をしながらカイトたちと別れた後の話をしていて、ハッと気がつくと、リアは布団の中にいた。
すでに夜だろうか。部屋には灯りがあり、枕元にはカイトがいた。
目を覚ました時に誰もいなかったら--。
誰かに抱かれて運ばれている時に、聞いた覚えがあった。怖がるかもしれないから。とカイトが言うのを。
「起きた?」
「うん」
横になったままカイトの手を握る。
「ぷりんすさんとはるは?」
「二人とも、プリンスの一族のところに帰ったわ。プリンスがハルを、プリンスの一族に紹介するって。でも明日、また来るって」
「とろわさまは?」
「リアちゃんが起きるのを待ってくれてる。でも、明日の方がいいんじゃない?」
「ううん」
しっかりと首を振って、リアは身体を起こした。
「ふたりだけでおはなしさせていただいてもよろしいでしょうか」
リアがそう望み、トロワはリアと二人きりで向かい合った。
「カイトから話は聞いたよ、リアちゃん。オレが次の道標だってロード伯爵がおっしゃっていたってね。
どういうことだい?」
「とろわさまのしつもんにおこたえするまえに、まず、わたしからしつもんさせていただいてもよろしいですか?」
ずいぶん大人びた子だな、と思いながらトロワは頷いた。
「いいよ。何だろう」
リアは、何ひとつ見逃すまいとでもするかのように、しっかりとトロワの瞳を見つめている。
リアが口を開く。
「とろわさまは、ふらん、というかたをごぞんじですか?」
と、リアは静かな声で尋ねた。