16-8(海都クスルへ8(闇の神の信徒と語らない少女))
闇の神の信徒であるターシャが巡礼船に乗り移ることを、乗客である巡礼者だけでなく、船員たちも拒否した。「ロード伯爵と同じ船に乗るぐらいなら、海に飛び込んでここで死ぬ」と騒ぐ者も一人や二人ではなかった。
「このまま置き去りにはできない。が、当船にお乗せすることもできない。海賊船でそのまま海都クスルまで行っていただきたい」
船長の硬い声に、
「操船はどうするのだね?」
とターシャは尋ねた。
「乗組員の中から志願者を募る」
決死の覚悟を決めた5名が手を上げ、海賊船に移った。
「つまり、こちらの船の方が海都クスルに早く着くということだね。私一人ではいささか寂しいな。
誰か同乗する人はいないかな」
「一人、ではないようにお見受けするが?」
ターシャは腕に一人の少女を抱いていた。
まだ幼い。
ただ、妙な落ち着きがある。ターシャの腕の中で一言も発することなく、大きな瞳を船長に向けている。
「この子は別だよ」
「あたしたちがご一緒します」
船長が振り返ると、荷物を持ち、すでに身支度を整えたフウが立っていた。カイトもいる。
二人の後ろで、クロは仕方なさそうに肩を竦めて見せた。
「キャナの外務大臣だったぁ!?」
クロが思わず上げた声に、たまたま近くにいた船員が僅かに足取りを緩め、関わりになることを恐れたかそそくさと歩き去っていく。
海賊船の甲板である。
空は海神に祝福されたかのように青く澄み渡り、気持ちのいい海風に帆はいっぱいに膨らんでいる。
クロの前にはターシャが向かい合って座り、二人の間には酒がある。海賊船に積んであった酒だ。
ターシャの横には、彼が抱いていた少女が座っている。
カイトとフウはいない。
たった5人で操船する船員に、何か手伝うことはないかと申し出たのである。
二人にたいしたことができる訳ではない。
しかし船員たちのいい気晴らしにはなっているようで、船員たちの声に交じって、時折、楽しそうなフウの笑い声が聞こえていた。
「あんた、名を口にするのも憚れる御方たちの信徒なんだろ?それなのに大臣って、そんなことアリか?」
驚きの余り危うくこぼすところだった酒を慎重に口に運びながらクロが訊く。
「信じて貰えないとは、心外だね」
紫色の唇の口角だけを上げて、からかうように、甘くとろけそうな声で闇の神の信徒が微笑む。
皮肉に満ちた笑みだ。しかし、不思議な親しみやすさがある。
クロにはむしろ、それが怖い。
「雷神様が神殿の扉を閉じられた頃には職を離れていたのだがね。一ツ神の信徒が政権を取った後に呼び戻されて、深刻な意見の対立が生じて、結局、クスルクスル王国に亡命するハメになったんだよ。
幸い薫風王様とは面識があったからね。
自分で言うことではないのだが、私には向いているようだ、外交官という職業は。基本、騙し合いだからね。
人の裏の裏を読むのは性に合っている」
「なんだか納得できるなぁ」
「貴殿もいい外交官になれると思うがね。見聞官殿」
「オレには無理さ。何せ、怠け者だから。オレは」
「怠け者なのは私も同じだよ。
私が我が主の信徒になったのはね、私が怠け者だからだよ。
私の人生の信条は、『人にバレないように嘘をつき、合法的に盗み、精一杯サボる』なんだ。
我が主にも私が精一杯サボっていることを評価していただいて目をかけていただいている。
当然、我が主の信徒は私の他にもたくさんいるが--例えば、”古都”の連中とかね--、彼らは私と違って、精一杯サボることを知らない。
嘆かわしいことだよ」
「……なんだか、友だちになれそうだな。あんたとは」
「良ければ、主に推薦しようか?」
クロがとんでもない、と言うように手を振る。
「あまり神様にも権力にも近づかない、っていうのがオレの信条なんだ」
ターシャの琥珀色の瞳が、楽し気に笑う。
「素晴らしいね」
「だろ?」
クイッとクロが酒を喉に流し込む。
「で、クスルクスル王国に亡命して、信条通り、サボりたいだけサボれる筈のあんたがなんでこんなところにいるんだ?」
「我が主のご命令でね」
「どんな」
「こちらの方を迎えに行けと命じられたんだよ」
ターシャの横に座った少女が、自分のことだと気づいて両手を突き、深々と頭を下げる。
「りあです。よろしくおみしりおきください。けんぶんかんさま」
まだ回りきっていない舌で、しっかりとクロに挨拶する。クロの方が戸惑うほどだ。
「こちらこそ、お姫さん」
「わたしは、ひめ、ではありません」
リアがすぐに否定する。
「だったらなんだい、リアちゃんは」
にこりとリアが笑う。
クロに尻尾があれば、警戒の意味で軽く左右に振っただろう。子供が浮かべる笑みではない。作り物の笑みだ。だが、嘘はない。むしろ、歳に似合わない強い意志が、どこかぎこちない精一杯の笑みの裏にある。
「それはいえません、けんぶんかんさま」
「歳ぐらいは教えて貰えるかい?」
「ごさいになりました」
「ホントかよ」
父さまと母さまはどこにいるんだよ。
喉元まで出かかった言葉をクロが飲み込む。訊いても答えてくれないだろうし、そもそも答えられないんじゃないか、訊くのはヤバイんじゃないか、という気がした。
「私もリア様が何者か知らないんだよ。我が主も教えては下さらなかった。リア様に訊いても、この通り教えては下さらない。
ただ、推測はついているがね」
「リア様って、あんたが呼ぶような立場ってことか?」
リアが黙ってオレンジジュースを口に運ぶ。
「彼女を私に引き渡した方たちがそう呼んでいたのでね。彼らに倣っている。全員が役目に殉じて死んだから、敬意を表してもいいだろう」
「だったら、あんたはなんで生きてるんだよ」
「私が生きている。それこそが、我が主が私を寄越した理由だろうな。
闇の神の信徒である私に刃を向けられる者は少ないからね。この船の乗組員たちがいい例だ」
「確かにな。下手なことをしたら祟られそうだ」
「リア様は一ツ神の信徒から逃れて、洲国のザワ州に匿われていたんだよ」
ザワ州。オセロの故国だ。
そういやあ、あれからどうしたかな。公子さまは--。
「しかし、ザワ州にもキャナの手が迫ってきたので、リア様をクスルクスル王国まで避難させようということになってね。トワ郡の端にある寒村で落ち合って、この近くまでは無事に来れたんだが、リア様を追ってる者が優秀でね」
「誰だ?」
「レンツェという男だが、見聞官殿は知らないだろう」
「聞いたことねぇな」
「私の古い友人でね。
人の本性について深い理解を持ち、人を信じるということを知らず、記憶力も知性も抜群で、蛇のように執念深く、他人の裏側を探ることを生きがいにしているという、長い付き合いの私でさえ彼が笑ったところを見たことがない男だよ」
「楽しそうなヤツだな」
「ああ。彼といると飽きない。
一ツ神の信徒がキャナの権力を握るまでは、彼も迷宮大都の貧民街でちまちました情報を売って生計を立てていたのだがね。運悪く執政殿が彼の才能に気づいてしまって、今はキャナの諜報部門のトップになっている」
「執政殿って、誰だい?」
「モルド殿だよ」
「ああ」
「そのレンツェがリア様を追っているんだよ」
「そんなヤツから良く逃げ切れたモンだ」
「長い付き合いだからね、彼とは。
私なら彼の裏もかけるし、おそらくレンツェはリア様が何者か判っていない。リア様を守っている者たちは一ツ神の信徒に対する抵抗組織と重なっているから、抵抗組織を潰す足掛かりになると思って追っているんだろう。
この海賊船はレンツェが広げた網の末端ではあるが、船長が辺境に飛ばされたと思い込んで手柄を焦っていてね、リア様の価値を良く判っていないようだったから、もっと手柄が必要なんじゃないかと教えてやったら、面白いぐらい乗ってきてくれたよ」
「で、全員、カイトにヤラレちまったってことか」
「見聞官殿たちの乗る船と行き会ったのは、狂泉様と海神様のご加護だろうな」
クロは呑みかけていた湯呑を下ろした。
「おいおい。名を口にするのも憚れる御方たちの信徒であるあんたが連れてる子に、狂泉様と海神様のご加護があったって?
それじゃあまるで、リアちゃんは光と闇の神、両方に守られてるみてぇじゃないか」
「それが、リア様の教えてくれない答えなんだろうと、私は思っているよ」
「……」
クロは黙って湯呑を傾けた。何を考えているか判らないターシャの琥珀色の瞳の奥を慎重に探る。
「なあ、伯爵様」
「なんだね。見聞官殿」
「レンツェだかなんだか知らねぇが、つまりその子は、キャナに追われてるってことだよな?」
「そうだね」
「なんでそんなこと、オレみたいな、素性の知れねぇモンに話すんだよ?」
「貴殿は命の恩人だからね。私たちがここにいる理由を話すのは、当然の礼儀だと思ってね」
「そんなタマじゃねぇだろ。アンタは」
ターシャが低く笑う。
「私は見聞官殿がご覧になっている通りの人間だよ。
ところで見聞官殿たちのことだが、やはり、ここのところ噂になっている狂泉様の森人と黒毛の犬の獣人、二人組の賞金稼ぎで間違いないかな」
「そんなに有名か?オレたち」
「情報を集めるのが仕事だからね、私は。集めた情報から裏の事情を推測し、交渉するのが」
「イヤな仕事だねえ」
「『森から訪れし者が、南の国々に秩序をもたらす』」
いきなり言われるのは、ゾマ市で巡察使のダウニに言われて以来、2回目だ。今度はクロは上手くとぼけた。
「なんだそりゃ」
だが、
「カザンジュニアが広めているのは判っているんだよ」
と言われて、絶句した。
ターシャが口元に浮かべた笑みに、はったり半分だったと悟ったが、もう遅い。
「だが、本当にカザンジュニアが自分で考えたのかな」
湯呑を口に運びながら、独り言のようにターシャがクロに問う。
「はぁ?」
「これは本当に、神が下されたご神託かも知れない、そう思ったことはないかね、見聞官殿」
「どういう意味だよ」
「ご神託を下すべき神官も巫女もいないいずこかの神が、カザンジュニアを通じてご神託を下されたのかも知れないということだよ。
少なくとも私は、そう疑っていてね。
だとすると、やはり、あの子、ということになるだろうな」
ターシャが視線を向けたのは、船員たちに混じって働くカイトだ。
「おいおい」
「いらっしゃるだろう?神官も巫女もいない神が。北部トワ郡に。もしかすると、すでに出会っているんじゃないか、見聞官殿たちは」
クロの胸が不機嫌にざわめく。
「オレたちは神々の道具じゃねぇよ」
「ああ、道具じゃない。神々も我々を道具と思っている訳じゃない。
恐るべき我が主は別だが。
しかしね、たまに神々の遊びにつき合うのは、それはそれでなかなか楽しいものだよ。見聞官殿」
「はぁ」
クロは大きなため息を落とした。組んでいた足を解く。
「ダメだ。あんたが何を考えているか判らねぇ。あんたはオレの手に余るよ」
肩の力を抜く。こんな得体の知れねぇ御仁を警戒しても仕方ねぇ。クロはそう判断したのである。
なるようになるさ、と諦めたと言ってもいい。
ちらりとクロの様子を窺ったターシャの口元に、密かに笑みが浮かぶ。
「私が何を考えているか判らないのは、私が何も考えていないからだよ。見聞官殿」
「よく言うぜ」
クロが嗤う。
「そういやあ、伯爵様。伯爵様はモルドに会ったことがあるんだよな」
「ああ、あるね」
「どんなヤツなんだ?モルドってよ」
「とにかく行動力のある方だね」
「あんたと違ってかい?」
ターシャが笑う。
「そうだね、怠け者の私とは違って。執政殿はとにかく目立つ方だ。例え執政殿の顔を知らない者でも、自然と人々の視線が集まるから、ああ、あの方が、と判る。火のような激しさと冷徹さが同居していて、引くことは知っているが、止まることは知らない。
私と違って、休むこともね」
「オレとは友だちにはなれねぇな。そりゃ」
「信奉者は多いよ」
クロが鼻で笑う。
「モルドのホントの狙いは、神々をこの世界から立ち去らせることだっていう噂があるって聞いたんだけど、ホントなのか?」
「その噂は私も知っているよ」
ターシャが頷く。
「神々がいない世界というのは、私も見てみたいとは思うが、執政殿とは意見が合わないところだね」
「へぇ」
「私がキャナを出た理由でもあるよ」
「じゃあ、ホント、ってことか」
「執政殿から直接、聞いた訳ではないけれどね。おそらくは、本当だろう」
クロが首を振る。
「やっぱりオレには理解できそうにねぇや。モルドが何を考えてるのか」
「執政殿は神々と交渉できないよ」
「モルドだけじゃねぇだろ、できねぇのはよ」
「そうだろうか」
「なんだよ。モルドじゃない、別のヤツならできるって言うのかい?伯爵様」
「竜王様にはできただろう?」
「モルドは竜王様じゃねぇぜ?」
スティードの街でムラドに言ったのと同じセリフを、クロが口にする。
ターシャが深く頷く。
「そうだね。執政殿は竜王様とは違う。何が違うのか、それを理解しない限り、執政殿が神々と交渉するのは永遠に不可能だろうね」
「信じられないような快晴だなぁ」
フウの隣に立った船員の一人が笑顔で言う。彼の視線の先には、風を受けていっぱいに膨らんだ帆がある。
「長いこと船に乗ってるけど、こんなに快適に走るのは初めてだよ」
「そうなんですか?」
フウの問いに船員が頷く。
「風は強いのに波が穏やかでほとんど揺れない。まるで海神様の手の平に乗せられて運ばれているみたいだ。ホント、不思議だよ。
えーと。
あんなお人が乗ってるのに」
「伯爵様のこと?」
船員が周囲を窺い、「うん」と小さな声で頷く。
「あの子がいるからかなぁ」
ターシャはリアから離れないようにしている。だが、ずっと側にいる、というのはさすがに無理だ。
リアは一人だった。
フウもカイトも、忙しく働く船員たちも、一人でいるリアを気にかけている。
船縁に立ったリアは、海賊船が蹴立てる波を、風を、遠い陸地を飽きることなく見ている。ターシャに言われているのか、船から落ちないよう、背伸びしたいのをガマンしているようにフウには見えた。
「何をしてるの?」
背後からリアに声をかけたのはカイトである。
リアが振り返る。口元に笑みを浮かべ、両手を身体の前で組んで、しっかりとカイトを見返す。
「なみをみていました。けんぶんかんさま」
リアの返事には落ち着きがある。
まだ幼い外見とのギャップに戸惑いながら、
「見聞官様は止めてもらえるかな。カイトと呼んでもらえる?」
とカイトは言った。
少し考えて、「はい。かいとどの」と、回らない舌で、リアは彼女なりの答えを出した。
背中がぞわぞわするなぁ。だけど、仕方ないかなぁと諦めて、カイトはカイトでリアをどう呼ぼうかと考えて、「ねえ、リア様」と尋ねた。
「リア様って、えーと。何者なの?」
にこりとリアが笑う。
「それはいえません、かいとどの」
「うーん」
カイトが首を捻る。
「ねえ、リア様」
「なんでしょうか?」
「わたしが狂泉様の森を出たのはね、フウを探すためなの。フウを探して森を出て、クロに出会って、北部トワ郡でね、わたし、月の女神さまの祠にお参りしたの」
「つきのめがみさま?」
「うん」
カイトが空を振り仰ぐ。
「昔、空には太陽によく似た大きな星があったんだって。でも、大災厄で落ちて無くなっちゃって、その無くなっちゃった星を、月、っていうらしいんだけど、北部トワ郡に月の欠片をお祀りしている祠があったの」
「はじめてききました」
「わたしね、そこで、フウに会えますようにって、月の女神さまにお願いしたの」
「えっ?」
「そうしたら、ホントに会えたわ」
「ほんとうですか?」
「うん」
「あの」
小さな身体を乗り出し、リアがためらう。
「なに?」
「つきのめがみさまのほこらって、どこにあるんでしょう?」
「えーと。北部トワ郡だけど、どっちかな」
「北部トワ郡なら、そっちだよ」
二人の話を聞いていた船員が近寄ってきて、指をさす。リアの顔に、嬉しそうな笑いが広がる。
「ありがとうございます」
船員が指さした方向にリアが顔を向け、頭を落とす。目を閉じ、胸の前で両手を組む。
「ねえ、カイト。どうしてリア様にあんなことを話したの?」
フウが問う。
月の女神のことだ。
「どうしてかな」
リアを見つめたままカイトが短く考える。
「わたしにも判らないけど、そうした方がいいって思ったから」
「そう」
熱心に祈るリアの姿を見て、フウも頷いた。なぜか、少し胸が痛んだ。
「もしかすると、リア様に話すようにってカイトに囁いたのかな」
「え?誰が?」
「月の女神さま」
「月の女神さまが?」
驚いてカイトがフウを見返す。
「うん」
船員が上げた「船が近づいて来るぞ!」という叫び声が、カイトに答えようとしたフウの声を遮った。
海都クスルに着く前に、カイトたちの乗る船は旅を終えた。
クスルクスル王国の軍船に出会い、海賊船はそのまま軍に引き渡されることになったのである。
カイトたちは軍船に移って海都クスルへと向かうことになり、ここで巡礼船の船員たちとは別れることになった。
ターシャと離れられることになった船員たちはほっとした様子を見せながら、カイトとフウとは別れを惜しんで、船縁に立っていつまでも手を振ってくれた。
海都クスルの港に着いたカイトたちをまず出迎えたのは、港の一部になってる岬にそそり立った巨大な立像だった。
「なに、あれ」
フウが呆然と呟き、カイトはポカンと口を開けた。
壮年の半裸の男が、顎に右手を添え、遠く水平線を見つめている。口髭を生やした口元には厳しさと優しさを湛えた笑みがあり、左手には海神の力の象徴である巨大な鉾が握られている。
見上げる首が痛くなるほど巨大で、大きさの見当がまったくつかない。
「海神様だよ。見たことねえか?」
とクロが言う。
「これを見るのはオレも初めてだけどよ。スティードの街でも売ってただろう?海神様の写し絵とか、胸像とか。これの小さなヤツとか」
「そう言えば」
気に留めなかったが、売っていた気がする。
「これで驚いていたら、この先タイヘンだぞ。お前ら」
「えっ?」
船が港へと入っていく。
海都クスルが見えてくるにつれ、カイトもフウも言葉を失くした。見渡す限り、土地という土地がすべて建物で埋まっている。
右奥には巨大なドーム状の建物が見える。
見たこともない高い塔がこれでもかと言うぐらい並んでいる。
港の一角には、カイトたちの乗るのと同じ軍船がひしめくように停めてある。
港町という意味では同じでも、スティードの街とは、港の規模も、停まっている船の数もケタ違いだ。
「……ここ。何人ぐらい、人が暮らしているの?」
「さあ。オレは知らねぇな」
「50万だよ、カイト殿」
クロに代わってターシャが答える。
「ここが、狂泉様の森の南の国々の中で最大の都市、海都クスルだよ」