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雲を掴む者達  作者: bashi
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世直し一揆の危機

大音諌山は高崎藩の家老である。諌山の「諌」は諫言から取った字で、本名は進太郎であった。年は48歳である。鋭い眼光と少し頬のコケた、しかし体つきは筋肉質な文武両道の男だ。


元々は藩のために様々な意見を、例え藩主にとって耳が痛い忠告も行い、先代藩主から絶大な信頼を得ていた。しかし、大音の政策は規律を求めるがあまり、必要以上に民衆を圧迫することになった。そしてここ数年の飢饉と治安悪化でさらに民衆の生活が困窮しても、大音には締め付ける以外に策は無かった。


大音は自分の書斎に家来を呼び出し、ある計画を伝えた。それは上州世直し一揆の本格的な鎮圧である。さらには太田、伊勢崎を占領した世良田一揆の岩松俊光も一網打尽にするというものだ。


大音はニヤリと笑い、


「まずは手始めに世直し一揆からだ。青葉党は只の烏合の衆だ。放っておけ。高崎藩の兵を5000ばかり差し向けろ。大紋屋の息の根を止める。」



それからの行動は速かった。直ぐに高崎藩の軍を召集し、多くのライフル銃、大砲を用意して、上州世直し一揆へ襲いかかった。大紋屋俊樹も善戦はしたが多勢に無勢。多くの同志を失い。半月の間に、本拠地の北橘村まで追い詰められた。


大紋屋俊樹は悲痛な気持ちで屋敷の外を見ていた。四方を大音の率いる高崎藩に包囲されていた。動ける同志は僅かであった。皆、斬られ、撃たれ、血を滴らせない者は居なかった。高崎藩の総攻撃は恐らく今日中であろう。


屋敷の悲惨さとは裏腹な暑い晴れ晴れとした天気であった。より一層高崎藩を奮い立たせ、世直し一揆を挫く天気だ。


大紋屋俊樹はとっくに死ぬ覚悟が出来ていた。散っていった同志に顔向けが出来るように、多くの敵を倒して果てるつもりであった。


それを止めたのは、腹心の相模源兵であった。


「お頭、ここは私が引き受けます。どうかお逃げください。幸い、岩松俊光様が勢力を伸ばしています。岩松様なら、必ずや血からを貸してくれましょう。あなたはここで死んではなりません。民衆を救うために、志を果たしてください。」


大紋屋俊樹はハッとした。しかし、否定した。


「いや、それはできません。私は多くの同志を見殺しにした。私にはこれ以上生きる資格は無い。それにあなたまで見殺しにすることなど出来ません!」


大紋屋ははっきりと言った。しかし、相模はしわの畳まれた顔を険しくさせ、はっきりと言った。


「頭、同志達は高い志を抱いて死んでいきました。仲間、家族、民衆が豊かに平和に暮らせることを願い、死んでいきました。私もワシもそのつもりだ。あなたにただ生きていて欲しいからではなく、皆の願いを託したい為に逃がすのです。」


大紋屋は動揺した。悲痛であった。しかし、しっかりと相模の意志を受け取った。


「さあ、もう時間がありません。裏道から脱出を。」


大紋屋は目に涙を浮かべて「はい。」と答え、馬に乗り岩松俊光の元へと向かった。


相模は笑顔でそれを見送ると、動ける手勢を従えて高崎藩の大軍へ突っ込んだ。薙刀を携えてそれは大地を揺るがすように敵を切りつけて行った。それはまるでかつての猛将いや、それ以上の戦いぶりであった。高崎兵はあまりにもその迫真ぶりに怖じけ付いた。ライフル兵も弾の装填を忘れてしまった。


遠くの本陣から見ていた大音諌山は、イライラし、こう言った。


「馬鹿な!いちいち雑魚など相手にするな!皆、距離をとり、榴弾砲で一掃しろ!」


命令はすぐに前線に伝えられ、高崎兵は相模達から離れた。相模達は一瞬戸惑ったが、その頭上には大砲が打ち込まれ、弾から大量の小さい破片が降り注いだ。


相模の同志はすでに大量の鉄の破片が突き刺さり、絶命していた。相模も全身を破片が傷つけ、破壊していた。しかし、不思議と痛みはなく、上州世直し一揆に参加し、戦った記憶が生き生きと蘇った。



相模は遠巻きに高崎軍に取り囲まれながら、刀を手に取った。


「大音よ!この戦いは貴様の勝ちだ!だが見ていろ、貴様は岩松様と頭、大紋屋に打ち負かされる。民衆に指示などされぬ者にみらいなど無い!今、この老いぼれが果てる姿をとくと見よ!」


そう言うと、相模源兵は肩首に当てて、自害した。そのあまりにも凄まじい姿に、暫く敵も近づけなかった。


大音諌山は、この戦いに勝った。しかし、雲を掴む者たちの戦いはこれから始まるのだった。



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