高崎宿救援
大紋屋俊樹は直ぐに高崎宿に駆けつけた。高崎宿は火に包まれていた。平時にはいくつもの旅籠が軒を連ねていて活況に満ちていた宿場町も地獄と化していた。盗賊が旅籠から金銭を掠奪し、老若男女問わずに虐殺していた。
「なんてことだ。もっと早く駆けつけていれば…。」
大紋屋はとても後悔した。しかし、事態は一刻を争う。世直し一揆勢は直ぐに展開した。
最新式のライフル銃で狙撃し、刀、槍、鎌の斬り合いがそこかしこで行われた。夜だというのに炎でまるで昼間の用だった。
「中々手慣れている。まさか!あの集団か!」
大紋屋は盗賊の統率の高さに直ぐに感ずいた。高崎、安中を荒らす盗賊集団「青葉党」だと。それは、盗賊の青葉の旗印で予想が現実のものとなった。
「ましてはこんなにも手強いとすると、頭領の槍蛇丸もいるのか!」
槍蛇丸とは青葉党を率いる頭領で、顔には幾つもの傷があり、凶暴な男である。しかし、戦は非常に上手い男である。
大紋屋が動揺していると、相模源兵が励ました。
「大紋屋、相手が手強いといえど、我々がやることは変わりません。民の命を守ることです。ここで我々が戦わねば、大勢の民が死にます。」
大紋屋はそれを聞いてはっとした。今は盗賊を追っ払らうことが重要である。大紋屋は奮起した。自らも槍を持って賊を倒していった。
大紋屋は10人倒したところで、槍蛇丸を見た。暴れ馬を巧みに操り大暴れしていた。大紋屋は直ぐに勝負を仕掛ける。
「俺は世直し一揆頭領の大紋屋俊樹。貴様の命、頂戴する!」
大紋屋の槍が光る。すぐさま槍蛇丸も応戦する。
「はっ随分威勢の良いこと言うじゃないか!喰らえ!」
槍蛇丸の長槍も光る。馬上でお互い一進一退の攻防であった。しかし、槍蛇丸の方が一枚上手であった。じりじりと大紋屋は押されていく。
大紋屋も、もうダメだと思っていると槍蛇丸は槍を納め、手下を率いて退散した。
「もう、充分狩りは出来たし、お前とお遊びもできた。あばよ!」
笑いながら槍蛇丸は退散していった。大紋屋は呆気に取られたが、直ぐに救援活動を行った。人々を救い出し、傷の手当てを行った。日はすっかり、登り、昼となっていた。
救援活動も終わると、旅籠を取り仕切る利根屋の主人がお礼を言った。
「この度は本当にありがとうございました。このありさまで、何にもお返しができないのが残念でなりません…。」
かれは焦燥しきっていた。
「いえいえ、こちらこそ到着が遅れて申し訳ありませんでした。高崎藩もあてには出来ないでしょうから、我々もできる限り復興の手助けを致しますので、気を落とさないで下さい。」
利根屋の主人は頭を垂れて、ただ涙を流すのであった。