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雲を掴む者達  作者: bashi
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槍蛇丸の半生

槍蛇丸身長が190cmを超える大男であった。頭の天辺に髪を結んでいた。顔は本来であれば、二重で童顔で好青年といった顔立ちはであったが、長年の苦痛と罪を重ねたことにより、目はギョロリとして、深いシワが畳まれていた。


槍蛇丸という名前は、槍さばきが達者なのと、蛇のようにネチネチと獲物を追い詰める有様から、自然と自他ともに根付いていった。


槍蛇丸の人生は、絶望の2文字以外に言い表せない。生まれたときは酷い飢饉が起こっていた。5人の兄弟が居たが、物心がついたときには、衰弱死した兄達の埋葬をしていた。父はなんとか食い扶持を見つけようと頑張ったが、梅平政権の政治的混乱とイギリスによる侵攻による混乱により、苦労は水の泡になった。結局飢えからは逃れられず、父は路端で野垂れ死んだ。残された母と兄弟は、只々死を待つだけであった。母は結局、妹に出ない乳を与えているうちに衰弱死した。こうして槍蛇丸には幼い妹のみが残された。絶望的な状況で妹だけが希望であり、生きがいだった。二人寄り添うように、なんとか生きてきた。しかし、事件が起きる。お互いあまりの空腹に苦しんでいた。ちょうどその時、二人の近くの道には位の高い武士が行列をなしていた。しかし、道の向こう側に、野猿が捨てた柿があった。妹は柿へ一目散に駆けていってしまった。槍蛇丸はやばいと思った。行列を遮ると、しかし、子供には手を出さないだろう。そう思った。しかしそれは希望的観測であった。栄養をしっかり取った大きな男たちは、骨に革を貼り付けたような妹を囲んで殴り蹴り、取り囲んだ。助けようとしたが、槍蛇丸はただ殴られるだけだった。


そして、輿から若い大音諫山が出てきた。あれは忘れもしない。大音は笑いながら刀を抜くと、妹を斬り殺した。か弱い妹は、胴体が離れていた。そして、何事もないように行列を進めて行った。槍蛇丸あまりのことに泣けなかった。泣くことを忘れてしまった。それを見ていた見物人も助けてくれなかった。槍蛇丸の心から一切の希望が消えた。


それからはひたすら盗み、奪い、殺していった。真っ当な行き方なんて考えられなかった。仏なんか見てくれていない。正しい生き方をしても自分には無意味だ。そう思った。気がついたときには、目を当てられないほどの罪を重ねていた。もう人生をやり直せる状況ではない。しかし、そんな状況でも大音への殺意が消えることは 無かった。それどころか、増大された。


そんな時だった。岩松俊光と出会ったのは。最初は胡散臭いと思った。民のため、上州のためなど胡散臭いと思った。しかし、戦ってみたら考えが変わった。こいつは本物だ。戦が強い。命をかけられる。そして超越した霊的な力。敗北して始めて気づいた畏怖の気持ち。すべてにおいて岩松に敵わないと悟った。


殺されるなら岩松に殺されたいと思った。しかし、彼はそれをしなかった。それどころか、自分を労ってくれた。始めて人間と認めてくれてた。このときから、むやみに人を殺そうとは思わなくなった。力を岩松はあたえてくれたのだから。


岩松は最後まで俺の作戦には反対だった。しかし、自分にはそれで十分だった。それだけで生きていて良かったと思った。


そして大紋屋のことも衝撃だった。一度戦った際、彼の真っ直ぐな清純さには目が眩んだ。それでいて戦にも強い。現実から逃げない。自分に無いものを彼は全て持っていた。しかし、それ故に甘さも感じた。この真っ直ぐな気持ちを甘さで途絶えさせたくは無かった。岩松と大紋屋が協力すれば、上州の平和や民の暮らしは安泰になるだろう。いや、もっと大きい成果が得られるかもしれない。それ故に、大紋屋には自分の穢れを教え、覇道の道は清純のみではいけないと伝えたかったのだ。


槍蛇丸はひたすら大音諫山を追っていた。三日三晩絶えず追った。その都度青葉党からの子分が倒れていった。槍蛇丸は虫の息の子分を介抱した。死の間際に子分はいった。


「親分、おいらはもうダメでさぁ。お、お先に行ってます…。」


こう言い残して死んだ。槍蛇丸も笑顔で「おう!」と答えた。


槍蛇丸の作戦通りに赤城の山に大音は逃げ込んだ。


槍蛇丸は自分が殺した者達から受けた恨み、呪いを引き出した。そしてその負の覇気は道の草花を枯らした。


「待っていろ…。大音!」


白目をむきながら、不気味な笑顔で槍蛇丸は大音へ向かっていった。






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