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雲を掴む者達  作者: bashi
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富士見台の戦い

大胡からさらに進軍した岩松軍は、富士見台に陣を構えて高崎軍を待ち構えた。塹壕を掘り、大砲を配置した。


一方で高崎軍は、大音諫山が直接軍を率いて向かってきていた。数は岩松軍の3倍であった。大音諫山は油断はしていなかったが、負けるとも思っていなかった。なぜなら、前のような作戦にはしっかり対策をしていたからだ。黒威しの鎧に身を包んだ大音は、ほくそ笑んで


「見ていろ、岩松。お前の野望なんて所詮はゴミクズであることを教えてやる!」



前の野営の夜から5日後には両軍は相対していた。


岩松俊光は富士見の小高い山に布陣すると平野に展開する大音の大軍を見つめていた。彼の胸には悲しみが宿っていた。それはこの戦いの結末を予見していたからだ。


「槍蛇丸・・・。」


ポツリと岩松はつぶやいた。


大紋屋も準備万端であった。岩松に合図を送った。そして岩松は全軍に号令をかけて攻撃を開始した。

山砲の轟音が平野にこだました。しかし、大音の軍は全くひるまなかった。大音は軍を進軍させる。高崎軍の兵士が構える銃と銃剣が鋭く光っていた。


岩松軍より三倍の兵力の高崎軍が岩松軍を押し始めた

。すると、再び槍蛇丸の騎兵隊が突撃した。今度は農家の民家に潜んで待ち構えていたのだ。槍蛇丸の騎兵隊が大音軍の横っ腹を着くように突撃した。大紋屋もこれで敵の陣形を崩せると期待した。


しかし、そうはならなかった。大音はすぐに陣形を整えると、上手いこと騎兵隊から距離を取って、騎兵隊に向かって一斉射撃をした。この大軍であれば、塹壕で応戦する岩松軍の本隊と騎兵隊に対応することなど造作もないことであった。大音も思わず笑が浮かぶ。


「やはりか、一度勢いを崩せれば所詮は烏合の衆よ。あの盗賊崩れを一網打尽にしてしまえ!」


大音の軍は岩松の本隊に野砲を浴びせつつ、陣形が崩れた槍蛇丸の騎馬隊にさらに突撃した。騎馬隊はバタバタ倒れた。弾は槍蛇丸に命中し、槍蛇丸は地面に倒れた。大紋屋はあっと言いかけると、


「よし、全軍撤退する!」


岩松は突然号令をかけると、一斉に全軍に後退を始めた。大紋屋はまたしてもあっけに取られたが、今度はすぐに岩松の意を汲んだ。

「これでもう我らの勝ちだ!隊を整えつつ、迅速に撤退するぞ!」


大紋屋はまた岩松に一本取られたと思った。しかし、岩松の作戦に乗らないと、この戦いには勝てない。大紋屋はこのような岩松の采配に悶々とする自分の未熟さに気がついた。



この光景に一番驚いたのは大音であった。追撃するか?いや、こんな非常識な作戦はどう考えても罠だ。対策を・・・。


こう考えていると、隊が崩れていた騎馬隊が一斉に大音に向かって突っ込んできた。皆銃弾を浴びてボロボのはずだ。しかし、もはや人知をこえた騎馬隊の所業の前に、大音は辟易した。その時、大音の肩を叩く者が居た。振り返る。


「よお、大音諫山。久しぶりだな。」


それは、血まみれの槍蛇丸であった。大音は驚愕した。すでに大太刀が振り下ろされていた。とっさに避けたが、槍蛇丸の追撃は止まらない。気付けば、大音の隊は完全に本隊と分断されていた。しかし、今はひたすら逃げるしか無かった。大音は僅かな供廻りと脱出した。


高崎・前橋藩の連合軍は、大軍であるはずなのに、大音の逃走を見て、散り散りに崩壊した。そして、大多数は岩松軍に降伏した。多くの兵士たちにとって、本音は岩松の政治に期待していたのだ。


多くの部下を槍蛇丸は失った。しかし、槍蛇丸は悲しくはなかった。それどころか、不穏な笑みを浮かばせながら、大音の逃げた方向を眺めていた。


「待っていろ・・・大音・・。止めを刺してやる・・・。」


その時の槍蛇丸の様子は、もはや人間ではない。悪鬼である。後世にこう伝わった。



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