岩松と槍蛇丸の真意①
高崎、前橋藩の軍が大胡で敗北したことはすぐに前橋城にいる大音諫山に伝えられた。大音は驚くとともに激しく怒り狂った。
「何だと!?あの世良田のガキに!?舐めた真似をしてくれたな!」
部下の酒井に多くの岩松に対する罵詈雑言の言葉を吐いて
「よし、こうなったら俺が直々に軍を率いる!」
大音の決意はもう誰にも止められなかった。
一方で大胡の戦いで勝利を収めた岩松軍は、大音が籠もる前橋城に向けて進軍していた。そして、夜になり、富士見村で野営することになった。大紋屋俊樹は前回の戦いでの岩松の采配に疑問を抱いた。味方をあまりにも欺きすぎる。特に近いはずの自分にすら打ち明けていなかったのだ。大門屋はすぐに兵士たちと馬鹿騒ぎをしている岩松を捕まえて、二人きりになり問い詰めた。
「岩松殿、なんだか水臭いですね。作戦のことは多少は私にも教えてほしかった。」
岩松は静かに数回うなずいて
「確かに君の気持ちを分かる。それは申し訳ない。このとおりだ。しかし、それは君を信頼してのことだ。君の能力なら私の機転に上手く動いてくれると信じていたからだ。」
大門屋は納得しなかった。
「だからって!・・・」
「それに君は槍蛇丸を信用していない。残念ながらね。」
「・・・。」
大門屋は言い返せなかった。
「いいかい?俊樹くん。革命というのは清い使命、正義感が何よりも大切だ。間違いなくね。しかし、清いだけではあっという間に瓦解する。成功してもたちまち民衆を抑圧する独裁者に成り果ててしまう。俺も色々と見てきた結果、どうしてもこう思わざる負えない。」
大門屋もとても心当たりはある。正しく自分はそれで上州世直し一揆を壊滅させてしまった。正しい行いをしていれば、世間が認めてくれて革命も成功する。そう思っていた。甘い考えであった。力が必要だ。戦いに勝てる力を…。
「俊樹君、俺も気持ちは同じなんだ。民が苦しむ姿を見たくない。上州を豊かで平和な土地にしたい。自分の為なんて微塵も思えない。だから、これからも俺と共に戦ってほしい。」
「それは…。もち…。」
もちろんとすぐには言い出せなかった。すると、焚き火を囲んで盛り上がっている兵士たちが誘ってきた。
「岩松殿、大門屋殿、へそだし踊りが盛り上がってますよ!一緒にやりませんか?」
「おお、いいね!私も交ぜてもらおう!大門屋君もどうだい?」
「いや、少し夜風に当たりたいから遠慮しておきましょう。」
「そうかい?分かった。私はいっちょ踊ってくるぞ!」
そうして岩松は上着をめくりあげて腹に緩い顔を書いて踊り出した。鍛えられて締まった腹も、たちまち滑稽になった。
大門屋はひとり喧騒からは離れて夜空を見上げていた。すすきは風になびき、夜空は大門屋の心を他所にただ輝いていた。
すると、草むらから大門屋を呼ぶ声が聞こえた。
「よっ、大門屋!」
それは槍蛇丸であった。
「やっ槍蛇丸!?」
「しー!静かに。あまり俺が近くにいると知られたくない。岩松殿から言われているからな。」
大門屋は驚きながらも、槍蛇丸と話し始める。