大胡の戦い②
高崎軍はゆっくりと進軍した。兵士たちも、すでに勝利を確信していた。いかに相手が死にものぐるいで戦ってくるか?それにより無駄に命を落とさないかを考えていた。そして、兵士たちは大音諫山が大嫌いであるが、勝てば飢えることはないと思い、戦の後の生活のことを考えていた。大音がいる限り、圧政が続くとも知らずに・・・。
岩松軍は悲痛な気持ちで敵の進軍に備えた。ぬかるんだ塹壕に籠もり、銃を構えている。高崎軍は作物に群がるイナゴのように脅威に見えた。
そして高崎藩から大砲が撃ち込まれ、戦闘が始まった。高崎藩は銃撃しながら勇ましく突撃をする。岩松軍も大紋屋と岩松が指揮して決死の突撃を開始した。
戦いの序盤で高崎軍にある報告が入った。それは近くの岩松の支配下に入っている村に軍が手薄なのを狙って野盗が略奪をしているというものだ。当然それに岩松が対処できなければ領内全体が岩松を見限る可能性もある。高崎軍の将軍たちはより一層勝利を確信した。そして皆思った。泣きっ面に蜂とはこのことだ。戦に負け、盗賊に略奪され、民衆から支持を失う。なんのために決起したのか分からないじゃないか?これほど面白いことはないと。再び略奪されている村に斥候を派遣した。
斥候が再び村を視察すると、相変わらず野盗が略奪していて、大声を出しながら暴れまわっていた。しかし、しばらくすると様子が変わった。さっきまでバラバラに暴れまわっていた野盗が略奪品を捨てて皆乗馬して同じ方向に向かって走り出していた。そういえば、金目の物は取ってない。村民に乱暴している様子もない。まるで、ほつれた糸が寄り合って布になるかのごとくに整然と動いていた。この方向は今まさに戦が行われている場所だ。岩松を襲うつもりなのか、それとも・・・。斥候は思案をしている間に意識を失った。今まさに遠くから騎馬の野盗が正確に斥候に射撃をしたからであった。
岩松と高崎軍の戦いはより激しさを増していた。しかし、確実に岩松軍は押されていた。大紋屋はいよいよと思い、岩松俊光の部隊以外の兵士たちに撤退の号令を出そうとしたときに、遠くから雄叫びと馬の足音を聞いた。
大紋屋は何事かと思った。それは騎馬の大軍であった。身なりはみずぼらしい野盗のような姿であった。その大軍は一気に高崎軍に突っ込んでいった。高崎軍はあっけにとられた。そして、わけも分からず斬られ、撃たれ、刺されと蹂躙されていった。さっきまで優勢だったのが嘘のようであった。大紋屋はあっけに取られていると、野盗の中に槍蛇丸の姿を見かけた。ボロボロの和服の下に鎧を着込んでいるが、鋭い眼光とキリッとした顔立ちは正しく槍蛇丸であった。槍蛇丸は大紋屋と岩松に向かって叫んだ。
「よお。相変わらず遊んでるなあ。俺も混ぜてくれよ!」
槍蛇丸は得意げであった。
岩松も手を振りながら。
「よし、よくやってくれた。よくバレずに動いてくれたな。思う存分やってくれ!」
「おうよ!」
槍蛇丸は元気よく答えて高崎藩に突撃していった。こうなると戦いは一方的であった。高崎軍はどんどん追い込まれていった。大紋屋は自分が知らない所で別の作戦があったとようやく気づいた。
「岩松殿、あなたという人は。」
「すまんな。一応は危険な作戦だから君には本当に撤退してほしくてね。しかし、これで逆転できるな。」
そして岩松は全軍に号令をかける。
「よし、計略は成功した。今こそ勝機だ!思う存分今までのお礼をしようじゃないか!いくぞー!」
岩松軍は勢いづいて高崎軍に攻撃をかける。槍蛇丸の騎馬隊も敵を分断している。そして、時間もたたないうちに高崎軍は壊滅して、散り散りに逃げたいった。そして槍蛇丸の騎馬隊もばらばらに四散して姿を消した。
「よし、我軍の完全勝利だ。また頼むぞ槍蛇丸!」
岩松はそうつぶやき、勝利の号令を出した。今までの苦労が報われた兵士たちはバンザイ三唱をしていた。それは大胡の夕焼けにひたすらこだましていた。大紋屋は複雑な気持ちで岩松俊光を見つめるのであった。