大胡の戦い1.5
冷たく陰湿な雨は塹壕にこもる岩松軍に降り注いだ。雨のせいで塹壕はぬかるみ、ネズミも出たきた。大紋屋は一生懸命兵士たちを励ました。しかし、その頑張りを打ち消すかのように雨脚は強くなるばかりであった。岩松も常に腕を組んで険しい顔で物思いにふけった。
戦の様子は大音諫山にも報告されいた。
「しめしめ、やはり一度勢いを崩されれば烏合の衆だな。味方は一部戦う前から脱走したらしいしな。」
大音はこのときすでに勝利を確信した。
「よし、今から3日以内に雨が上がり次第総攻撃を開始しろ、賊共を一網打尽にしろ。」
大音は側に控えていた家臣の池田義信に命令をした。
大胡の雨が止んだのはそれから2日後のことであった。岩松軍にとっては不快な雨が止んで喜ばしいどころか、寿命が縮む思いであった。高崎藩軍からは太鼓の音が聞こえてきた。そして、ゆっくりと確実に岩松軍を仕留めんと進軍していった。
大紋屋はいよいよ覚悟を決める。しかし、岩松は念を押すように
「いいな?我軍が押され始めたら俺を気にせず後退命令を出して撤退するんだ。俺の部隊がなんとか食い止める。」
「岩松殿・・・。」
「ま、俺は君に出会えてよかった。それだけは伝えておくよ。」
大紋屋はこれ以上何も言えなかった。只々胸には悲しみを抱かずにはいられなかった。