大音の企み
大音諫山は数日前から岩松軍の噂を耳に入れていた。高崎、前橋方面の宿場町では岩松軍の規律が無くなり、士気が下がり、略奪が横行しているという噂である。最初は大音も些か信じたが…。
大音は家臣を書斎へ呼んだ。そして家臣と話し合った。
「なあ、池田。ここ最近広がっている岩松、いや世良田一揆の噂は聞いているだろう?」
「はい。やはり大きくなった集団を束ねられていないのかと。」
その言葉をすぐに大音は否定した。
「いや、そんなことはない。そんな弱みがあるなら、岩松は押し隠すはずだ。あいつは由良の支配下にある頃からずる賢いともっぱらの評判だ。これは我らをおびき出し足すための罠だ。」
家臣の池田義信は大音の才覚に改めて感心しつつ
「なるほど。そうであるなら、まだ私たちは兵を向ける機会にはないと?」
「いや、そうは思わない。この誘いにあえて乗ってやろうと思う。どうも向こうに決定的な戦略がなさそうに見える。ただ死にものぐるいの覚悟ぐらいしか感じない。それだけでは戦に勝てないことは世良田どもも重々承知のはずだ。」
「では、いよいよ岩松を滅ぼすときですね!」
「左様だ。すぐに戦の準備だ。」
それから1ヶ月が過ぎた頃には高崎藩は前橋藩との連合軍を完成させていた。大紋屋俊樹の上州世直し一揆を壊滅させた兵力よりも多かった。
先祖代々の鎧を身にまとった大音諫山は軍勢に激を飛ばした。
「よいか、皆の衆!今こそ上州の腫れ物を取り除くときだ。我ら高崎、前橋藩の強さを百姓共に見せつけ、変な気を起こさせないように圧を与えてやるのだ!いざ、進め!」
こうして、大音の大軍は、明朝の暁とともにまさに岩松軍に襲いかかろうと動きだしたのであった。