闘いの始まり
高崎藩領は岩倉宿の茶屋で、袴安は休んでいた。榛名山を望む景勝の宿場町も、新田の騒動で慌ただしい雰囲気であった。関所の取締も厳しく、袴安ほどの忍でないと、到底入れなくなっていた。
「なあ、女将さん。」
袴安は、高崎藩領の様子を聞いた。大音諫山の取締が益々激しくなったこと。そして、相変わらず盗賊どもが跋扈していることなどだ。
「なるほど、役人は結局数字主義で取締をやってるんだな。これを好機と世直し一揆の連中を刑死させようというわけだな。大音め、ろくでもない奴だ。」
「そうなのよ。近頃は治安も悪くなったし、弾圧も酷くなったし、酷いものよ。本当は世直し一揆を応援したいんだけどね。」
このような話をしているとき、1人の男が茶屋に飛び込んで来た。男は息を切らし、額から血を流している。
(盗賊に襲われたか・・・。それにしちゃあ・・・。まさか。)
幸い、茶屋は、女将と袴安だけだった。
「おい、女将。その男を裏の蔵に隠しときな。」
「え、でも・・・。」
「いいから。追っ手がすぐに来るぞ。見つかったら女将もどうなるか分からねえからな。」
女将は了承すると、すぐに男を隠した。追っ手の役人達が、すぐに怒鳴り込んできた。
「おい女、一揆の輩は来なかったか!」
役人の顔は真っ赤になり、殺気に満ちている。今にも女将を叩っ切ってしまいかねないほどであった。
「なんでい、うるせえなあ。」
余裕綽々と袴安は呟いた。
「何だ貴様は!」
「全く、上田から山道歩いてやっと茶屋で腰を下ろしたと思ったら、なんでい騒がしいなあ。」
「あ、なんだ貴様、その態度は。」
「まあ、まあ、そう怒らんと。私とて武士の端くれなんですから。」
「貴様、舐めているのか?」
「いやいや、。まだ怒りが収まらないようだ。そうだな、いい情報を教えて進ぜようか
。その怪しき男は、息を切らしながらこの茶屋に入っていき、俺を匿えとほざいた。しかし、私は人の迷惑を考えない輩に、出て行けと言った。そうしたら、風のように山の方へ逃げていきましたよ。」
「さすれば貴様、犯人をみすみす見過ごしたと言うことか?」
「おっと、ここで油を売っていてよいのかな?一揆の輩であれば、また何をするか分からん
ぞ。さ、早く追いかけに行かないと。」
そう言われると役人は、すぐに茶屋を出て行った。
「おい、男。出てこい。」
袴安がそう言うと蔵に隠れていた男は、そそくさと出てきた。
「お前、一揆の奴だな。」
男は徐に口を開いた。
「左様。上州世直し一揆の主任、相模源兵でござる。」
「ほう。主任ほどの男が、このざまとはな。」
「・・・。我々の奮闘虚しく、藩兵は最新式の武器で身を固め、盗賊には攻められ、もう手立てがなく・・・。こうして今はただ逃げまとうことしかできず・・・。」
「それはお前さんらが大勢の敵に立ち向かおうとしてるからだ。藩兵と盗賊と戦うなんてお前らじゃ無理だ。そうだな。お前らは盗賊を相手にしろ。藩については・・・。」
「藩については?」
「大音諫山を倒せば高崎藩の牙が折れる。」
「・・・。さっきから妙に慣れた口調をいたしているが、あなたは一体・・・?」
「俺は岩松軍。いや、巷では世良田一揆と呼ばれている・・・。」
「!。岩松俊光の!。」
「そうだ。俺は岩松俊光の忍だ。俺達に任せろ。」
相模は驚きの眼差しで、袴安を見つめていた。
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