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忘却のシルバースティング  作者: 浜能来
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三話その2 EGO

 突如横寺さんの前に現れた、白髪混じりの初老の男。丸メガネの男、シュレディンガーに紹介された彼、ノイマンは、横寺さんの拳を片手で受け止めていた。

 出鼻を止められた横寺さんの拳は動かない。

 横寺さんが舌打ちをした時か、はたまたノイマンの眉がピクリと動いた時か。二人の手の間の均衡が破れ、横に流れる。

 間髪入れずに横寺さんはバックステップを踏み、間合いを放していた。


「どうじゃ、面白かったであろ」

「……え⁈ いや! 何があったの⁈」

「騒がしい、落ち着かんか」


 メメちゃんは両耳を塞いでそう言うが、到底落ち着けるものではない。


「ふむ、君が私を蘇らせ、いや、模造したのか」

「流石の慧眼ですね、ノイマン」


 対してノイマンは、欠片の逡巡もないように見えた。一度辺りを見回した後は、研究者然とした丸顔を横寺さんから離さない。季節に合わぬスーツ姿が、そこに威圧感を加えている。


「あの人も、ノイマンも、オーバーチューンなの……?」

「そうじゃ。ほれ、パソコンがなくなっておろう?」


 メメちゃんが顎でしゃくる先にはパソコンの列があって、しかしその列には空白があった。確か、シュレディンガーが手をかざした辺りだ。


「オーバーチューンは、憑代に記憶を植え付けて造られる。ノイマン、コンピュータの生みの親には相応しい憑代であろうよ」

「そうなんだ……」


 はっきり言って、全くピンとこない。ノイマンという名前は初耳だし、なぜコンピュータの生みの親が悪魔と呼ばれるのか。

 その不安感も相まって、二人で円を描くようににじる横寺さんとノイマンから、目が離せない。

 横寺さんは構え、ノイマンは散歩しているかのように無手である。そこにある不思議な緊迫感は、私どころか娯楽気分の観客すらも黙らせていた。


「青年、私は無益な労力を嫌う。引いてはくれないか」

「悪いけど、契約なんだよ」


 いつのまにか、二人のロンドには雄々しくも優雅な伴奏が付いていた。机のちょうど空いたスペースに腰掛けて、シュレディンガーが鼻歌を歌っているのだ。実験だと言っていた彼は、あろうことか目を瞑ってさえいた。


「あんたこそ、戦う理由なんてないんじゃないか?」

「その通りだが、仕様がない。推察するに、私は彼には逆らえないのだ」


 まだか。まだか。まだか。

 言葉を交わしつつも、横寺さんは拳や重心を軽く動かす。多分、フェイントだ。

 ノイマンは、そのどれにも反応を見せない。冷徹な瞳で、相手をつぶさに観察する。

 生唾が、喉を通り過ぎた。


「——シッ!」


 横寺さんの鋭い吐息。

 横寺さんは大きく一歩を踏み出し、前に出した左手で空気を裂く。

 ノイマンに退路はない。背にはパソコンの列があるのだ。

 頭部を狙う左拳、それをノイマンは頭をずらして避ける。その反応は実に鋭敏。拳は何度となくノイマンの頭部を狙うが、その全てがかわされる。

 そして、何発目だったろうか。ノイマンが横寺さんのパンチを右に避けた時だった。

 そのまま抜けようとするノイマンを、回し蹴りが襲う。芸術的なまでに鋭く、ノイマンの横腹へと向かって——

 ノイマンは、それもかわしてしまった。

 大きくしゃがみこみ蹴り上げられた足の下を抜ける。そんなことをして追撃があったらたまったものではないのに。けれど横寺さんは次の攻撃に移ることができない。


「ちいっ!」


 横寺さんが構えを取り直す頃には、ノイマンは後ろ手を組んで立っていた。まるで、何事もなかったかのように。

 仕切り直しだ。

 リノリウムの床が悲鳴を上げる。

 横寺さんは横に回転し、裏拳を繰り出す。

 彼の背に隠れて見えなかったはずの拳。そんな一撃すらもノイマンはかわす。右手を斜めに構えて受け流す。

 横寺さんの攻撃はそれすらも織り込んでいて。続く掌底でノイマンの顎を狙っていた。

 だが、またしても彼の腕は空を切るのだ。


「まったく、お粗末なものだ」

「余計なお世話だっ……!」


 言葉を交わしながら、交わすものは言葉だけでない。片や攻め、片や受ける。止むことなき応酬だ。


 ――おかしい。


 レベルの高い二者の魅せる格闘とは、素人目にもそれとわかるものだ。まだろくに九九も言えぬ頃、父親の見ていたテレビで、わけもわからぬため息がほうと漏れたことがあった。

 だというのに、観客の子供にはつまらないと愚痴る者がいる。

 横寺さんの技量が低いのではない。彼の拳は直線的に最短距離を進むのだ。彼の蹴りは風切り音を伴うのだ。

 粗雑でお粗末なのは、ノイマンだ。

 今も攻撃をかわしてはいるが、美しさがない。洗練がない。初動が恐ろしく早いから、フェイントに釣られないから。彼の強さはそこに尽きる。

 つまり、次第にノイマンが押されるのも、当然なのだ。


「ふっ!」

「んむっ!」


 ノイマンのガードを割って拳が彼の腹に突き刺さる。ノイマンが初めて表情をゆがめる。たたらを踏む。

 好機だ。肉薄する横寺さんを見てついつい拳を握りしめてしまう。応えるように観客も沸く。


 その中で、一つの呟きがあった。


「もう、よいか」


 痛みをこらえるように前かがみになっていたノイマン。もはや前すら見ていなかったノイマン。

 そんな彼が、前進の勢いの乗った横寺さんの拳を避けた。

 さらにはその腕を取り、自分の後背へと引き倒して見せたのだ。今まで攻撃と言った攻撃のなかったノイマンが。

 横寺さんの倒れる音が、周囲の盛り上がりに冷や水をかける。横寺さん自身、驚愕の色を顔ににじませていた。


「何ともまあ単調な男だ。まぁ、こちらとしては助かるのだが」

「……あぁ、そうかい」


 さらりと言ってのけるノイマンに、憎々しげに答える横寺さん。彼の顔に先ほどの驚きは既になく、見下すノイマンをきっと睨み返す。


「まずいの」

「な、何が?」


 突然、メメちゃんが不穏な言葉を呟く。その真意など知りたくないが、私は聞き返さずにいられなかった。彼女は再度向かい合う二人をつまらなさそうに眺めながら答える。


「あやつとノイマンとでは、相性が悪い」

「どういうこと?」


 両手をあげて構える横寺さんに、ノイマンは眼前に何もないかのように歩み寄る。


「あやつは自分から攻める手を知らぬのよ」

「……へ?」


 そんな馬鹿な。口から出かかった反論は、なぜだか外へと出られない。

 思い出せば、コンビニでの彼は相手の攻撃にたいしての反撃ばかりだった。図書館でも、彼が先制したのは最初の蹴りだけだった。

 ノイマンの言葉が頭をよぎる。お粗末、単調、それらの言葉が事実なのだとしたら。


 私の顔からさっと血の気が引いた時、横寺さんはノイマンの接近に耐えきれず拳を繰り出そうとしていた。

 まさにその瞬間だ。ノイマンの拳が横寺さんの顔面を捉える。横寺さんよりも早く。


「横寺さんっ!」


 横寺さんは軽くよろめくが、なおも次の攻撃を繰り出す。残っていた方の拳をフック気味に打ち出す。

 だがそれも出頭を腹部へのパンチで止められる。

 姿勢を崩しながらも未だ横寺さんは攻撃の意志を消さない。回し蹴りを放とうと足をあげて。

 上がった時にはまたも腹部に前蹴りが突き刺さっていた。


「がっ……ふっ!」


 こらえきれず、横寺さんは二歩、三歩と後ずさる。息も荒く、片手で腹を抑えている。視線だけはノイマンを捉えて離さない。

 ノイマンは冷酷な視線を送り返す。追撃しないのは傲慢でなく、勝利への確信がそうさせるのだと、堂々たる立ち姿から伝わってくる。

 もう見ていられなかった。できることならば、今すぐ出て行って彼を助けたかった。

 私が衝動的にならずにいられるのは、気づいた時には肩におかれていたメメちゃんの手のおかげだ。


「降伏してはどうだ、青年。おそらく、君が我が主人の邪魔をせねば、問題はないはずだ」

「それができたら、苦労しないって!」


 裂帛の気合とともに横寺さんはまたも攻撃に出る。


「なるほどの」


 メメちゃんは納得するが、私にはわからない。これでは、また繰り返しだ。しかも、左パンチ。最初にかわされた攻撃。

 そして左拳が発射され、私は声にならない悲鳴を上げる。目を瞑らずに済んだのはたまたまだ。

 そんな私の見る中で、拳は着弾の前にぴたりと止まる。


 ――フェイントだ!


 ノイマンがフェイントに釣られれば、横寺さんは自分の得意な土俵に持ち込める。勝ちが見えてくる。横寺さんの考えがやっとわかった。

 わかっても、その通りにはならない。

 ノイマンは何の反応も示さなかった。じいっと彼を見るばかり。

 それだというのに、フェイントに続いた右のアッパーにはきちんとカウンターをかぶせていく。

 その後、数度横寺さんは攻撃を仕掛けた。私には気づけていない牽制もあったのだろうけどノイマンが罠にかかることはない。

 最後には拳にハイキックを返されて。横寺さんは足元も不確かによろめく。

 観客のところまで下がった彼は、彼らの手を借りて姿勢を持ち直す。

 左まぶたは腫れあがり、鼻血がつうと垂れている。彼は鼻下の血を勢いよく親指でぬぐい、言う。


「やっと、あんたのからくりがわかったよ」

「ふむ、あまりに遅いな」

「そう簡単に、信じられるかよ」

「愚かな。事実が、いや、数値こそが全てだ」


 言葉とは裏腹であるが、不敵に笑う横寺さんにノイマンは感心を示すように鷹揚な頷きを返す。言い換えれば、横寺さんの言う『からくり』が実在するということ。

 目線でメメちゃんに問いかけると、片眉をあげて応じてくれた。


「シェイクスピアを覚えておるか?」

「え? うん、覚えてるけど」

「やつが手帳に何かしらを書くとリア王が変化を見せなかったか?」

「……確かに」


 なぜシェイクスピアの話かと疑問は持つが、確かに彼が手帳に何やらを書きつけるたび、リア王は変化を見せた。


「あれがシェイクスピアの能力。オーバーチューンとは名の通り、元となった存在の長所を暴走させ、能力とするのじゃ」

「じゃあ、ノイマンは……」

「ノイマンは悪魔。自分の作り出したコンピュータより素早く計算をなす、悪魔的頭脳の持ち主。つまりその能力は」


 メメちゃんの言葉の続きは、ノイマンに向かって話す横寺さんが引き継いだ。


「ノイマン、お前の能力は、超速の計算能力。そこから派生した、未来予知にも等しい予測演算だ」

「予知などと。あのような世迷言と同列にしないでもらおうか」


 平然と受け答えするノイマンに、横寺さんは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 当たり前だ。未来の見えている相手にどう戦えばいいのだ。あの不自然なまでの正確な回避は、反撃は、すべて必然だったのだ。


「横寺さん!」

「……凜花ちゃん?」

「逃げましょうよ! 未来が見えるなんて……勝ち目が、勝ち目がないじゃないですか!」


 もう嫌だった。

 もちろん、これまでだって嫌だった。横寺さんが、私の王子様が、目の前で生傷を増やす姿を見て、どうして心痛まないだろう。

 横寺さんが殴られれば、私の心は痛んだ。横寺さんが蹴られれば、私の心は痛んだ。きっとそれは、横寺さんと同じか、それ以上に痛いものだったに違いない。ただ、実際に痛みを受ける横寺さんの前で、私がそんなものを表に出せなかっただけなのだ。

 だがそれも、『横寺さんなら、もしかして』という希望が消えた今では、堪えきれない。

 横寺さんの傷だらけの姿が、少しずつぼやけていった。

 心の傷が涙となって、ぽろりぽろりと零れだしているのだと気づいて。その重みのままに、私はうなだれてしまう。


「どうする、青年。逃がすことはできないが、これ以上戦って、彼女を悲しませることも――」

「違うな」

「……何?」


 嗚咽が止まらぬ中で、横寺さんの力強い声が聞こえる。


「戦って、俺は彼女を笑わせるんだ」


 無理だと思ってはいても、不思議とうれしくなってしまう言葉。そんな言葉とともにやってきたのは、銀色の閃光だ。

 つられて上げた視界はまだぼやけているけれど、煌めくその姿を見間違うはずもない。涙が、次第に引いていく。


「さぁ……」


 そこにあるのは、銀色の勇姿。ゆっくりと右腕をあげ、ノイマンを指し示す。


「目に焼き付けな!」

「その価値が、あるならば」


 吠えるなり、横寺さんはノイマンへと突っ込んでいく。


「三分、その間に決められるかの」


 メメちゃんがぼそりと漏らす。

 そうだ、横寺さんには時間制限がある。いつも敵を怯ませるなりしてから変身していたのもきっとそのためだ。

 果たして、あれだけ苦戦していた相手に三分で勝てるのだろうか。

 私の不安をよそに、横寺さんは全体重を乗せた左拳を突き出そうとする。


 その突きは、音からして違っていた。


 ノイマンの回避が間に合わない。よけそこなった頬に銀色の左腕が激突した。

 たたらを踏むどころかノイマンは文字通りに吹っ飛んでいく。彼はコンピュータの並ぶ机に派手な音を立てて沈む。

 拳を突き出したままの横寺さんが、長く細く、息を吐き出しながら構えを戻す。


「予測出来たって、反応できなきゃ意味がない」


 それは、ひどく暴力的でシンプルな解答だった。だからこそ、ひどく頼もしい。

 ただ、戦闘が終わったわけではない。


「ふむ、驚いた。数値を上方修正する必要があるな」


 机だったものを踏みつけながらノイマンは出てくる。手で口からあふれ出た血をぬぐいながら。その様からは、ダメージの程は伺い知れない。


「そんな暇はやらねぇ!」


 有言実行。

 横寺さんは床を蹴り砕きながら肉薄する。そして、やっとまともな足場へ戻ってきたばかりのノイマンに蹴り込む。

 蹴り込もうとして、その時、ノイマンの拳が横寺さんの顔面に迫っていた。

 痛々しい音がするが、拳は確実に横寺さんを捉えた。


「効くかぁ!」


 だが、横寺さんの勢いは止まらない。折りたたまれ、引きつけられた足を開放する。離れた私に聞こえるほどの、あばらの折れる音が響く。

 ノイマンの動きは止まり、大量の血液を吐く。びちゃびちゃと、赤が床に撥ねる。


「メモリア!」


 いつのまにやら距離を開けて居た横寺さんに応じ、隣のメメちゃんは姿を変えて飛び行く。

 手にした銀剣を横に構える横寺さんの前でノイマンはようやく喀血をやめたようだ。胸元から取り出したハンカチで口元をぬぐいスーツを正す。


「聖剣技……」

「いいだろう、青年。その力、この目に刻もう」


 横寺さんは銀剣をなぞり赤い光を灯していく。ノイマンは抵抗なく立ち尽くしていた。観客は終幕の予感に興奮する。


「リコレクション・バニッシャー!」


 歓声の中、赤い斬月が飛ぶ。袈裟斬りに放たれたそれは寸分違わずノイマンを斬りぬけた。

 ……勝った。横寺さんが、勝った!

 この後、ノイマンの身体がずれるはずだ。人のそんな姿は見たくないから、私は目を瞑る。

 しかし、待てど暮らせど歓声が悲鳴に変わることがない。それほどに観客が熱狂していたとは思えない。不自然を感じ、目を開ける。


 映ったのは、何一つ変わらないノイマンだった。


 いつの間にか鼻歌をやめていたシュレディンガーが、彼に近づき肩に手を置く。


「お疲れさまでした、ノイマン」

「予想はしていたが、あまりに異常なものだ。そちらの能力も」


 何が起きているのかわからない。観客もだんだんと違和感を覚えたようで、熱が冷めてゆく。


「何をした?」


 詰問するのは、メモリアを中段に構えた横寺さんだ。


「いえ、特には」

「そんなはずはない! 確かに、確かに当たったはずだ」

「知ったことではありませんな」


 飄々と答えるシュレディンガーに、横寺さんは剣を握る手に力を込めた。切っ先がわずかに二人へと動く。

 そうであっても、彼らは横寺さんを意にも留めず一階へ下る階段に向かう。ノイマンには、やはり先ほどのダメージの影響はない。


「どこへ行くつもりだ」

「どこって? 帰るんですよ」

「青年、君には計算上あまり余裕は残されていないはずだ。追ってくれば、容赦はできない」


 ノイマンの言葉は事実のようで、横寺さんは構えこそ崩さないが追いかけない。二人は人波を割って悠々と去っていく。入口の自動ドアの開閉音が、しばらくしてやってきた。

 それを合図に、青白い光とともに横寺さんは変身を解く。階段の方を見ている彼は横顔しか見えないが、それでも生々しい傷痕が目についた。

 やがて彼はこちらに顔を回して、目が合って、そして、膝から崩れ落ちた。

 手に持ったままのメモリアが、騒々しい音を立てて落ちる。それより先に、私は走り出していた。


「横寺さん!」


 うつ伏せに倒れた彼のそばに駆け寄って声をかける。

 どうしたらいいんだっけ……! 仰向けにしたらいいんだっけ。頭は動かしちゃいけないんだっけ。

 ただただ手をわたわたとさせていると、横寺さんが緩慢に頭を巡らせて私を見上げた。


「横寺さん、私、どうしたら……!」

「凜花ちゃん……」


 また涙目になって、きっと私はみっともない。だからって、目をそらすわけにもいかない。腫れあがった横寺さんのまぶたに、頬の青あざに、向き合わねばならない。

 喋るのも辛いのか、彼はしばらくの間をもって、口を開いた。


「服、似合ってるよ」

「っ!」


 予想外だった。確かにシュレディンガーにぼろくそに言われて傷ついてはいたけれど、よっぽど横寺さんのが傷ついている。

 だのにこの人は、私を気遣って。

 こみ上げる熱いもの。あふれさせそうになって、すんでのところで思い出す。

 横寺さんは言ったじゃないか。私を笑わせる、と。

 だったら私は、笑わなきゃいけない。それが、彼への一番のねぎらいだ。

 見なくてもわかる。この笑顔はぎこちない。それでも頑張って笑って、私は言った。


「やっぱり、横寺さんは私の王子様です」


 気力がなかっただけかもしれないけれど、横寺さんは、それを否定しなかった。

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