職場でのあれこれ。
「……ふぅ」
ようやく作業が一段落ついたと有樹がため息をつく。
そのまま軽くのびをして、首をまわす。パソコン画面に表示されている時計を見ると、既に十一時近かった。
仕事復帰初日、有樹の復帰を待っていたのは、同僚達の暖かい言葉とそれまでためこまれていた集計業務だった。
山のような集計業務を一気に渡され、半笑いになったのはついさっき――のはずが既に二時間近くたっていたらしい。
「佐久間さん、資料どんな?」
「明後日の会議の資料は今日中にあげます。最新の月報と週報は明日、過去の分はその後で。日報類は明日から引き取ります」
普段は姿を見かけないのに、珍しく席にいた課長にそう聞かれ、急ぎの資料の仕上がり予定を答える。
「んー、……助かるけど、なんでそんなに早いんだい?」
「……いえ、しばらくパソコン触ってなかったのでなまってる分遅くなってますよ?」
ふた月近い休職は結構なブランクとなったようで、有樹としては随分手順が怪しくなっており、細かいミスをしてはリカバリーしつつ、なのでこれまでより遅いのだけは確かだった。
なぜ驚かれるのかわからずに、首を傾げた有樹を見て隣の席の同僚が突っ伏した。
「佐久間さんが休みの間、代行しようとしたんですけど、会議資料だけで三日近くかかったんですよ」
「へ?!」
「てか、百機種以上のデータを振り分けるのに、なんでそんな短時間でできるんですか?!」
「なんでって、マクロにお任せで十秒くらいですよ?」
「……課長っ! 八つ当たりしても許されますよねっ?!」
どうやら手作業でこつこつデータを振り分けていたらしい同僚の叫びに、数カ所から苦笑いがもれる。
「まぁ、佐久間さんだから」
「え? なんで私が悪い流れなんです?」
「そのものすごく便利なフォーマットを使うための作業標準書を作ってなかった、というのは充分な落ち度だから」
課長にやんわりと言われ、それもそうか、と納得する。
確かに自分ができない時、誰かに代行してもらうための準備はまったくしていなかった。
覚書のようなものは作っていたが、それはあくまでも自分が確認するためのもので、他の誰かがそれを見て作業ができるようなものではない。
「了解です。一段落したらそれも作りますね」
さらりとやる事リストに書き加えた有樹の返事に、向ける矛先を失った同僚がなんとも言えない表情でため息をついた。
「あっさり認められると、マクロが難しそう、とか思って逃げた私が悪かった事に……」
「あ~、うん。じゃあ、ついでだから次のメンテナンスの時にマクロに解説書き込みまくっておくから、中見てわからなかったら聞いて?」
「追い打ちっ?!」
「……え? いや、一応フォローのつもり……?」
「うん、二人わかっててくれれば心強いから頑張って」
「……はぅ。頑張ります」
流れで、有樹特製フォーマットの勉強、という仕事を増やされた同僚が力なくうなずく。
「……なんかごめん?」
「……いえ。前に教えてくれるって言われた時に逃げたのが悪かったんで……」
「できるだけわかりやすい取説書くからっ」
なんだか申し訳なくなった有樹が力を込めて宣言する。
それを聞いた同僚達が、佐久間さんが本気になったらパソコン初心者でもわかる取説ができそうだなぁ、などと思ったりしたのだが、それは彼女の与り知らぬ所だ。
「まぁ、佐久間さんは無理せず徐々にペースをつかんでくれればいいから。――がんばりすぎて倒れるのだけは勘弁してくれよ? みんな、業務返却できるぞ、やったーっ、って大喜びしてるから」
「はい、ありがとうございます」
いくぶんからかいの混じった課長の言葉に、有樹が頭を下げる。
復帰に際して、当面の短縮勤務や車での通勤を認めてもらった上、まだしばらく頻繁にある通院のための欠勤を認めてもらっているので、これ以上の迷惑はかけたくない。
手を止めたついでに、とトイレに席を立った有樹は思わぬ相手に出くわしてしまった。
久本が有樹にまとわりついた一件でつっかかって来たグループの中心人物と、運悪く他に人がいないトイレでかちあったのだ。
「あら? 入院って聞いてたけど、ずいぶんおしゃれに気合が入ってるのね?」
ゆるくパーマのかかった髪を見咎めたのか、わかりやすい嫌味に有樹が苦笑する。
気に食わない相手には攻撃的だが対応を間違えなければ比較的安全、と分類しているのはこのあたりに底の浅さが見えるからだ。
「あぁ、弟の知り合いが美容師の卵で、練習台になったんですよ。練習台一回につき割引券一枚、っていう条件で」
そう言って、念の為ポケットに仕込んでいたチケットを引っ張りだす。
その美容室は会社からもそこそこ近く、その上かなり流行っているので新規の予約はなかなか難しいのだが、そこで働いている新人のカットやパーマの練習台になると割引券がもらえ、ベテランスタッフの予約が取れるのだ。
なので実のところ、カットモデルも結構倍率が高かったりするのだが、気の小さいその人物は、まったく知らない相手の髪を触るのは怖い、と知り合いのつてを頼っているのだ。
けれど有樹にすれば半端に遠い上、職場の人間と出くわしかねない面倒な店だ。
練習台にはなってもそこでカットしてもらおうとは思わない。
「でも、私は今の所から変えるつもりはないんで、これをどうしようかと」
そう言って相手に店のロゴが見えるようにチケットをもてあそぶ。
すると案の定、相手の目の色が変わった。
それはそうだ。外見を飾るのに必死なタイプにとってはかなりの価値になるチケットなのだから。
「……何が目的?」
交換条件だと察したらしい相手の言葉に、有樹は満面の笑みを浮かべる。
「私は今まで通り、目立たず騒がず平穏に仕事がしたいだけです」
「……ま、あんたが余計な事しなけりゃわざわざ構わないわよ」
「ではそういう事で。――必要でしたらあと何枚かは都合つけられますし、パーマとセットだけの練習台も募集してるそうなので紹介できますから、声かけてくださいね」
最後にさらりと自分の価値を引き上げてから、それ以上はじらさずにチケットを渡す。
隠そうとしているものの、浮かれた様子で立ち去った相手を見送った後、有樹が大きくため息をつく。
対応さえ間違えなければ安全な相手とはいえ、女子社員の中では最大派閥の主様である。
復帰早々うまく矛先をそらす事ができて一安心だ。
有樹の中では業務そのものよりも人間関係の方が心配だった。
不規則な勤務になるし、あれこれ特例を認めてもらう事にもなる。軋轢を生む原因には事欠かない、というのが有樹の認識だ。
そんな問題を回避するためであれば、弟を利用するのもいたしかたない。
本人は、これでやっと一人紹介できた、と喜んでいたのだが、それが本心なのか有樹に気を遣わせないための言葉だったのかまではわからない。
ま、初日に対処できたのは上々だったかな。帰ったら匠にうまくいったって報告しなくちゃ。
そんなことを考えながら用を済ませた有樹は、手を洗い終わって鏡を見た時、ネックレスの位置がずれている事に気づく。
何の加減なのか、ネックレスというのは気づくと回転しているものだ。
細い鎖を用心しながらつまみ上げ、リボンのモチーフを元の位置に戻しながら、ふと思う。
自分ではなかなか買う勇気の出ない値段だったこのネックレスを気軽に買ってくれた相手は今頃何をしているのだろうか。
――――――――
一方その頃、有樹の思いが伝わったのか違うのか、遊木も彼女の事を考えていた。
職場でパソコンに向かいながら、手は高速でキーボードを叩いているのだがいかにも心ここにあらずと言った表情で、ボーッとモニターを眺めていた。
有樹さん、大丈夫かなぁ。初日だから緊張してるだろうし、何も起きてないといいけど……。
仕事もある程度忘れちゃってるだろうし、からまれたりしてないといいんだけど。
ついついそんなところまで心配してしまうあたり、過保護なのは遊木家の共通属性なのだろう。
「遊木? お前何さぼってんの?」
ぱっと見、仕事にまい進しているように見えるのだが、普段の遊木を知るものには違って見えたらしく、わざとらしく大きめな声で言ったのは彼を敵視する同僚の一人だった。
「ん? あぁ、ちょっと考え事」
からまれるのはいつもの事なので顔を向けもせず適当に返す。
トップクラスの営業成績をキープし外見もすこぶるいい。いつもそれとなく洒落たスーツを着こなしているし、女性社員からの評判も高い。
露骨な言い方をすれば、外見も中身も平均以上で、異性にもてるのが当たり前。それを自覚しているだけに質が悪く、そんな遊木が気にくわない同僚というものは一定数以上いる。
そんな彼等は事あるごとにからんでくるのだ。事を荒立てるのも面倒で遊木は適当にあしらってやり過ごすだけだ。時折うっとうしくなった時はやり返す事もあるが、相手はその度に顔を真っ赤にして悔しがっている。それでもしつこく絡んでくるあたり、どうやら懲りるという単語が辞書にないらしい。
「いや、もう月末だからこれ来月の決済にまわそうか悩んでてさ」
有樹の事を考えていたところを邪魔され癇に障ったのだろう。デスクの引き出しから契約書類をはさんだクリアホルダーを取り出すと見せびらかすように机にのせる。
今月の目標はとうに達成している遊木だからこそいえるセリフだ。
「でもまぁいいや。手が空いてるのは確かだし、これ決済にまわしてくるわ」
そう言って立ち上がると声をかけ来てきた相手の横をすり抜け、課長のデスクに向かう。
「契約取れたらすぐ決済にまわせよ?」
「いやぁ。今月好調だったんで、ちょっと来月に保険かけようかなぁ、なんて思っちゃいまして」
話を聞いていたらしく苦笑いの上司にたしなめられ、遊木が笑う。
この会社はそもそもかなり自由な社風で、営業職はそれ相応の成績ならば勤務時間は融通をきかせてくれる。いわば成績比例型フレックスである。
遊木はその制度を使って早退する事も多いが、営業成績が常に二位以内な上、打ち合わせの予定が入ればその時には必ずいるし、急用の入った同僚の代打も嫌な顔をせず引き受ける。
課内で――いや、社内に範囲を広げても遊木を嫌っているのは嫉妬から毛嫌いしている連中だけだ。
「まぁ、今月も残り少ないしな。――って、お前、ここっ?!」
「駄目元で行ってみたら取れました。とりあえずお試し、って事なんで小額ですけど、評価がよければ毎月五千は確実に発注してくれるそうです」
「五千っ?!」
なんとはなしに遊木の会話を聞いていたまわりの社員が声をあげる。それだけ彼の取ってきた契約は大口のものだったのだろう。
「……遊木、お前……。誰が行ってもサンプル発注すらしてもらえなかった会社相手に……。いつもながらどうやって注文取ってくるんだ?」
「特別な事は何もしてませんよ。世間話とうちの商品アピールぐらいです」
感心しているのかあきれているのか、わかりにくい言葉を笑顔でさらりとかわす。
実際、取り立てて特別な話をした事などないのだが、まわりは何かしているだろうとうるさいのだ。
「そういう所が遊木の遊木たる所以かね。ま、この件は上にも報告しておく。
うまく来月からも注文取れるよう、関係部署にも発破かけとくから期待しとけよ」
「はい。ありがとうございます」
遊木の言葉を信じたのか、何か技があるとしてもこんな場所で話したりはしないと思ったのか、そんな言葉でしめられ、遊木は頭を下げると席に戻る。
戻りしなからんできた男に視線をむけると忌々しげに睨まれてしまった。
てか、あいつが変な粘り方して苦情来たから、謝罪がてら軽く営業してきただけなんだけどなぁ……。尻拭いしてもらって逆恨みかよ。こりゃ、今月も契約取れなそうだな。
内心苦笑しながらも表には出さない。
こういった恨みを買うのは仕方のない事だとわかっているし、一々気にしても仕方がない。
その程度の人間だ、と相手の評価を下げておけばすむ話である。
そもそも遊木はあと数年で系列へ戻ることとなり、ないがしろにするつもりはないが、この会社に骨を埋めるつもりはないのだから人間関係には深入りしたくはない。
最終的には兄を助けて親の会社で働く予定なのに、立場を隠してこの会社に就職したのはここの社風が親の会社とはだいぶ違うからだ。
兄は次期社長という事で最初からグループ会社で働いている。
ならば自分は兄が見られない他社の空気を知っておくべきだ、と考えた結果、ここに就職したのだ。
別の視点から見れば良い点も悪い点もわかりやすい。その視点を得つつ親の影響がない環境で自分の力を試す、という観点で探した結果、この会社が一番条件に適っていた。
選んだ理由はそれだけだったのだが、つい転職時に一緒に引き抜きたい人材が居ないか探してしまうのは職業病の一種かもしれない。
その後は無難に仕事をこなし、社員食堂で昼休みを半分程消化した頃、半日勤務の有樹はもう迎えの車に乗った頃のはずだし電話をかけてみようか、いやメールにしておいた方がいいかな、とスマートフォン片手に悩んでいたら、横から声をかけられた。
普段であれば同期の友人数人と食事をした後、くだらない話やアプリに興じるのだが、今日はたまたま一人だった、というのもあるだろう。
嫌なタイミングだな、と思いつつも顔を上げると、相手は社内でもそれなりに人気のある女性社員だった。
それなり、とつくのは色んな意味で派手な美人なので、外見内面ともにはっきりと評価が割れるからである。
もっとも本人は下手に逆らうと面倒そうだから適当にあわせている相手を見抜けていないようで、自分が社内一だと疑いもしていないようだが。
遊木に言わせると、付き合うかどうかは好き好きだけど結婚を考えるのは馬鹿だな、というところだ。
「何か用?」
関わりのある部署にいるわけでもなく、仕事の話なはずがないとわかっていたが、無視するわけにもいかずに返事をする。
「遊木くん、今度食事連れてってよ。二人でディナー。いいでしょ?」
さも当然のように言われ、今日は面倒な相手にからまれる日だな、とため息をつく。
しつこく声をかけられてはいるが、食事――それもランチではなくディナーをおごらないといけない理由などどこにも存在しない。
ランチと言われていたら、遊びでなら付き合ってみたい、と言っていた同期の一人を交えてならかまわないか、とも思う。――もちろん同期には、仲介料としてうまくいったら一度昼をおごれ、くらいは言うだろうが。
けれど遊び目的とはいえ親しい同期が狙っている相手、それも嫌いな部類の人間からの誘いに愛想をよくしてもいい事はない。
「なんで?」
そう考えた結果、素っ気ない返事をする。
これで自分の評価が下がっても関係ないし、はっきり言ってしまえば嫌われた方が楽だ。この手のタイプは嫌な相手だと思っても異性相手に嫌がらせをしかけたりはしない。
「なんで、って……。バレンタインのお返しに決まってるじゃない」
さすがに少しばかり鼻白んだ相手の言葉に、そういえば押しつけられたな、と思う。
もらった、という印象がないのは、単なる義理にしては高そうな包みだったので断ったにもかかわらず、来客者も通るような場所でしつこくされ、見られてもまずいと思って受け取らされた、という経緯があったからだ。
その時にも、特別なお返しはしない、と断言したはずなのだが、どうやら記憶力と縁がないらしい。
「今年は平日だしホワイトデー当日に配るつもりだけど?」
ちらちらと視線を投げてくる野次馬達にも聞こえるよう、意識してきっぱりと告げる。
「私、かなりいいのあげたのに他の義理と一緒なんだ?」
いかにもショックを受けたという風な態度を作られ、遊木は盛大にため息をつく。
社外に恥をさらすのを嫌った態度を見て、人目がある所でごねれば押しきれる、と思われたらしい。
どうしてこう、自分の事しか考えていない女ばっかりよってくるかな。うっとうしい。
今一番心を占めている有樹へ連絡するタイミングを奪われたいらだちもあったし、半端な状態にしていた事が彼女に取り返しのつかない迷惑をかけたのも記憶に新しい。
ここは派手に引導を渡してやるか、と不機嫌を全面に出して座ったまま、立っている相手を見上げる。
「俺、まともに会話した事もない相手から義理でもらうには高すぎるみたいだから、って断ったよね? それでも勤務時間中なのにしくこくしつこくまとわりつかれて迷惑だから、特別なお返しはしない、って約束で受け取らされた記憶があるんだけど?
それでも君は俺を悪役に仕立てあげて食事をたかろうとするわけだ? もはやこれ、詐欺の域じゃないかと思うんだけど?」
わざとらしく一々語尾を上げた言葉をはくと、まわりの空気が固まった。
「それに俺、今まで何度も君の誘いを断ったよね? そんな都合よくいつも別の予定入ってると本当に思ってた? 君とは食事も飲みも行きたくない、って意思表示のつもりだったんだけど、俺の伝え方が悪かったかな?」
これでも典型的な日本人だからはっきりとは言いにくくてね、と付け加えて笑みを浮かべると、何やらまわりから息を飲む気配が立ち登った。
「それと、バレンタインの時に社外に本命いるから義理百パーじゃないのは困る、って言ったよね? 本当に親しい友達ならともかくさ、そういう相手がいる異性を夜に二人で食事にとか、どういう神経?」
「そ、れは……」
「というかさ、少し考えたらわからない? そこで誘いにのるような男を奪い取ったとしてね、同じ事されるだけだよ? ――ま、自分が浮気する予定だからうるさく言われないように同じタイプがいい、っていうなら余計なお節介でしかないけどね?」
にこにこと笑顔をふりまきながら毒をはく。
一応相手を心配している体を作ってはいるが、そんな事にすら考えがまわらない人間は相手にしたくない、という副音声がはっきりと聞こえてきそうである。
「俺は、君が同僚としての節度を保ってくれてれば、ここまでしなかったんだけどね。はっきり言わないと通じないみたいだから言っておくよ。
俺が君の誘いにのる事は絶対にないから、これ以上無駄な時間を使わせないで欲しい。数ヶ月とたたずに付き合う相手がころころ変わるような人にまとわりつかれるのは迷惑だ」
間違えようのない言葉できっぱりと引導を渡す。けれど、まわりの冷凍庫並に凍った空気に少しやりすぎたか、と頬をかく。
そういえばこの人なんて名前だったっけ、などと今更名前が思い出せない事に気づくあたり、本気で興味がなかったらしい。
「せっかく美人なんだし、そんな不毛な恋愛ばっかりしてたらもったいないよ? ちゃんとお互い本気になれる相手探しなよ」
俺なんかにかまってないでさ、とさすがにいくらか表情を和らげて告げると席を立つ。
この空気は当事者がいなくならなければ解凍されない事くらいわかる。まだ片付けていなかったトレイを持って歩き出すと、じっとこちらを見ていた野次馬達が一斉に視線をそらした。
あ~ぁ、これでしばらく噂され放題だな。
内心苦笑いだが、それは表に出さずに食器を下げて食堂を出る。
時間を確認すると昼休みはもうほとんど残っていない。気分を切り替えて有樹へ電話をするには時間が足りないだろう。短いメールを送信するにとどめた。
有樹さんどうしてるかなぁ。むこうは無難に終わってくれてるといいんだけど。
――――――――
車の中でメールの着信に気づいた有樹は、内容を確認してほほえむ。
初日お疲れさま。ゆっくり休んでね。
たった一行。それだけの文章なのになぜかとても嬉しく感じるのは、お互い相手の事を考えていたのが、なんとなく嬉しかったからかもしれない。
お読みいただきありがとうございます♪




