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アプリと仕事と個人情報。

 唐突に現れて婚約者を自称した男を見上げ、有樹は再度ため息をついた。

「その冗談、いつまでひっぱるつもりなんですか?」

 だが男は、真剣な眼差しで有樹へと返す。

「冗談のつもりはないさ。俺は有樹でなけりゃ嫌だ」

「私は面倒な気配しかしない男なんて願い下げです」

 そんな男を軽く袖に振った後、有樹は水のグラスを取り上げると男にさし出す。

「それにそんな息が上がる程走らなくとも……」

 口で何と言おうとも関わる相手を気遣うのは有樹らしいところだ。男はさし出された水を嬉しそうに受け取ると一気にあおる。

「サンキュ。――で、有樹は外していいぞ。こっちで話つけとくから」

「まぁ、面倒事を引き取ってくれるというのなら甘えますけど、私、そこの彼と午後に約束があるんですよ」

 有樹が遊木を示すと、男は小さく肩をすくめてため息をついて見せた。

「了解。じゃ、目の前でうっとうしいやり取りするけど我慢しといてくれ」

「なんで私が……」

「じゃあ、俺達が移動するか。――そういう事でかませいませんよね?」

 視線が有樹から八重子に移った瞬間、男の表情が引き締まった。有樹としゃべっている間はやわらかく和んでいた目元が途端にきつくなり、雰囲気さえも冷たくなる。

「後から押しかけた私達が移動するのが順当でしょうね。――佐久間さん、和馬、失礼しますね」

 八重子も男の言い分に利があると考えたのか、反論することなく立ち上がり、二人は店内へと消えた。

「今の人って……。もしかして、佐久間重工の次期社長として正式に発表されてる、佐久間弘貴(ひろたか)さん?」

 二人を見送ってややあってから、遊木が脳内から探し当てた名前を口すると、やはりあっさりとしたうなずきが返された。

「はい。小さい頃何度か会った事があるらしいです」

「……へ?」

 有樹の言葉に遊木が思わず目を丸くする。仮にも婚約者を自称する相手にずいぶんと冷たい。いや、婚約者を自称するからこそ、なのだろうか。

「何をとち狂ってるのか、昔から迷惑きわまりない冗談をひっぱってるんですよ」

 あの馬鹿は、とでも続いていそうな声に、遊木が乾いた笑いをもらす。

 有樹の視界に入らない角度を計算した位置から弘貴がむけてきた視線は、知り合いに余計な事をされた、という程度ではすまされない敵意があった。間違いなく、むこうは本気で有樹を欲しがっているとしか思えない。

「あんまり親しくないの?」

「だから、小さい頃に会ったきりなんですよ。こっちは、そんな事があったらしい、程度の認識でしかないんですけど、なぜかああなんです」

「会ってないなら、言われる事もないんじゃ?」

「時々電話とメールが来るんですよ。あと、毎年誕生日とクリスマスにプレゼントが。――全部つっ返してますけどね」

 苦ったため息をつく様子からは、本当に有樹が弘貴の発言を迷惑に思っているとしか思えない。二人の間にある温度差は相当なものだ。

「毎年プレゼントって……。それ、弘貴さん、本気なんじゃない?」

 グループ企業の次期社長として、公の場で発表された弘貴の日々が忙しくないはずがない。そんな中で、電話やメールの時間を取ったり、プレゼントを手配しているのだ。それも贈った物をすべてつき返してくる相手に。相当の執着がなければ続くわけがない。

 自分に同じ事ができるかと言われたら、間違いなく無理だ。言葉は素っ気なく、プレゼントをしてもことごとく返されては――それも有樹の事だ。毎回心が折れるような言葉を添えてくれるに違いない。弘貴の熱意に感心半分、あきれ半分の遊木に対して

「幼児期に数回会っただけなのにしつこく求婚してくる、十も年上の男ですよ? 薄気味悪いだけです」

 ストーカーと何が違うんですか、とにべもない。

「でも、あれだけこだわってるとなると、何か理由がありそうだけど」

「どうせ、誰か追い回している相手がいればうるさく言い寄られないですむとか、そういう事ですよ」

 面倒くさそうに言い捨てられ、遊木は二人の関係を探るのをあきらめる。これ以上は本気で有樹の機嫌を損ねてしまいそうだ。

「じゃあいっそ、俺と付き合ってる、って言っちゃえば? 冗談とか牽制なら、親父の会社敵にまわしてまで佐久間さんにこだわらないんじゃない?」

 冗談半分、いくらか本気も混じった言葉を口にする。結婚を意識するような付き合いにするわけにはいかないのだが、好意を持った女性を目の前でとられそうになっては、あせりの様な感情が生まれるのも確かなのだ。

「それはそれで面倒な事になりそうなんで遠慮しておきます。……最悪の場合はお願いするかもしれませんけど」

 はぁ、と盛大なため息をついた有樹が本当に嫌そうで、初めて見る様子が新鮮でいいな、と思ってしまう。

「うん、いつでも頼って」

「……まったく、なんで私なんかに」

 眉間にくっきりとしわをきざんだ有樹のぼやきについふき出すと、なにやら非常に恨みがましい視線がむけられた。

「本当、冗談事じゃないんですよ。あの人が私にかまうせいで本家の視線が痛くて痛くて」

 めずらしい事にぐちを言う気分なのか、有樹が続けてぼやく。

 一族の跡取り息子がちょっかいをかけてくるせいで、本家である由佳一家を筆頭に、多くの親戚から人に言えないような方法で弘貴の関心をかったに違いない、と思われている。そしてそれは親族が集まる場での居心地を悪くした。それまで捨て置かれていた有樹が聞こえよがしの陰口をたたかれるようになったのもその頃からだ。

「あぁ、俺が隆に頼んだ時とおんなじ理屈か……」

 格下と思って見下していた相手が、いつのまにか自分が取り入りたい相手と親しくなっていた、となれば気にくわないのだろう。同格の相手ならまだしも、見下していた相手なだけに、今更取り入ろうとするのも腹が立ち、排除や嫌がらせという手段に走るのだ。

 前回は有樹の外見が地味で目立たない――なにせ、一見化粧をしてないように見える程の薄化粧な上、ヒールなしの革靴が基本でスカート姿を見た事がない。流行を追って服を買いそろえる、というタイプでもないようだし、少数派としてはじかれやすいに違いない。そんな有樹は、派閥を作るような連中からは驚異になり得ない存在として興味を持たれていなかったはずだ。しかし、目立つ存在である久本が熱心にかまう事で目をつけられてしまった。

 親戚達からにらまれたのも、足に障害を抱える上におとなしく見えた有樹は、本家の寵を争う対抗馬にはならない、と放置されていたのに、突然総領息子が執着する様子を見せ始めた故だろう。

 そして、自分の行動がそんな風に有樹の立場を悪くしている事に弘貴が気づいているかというと……。おそらく自分が気づかなかったように気づいていないだろうな、と思う。有樹のためにも何か機会があった時にでも忠告しておくべきだろう。

 そんな事を考えてから、当時有樹にかなりの迷惑をかけた事も思い出す。

「あの時は本当にごめんね」

「別にもういいですよ。あの後、すっかり収まりましたから。久本はずいぶん頻繁に合コンしてたみたいですし、あれ、遊木さんもメンツ集め協力してくれてたんでしょう?」

 謝罪を受けた有樹の返事は柔らかい。確かに、有樹の窮状にどう対処したものか久本の姉と遊木の義姉・桐子の知恵を借りた結果、有樹をかまいつけている連中を数回ずつ、食事や条件のいい合コンに誘った。

 直接有樹をかばえばかえって状況は悪くなる。心配なら相手の関心をひきはがしなさい、とそろって同じ助言をしてきた姉達を信じての行動だ。最初は半信半疑だったのだが、実際に有樹のまわりはすぐに静かになった。

「いや、俺のせいだしね」

「それでも、対処してくれたのは事実ですから」

 有樹が軽く笑ってそう応じた時、遊木のスマートフォンが着信音をたてる。何だろうと思って確認すると、久本から、大至急返事してや、とメールが入っていた。

「なんだろ? 隆から急ぎの用事みたいだ。ちょっとごめんね」

 今までの流れで、何か面倒な情報でも手に入ったのだろうか、と首をかしげつつ通話ボタンを押す。

「和馬、そこに佐久間っちおる?!」

 そして、電話がつながった瞬間、勢い込んだ声が飛び込んできた。

「うん?」

「緊急事態やねんっ。一緒におったら代わってや!」

「いるけど……。佐久間さん、隆の奴、俺じゃなくて佐久間さんに用事みたい。代わってやってもらえる?」

 いくらか面食らいながらもスマートフォンを有樹にさしだすと、やはり一瞬不思議そうにした有樹が受け取る。けれど、何か思い当たったのか左手で受け取ると、さっきの騒ぎでテーブルに出しっぱなしにしていた自分のスマートフォンを右手で操作し始める。

「どうしたの?」

「仕事のデータがいるんやっ! けど、そないな事より、ゲリラきおってん! あと二分しかないんやっ」

「あ~、了解。青パーティにしてログインし直せばいいんだよね?」

「せや! 急いだってっ」

「今やってる。――ん、アプリ立ち上げなおしたよ。そっちもやってみて」

 いたってのんびりと応じる有樹の言葉に、おおよその事態を悟った遊木が苦笑いになる。彼とて人の事は言えないが、久本はかなりのゲーマーだ。最近はスマホアプリのパズルゲームにはまっていると聞いていた。

 そのゲームでは、ユーザー間でフレンド登録をしておくと、相手がリーダーに設定しているキャラクターを助っ人に呼べる。有樹は余程いいキャラクターを持っているのだろう。

「間におうた……、しゃっ」

「おめでとう。――で、仕事の話は?」

「せやった、忘れるとこやったわ。先週吉野課長が佐久間っちに作ってもろたリードタイムの計算表、データ残っとらん? 課長、もう要らんと思うて削除してもうたん」

「うは……。それはご愁傷様」

「しかも何が悲しゅうて休出中に白状しとんねんっ?! 週明け朝一の会議で必要なデータやったんやでっ!」

「そりゃきついね……。今会社?」

「佐久間っちのパソコンの前におる。もう起動してあんで」

「そうしたら、デスクトップの左端中央やや下、保管庫ってフォルダ開いて」

 久本の返事に迷う様子もなく、フォルダの位置を指示する表情は、既に仕事中の顔だ。遊木にとっては初めて見る、手芸に没頭している時とはまた違った真剣な表情。

「保管庫の中に、課別のフォルダあるから。……そう、その中の吉野課長のフォルダ。ファイル名の頭に頼まれた日付打って、その後内容、で整理してあるから。たぶん下の方」

「この、リードタイムFMってフォルダ?」

「そう。提出用っていうのが、吉野課長に提出したマクロとか極力簡略化したやつ。作業ベースってのは、実際に私が作業したままのカオスなやつ。好きな方持ってっていいよ」

「これやっ。このファイルっ。……助こうたわぁ。これあらへんかったら、徹夜作業になるとこやねん。佐久間っち、休みんところありがとな」

「いいよ、このくらい何でもないから。それより電話気付かなくてごめんね。久本の番号もマナーモード無視の登録しとくから」

「気にせんでええて。佐久間っち、普段時間外に電話かかってくることあらへんし、気付かんでもおかしゅうないわ。それに、気軽にメール送りづらなるわ。音出して困らせたら悪い、思うてまうやん」

「じゃ、通話だけマナーモード無視にしておく。急ぎの用がある時は通話で、それ以外はとりあえずメールして」

「したら甘えて次からそうさせてもらうわ。ありがとな。今度昼おごったるわ。……課長が」

「あはは。そうだね。三人で食べ行こうか」

 久本の軽口に軽やかな笑い声が上がる。相手の声が聞こえない遊木にははっきりと内容はわからないが、仕事の件は何とかなったらしい、と判断する。そのまま二言三言、軽口をかわしてから有樹が通話を終えた。

 その後、服の袖で画面をこすってから遊木にさし出した。

「ありがとうございます。なんか、私が作ったデータのバックアップが欲しかったみたいで」

「みたいだね。……一部、アプリの話だったみたいだけど」

「ま、久本ですからねぇ」

 あきれた風もなく、くすくす笑う有樹の様子に似たような事が何度かあったのだろう、とふむ。久本は本当に、ゲームが唯一の趣味だという様なところがあるのだ。

「ときに、何のアプリか聞いてもいい?」

「あぁ、これですよ」

 有樹が久本と同じゲームをしているようには思えなくて、つい聞くと、こだわりなく有樹のスマートフォンがさし出された。その画面に表示されていたのは、パズルを攻略してキャラを育てよう、といううたい文句がつけられた、遊木自身もやっているアプリだった。

「あれ、佐久間さんもこれやるの? 俺もやってる」

「プレイ人口多いですからそんなに驚く事じゃないかと」

「いや、なんていうか……。手芸好きな佐久間さんがアプリゲームやってるのがちょっと意外だったというか」

「あぁ、うちの父親もたまに言いますけどね。でも、インドアな趣味、とくくれば同類項ですから」

 言われ慣れた言葉にさらりと応じると、遊木は、それもそうか、と納得する。

「ね、嫌じゃなかったらデッキ見せっこしない? 隆はどのキャラ使いたがってたの?」

 好奇心をうずかせた遊木の提案に、有樹はあっさりうなずくと、画面を切り替える。

「……って、これめちゃくちゃレアだしっ?!」

「らしいですねぇ。弟にもうらやましがられました」

 返事はのんびりとしているが、有樹の見せたキャラは性能が恐ろしくいいかわり、めったに有料ガチャのラインナップに入ってこない上に、高額課金者でもあまり持っていない――なにせ、排出確立が冗談のような低さだ。十数万をつぎ込んでもでなかった、という情報があふれかえるほどのレア中のレアである。

「……なんでこんなの持ってるの……?」

「無料配布の有料アイテムでひいたら出ました」

「……すごい強運だねぇ」

 もはや他にコメントしようもなく、遊木がどこか遠い目でつぶやく。そうしてから他のキャラクターも目を通していくと……。

「というか、こいつだけなんかやたらに育ってる?」

 他のキャラはそこそこ程度にしか強化されていないのに、件のキャラだけは上限一杯まで強化済みなのだ。かかる労力をざっと計算すると、このキャラクターには他のキャラの十倍近い労力をかけていることになる。

「久本と弟が、頼むから育ててくれ、っていうので、経験値アイテム全部つぎ込んだのと、私じゃクリアできないステージをクリアしてもらって強化素材出してもらいました」

「――あ~、なんか、後生だから素材集めさせて、って泣きつく隆の姿が目に浮かぶ……」

「でしたねぇ。なので、私が了解したところ以外にはクリア履歴つけない、って条件で」

「……ははは」

 つい微妙な反応になってしまったのは、もし自分でも同じような頼みをしたと思うからだ。

「遊木さんもフレンド登録します?」

「うん?」

「このアプリやってる人って、これ持ってると知ると必ずフレンド登録してくれって言うので」

「そりゃ頼むだろうねぇ。これ持ってるだけで格段にクリアしやすくなるところ多いし」

「なので、します? どうせフレンド枠空いてますし」

「え?! この強化具合のこのキャラ持ってて枠空いてるのっ?!」

「だって、必要なだけの人数はいますし、後から後からうっとうしいんでつながなくなった人とか呼ばない人整理しないで枠埋めてるんですよ。整理すればごそっとへりますし」

「……なるほど」

 誘いが殺到する側の理論にそれもそうか、と思う。枠が増える度、とりあえず最初に申請があった相手でも登録して枠を埋めているのだろう。

「じゃ、お願いしていい?」

「はい」

 好意に甘えてさっそくフレンド登録をすませる。遊木にとってはずっと欲しいと思っていたキャラを、思わぬところで使える様になったものだと内心小躍りだ。

「それにしても、無料配布で当てるとかものすごい強運だねぇ」

「私、時々運の良さがおかしいんですよ。なんというか、レアアイテムに好かれる時があるみたいで。普段はゴミレアすらでないんですけどねぇ」

「ゴミレアって……」

「はい。MMORPGやってて、確率以外まったくレアじゃないアイテムってぼろぼろ出るものでしょう?」

「あぁ、あるある」

「そういうのすら全く出ないのに、知り合いが欲しいって言ってるレアに限ってさくっと出たりするんですよ、しかもいっぱい」

「うん? そういうのってほんとに出ないし、出ても凄く高いんじゃ?」

 遊木もそういったゲームはするが、その手のものは出ないからこそレアなのだ。そもそも、手にいれるために数ヵ月単位で粘る人間も珍しくないからこそ、誰もが欲しがったりする。

「最高で一日に七つ、月に十八ほど出たこともありますよ?」

「ちょっ?! なんなの、そのあり得ない確率っ?!」

「まぁ、その時は欲しいアイテムがあったのと、学生で、しかも夏休みで時間があったので、毎日長時間狩り倒してたのは確かですけどね。弟に言わせると、私にはランダム発動の確率無視スキルがついてるそうです」

「言いたくもなるだろうねぇ……」

 なんとも言い得て妙な言葉に遊木が半笑いで応じる。しかもさらりと狩り(・・)などとネットスラングを使っているあたり、有樹はかなりのヘビーユーザーなのかもしれない。

「そんなわけで、時々ごつい当たりひくんですよ。今までで最大の当たりは十万円分の商品券ですね」

「うは……。それはまたすごいものを……」

 月収の何割、と計算して思わずため息がもれた。仕事が滞るのを心配しなければ、半月くらい休みをとって遊んでもいいぐらいだ。――復帰後にたまっている書類を想像すると恐ろしくてそんな事はできないが。

「……って、佐久間さん、弟いるんだ?」

 自分の事を話したがらない有樹にしては珍しくさらりと口に出された情報に、まずいかな、と思いつつもつい好奇心が勝った。

 普段であれば流したのだろうが、弘貴や久本が親しげに振る舞っていたのを多少意識していたのかもしれない。

「いますよ。ひねくれててわが道を行きたがるかわいいのが」

「……それってかわいいの?」

 あまりかわいいという表現とは一致しない評価に首をかしげてしまう。しかし、有樹はくすくすと笑う。

「少し年が離れてますからね。あぁ、あの頃は私もこんなだったのかなぁ、なんて気持ちになれますよ? 青臭くて不器用でかわいいじゃないですか」

「そういうもの?」

「私にとっては、ですけどね。五つ離れてる上に私の方が口がたつんでけんかしてもこっちの連勝ですし」

「そういえば、俺もけんかで兄貴に勝ったためしがないなぁ」

 言われてみれば年の差のせいか、春馬とけんかをすると必ず負かされていた。年の差のせいもあるかもしれないが、できすぎな程に何でもできる兄に勝てた記憶はない。久本も姉には敵わないと言っているし、兄弟といっても年が離れるとけんかにならないのだろうか。

「年の離れた上って、勝てない相手だよなぁ……」

 ついため息混じりになった遊木の言葉に有樹が小さくふき出す。

「うちの場合は運動関係は弟の領分だったので、弟がやさぐれてる事ばっかりでもなかったですけどね。一緒にゲームしたり勉強を教えたり仲はいいんですよ」

「へぇ、それはうらやましいな。うちは何やっても兄貴の方が上だったから、勝てなくてふてくされるだろ? そうすると手加減してくれるんだけど、こっちとしてはそれはそれで面白くないんだよ」

 わからないように加減してくれる程には器用じゃないからな、うちの兄貴は、とつぶやく遊木の表情は言葉のわりにやわらかい。何だかんだ言いつつ、この兄弟は仲がいいのだろう。

「あぁ、なんかそういう感じっぽかったですよね。まっすぐというか、不器用というか」

 遊木のそんな反応がほほえましかったのか、応じる有樹の声もやわらかい。

 面倒な問題を乱入組に押しつけた二人は、いつも通りの、のんびりとしたランチタイムを楽しむのであった。

お読みいただきありがとうございます♪

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