03:出会い
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暑苦しい教師の横を通り過ぎて、駐輪場へ。駐輪場は校門を入ってすぐ左に控えめに立っていた。殆どの生徒が駅から歩いてくるので、あまり大きい必要がないのだろう。
姉さんの自転車を見つけて少しホッとした。私も新入生らしく緊張していたみたいだ。さてと、下足箱はどっちかな。
辺りを見回すと生徒会の腕章をつけた先輩方が所々に立って、新入生の誘導をしているようだった。駐輪場の近くにも生徒会の女子が一人立っていたので、声をかけてみる。
「すみません、下足箱はどちらにありますか?」
「は、はい。あちらの学校正面にあります。そちらにクラス掲示もしてありますので、ご自分のクラスと番号を確認されてください」
「あぁ、あんなに立派だからてっきり職員玄関かと思ってました。ありがとうございます先輩」
実際、中学校は来賓用も兼ねた職員玄関が正面にあったのだ。
礼を言って立ち去ろうとすると、先輩が緊張した面持ちで口を開いた。
「う、うちの高校は会長がいるし、悪いことはできませんよっ!」
「はい?」
「だ、だから悪いことしないでくださいって……ひぃっ!」
「私の顔をみて怯えないでください……いいですか先輩、私は何もしません。中学でも一度も処分を受けたことはないです」
これで分かってもらえたかな……まあ顔面は平常通り能面スマイルだけど。
「は、はい。失礼しました。私は金折 空です。あの、お名前は……」
「私ですか?私は一紙 氷野です。これからよろしくお願いします」
なんで自己紹介になったのか分からないけど、名乗られたからには応えないと。ここで会話は終わりのようだし、こっちを気にして見てくる人もいるので早く移動しよう。
クラス掲示を確認すると、2組の2番だそうだ。1ー2の下足箱の2とシールの貼ってあるところに靴をしまって、上履きに履き替える。履き終えたところで、突然、背後から軽い衝撃が。
なんだろうと振り返ると栗毛の可愛らしい女子が私にぶつかって転んでいた。
「あの、大丈夫ですか?」と手を差し出す。
彼女は私を見上げると「ごめんなさい」と小さな手で、私の手を掴んで立った。
おや?普通だ。正直、怯えられる覚悟で手を差し出したので拍子抜けしてしまった。……嫌な拍子抜けだなぁ……。
「すみません……よそ見していたら、ぶつかってしまって……」
「いえ、怪我はありませんか?」
「はい。ほんと、ごめんなさい……ごめんなさい」
「あんまり謝らないでください。私がワルモノになっちゃいますよ」
「あっ、そうですね。ごめんなさい……」
分かってないような気がする……。
っていうか既に、周囲の視線が痛くなってきたし、この場を離れたい。
「私こそすみません。あの、そろそろ手を離してもらってもいいですか?」
「あっ、嫌ですよね……ごめんなさい」
「ちがいます……。私は移動したいんですよ……」
「あ、はい、ごめんなさい」
「では、失礼します」
はぁ……彼女は私に怯えなかったけど、ごめんなさい連発する小動物系の少女と気味の悪い笑顔の男の組み合わせはやばいよ。……悲しくなってきた。
同じクラスのようだし、ひょっとしたら友達になれそうな人ではあるが、私と彼女の為にもあまり関わらない方がいいな……。
「と、思ったのになぜ……付いてきてるんだ?……」
「えっ? ごめんなさい、移動したいってことですよね?……」
と、可愛らしく首を傾げる彼女。可愛いけどさ……。
「もう、それでいいです。ところで名前は?」
「あ、はい。自分は酒花 楓といいます。三年間よろしくお願いします」
「私は一紙 氷野です。 三年間っていうのは?」
「えっと、聞いた話だとこの高校はクラス替えがないとか……」
「あぁ、そういえば……」
姉さんがそんなことを言っていたような気がする。
というか、このちっちゃい同級生はなぜ私を避けようとしないのだろう。
底冷えする廊下を、人の波に合わせて歩きつつ不思議に思う。
「あの、酒花さんはなぜ私と関わろうとするのですか? 自分で言うのも変ですが見るからに悪い顔ですよ?」
「それは……、一紙くんが敬語をやめてくれるなら教えてあげます……」と、イタズラっぽく笑った。
難易度が高い。が、私が初対面の人とこんなに自然に話せるのはめずらしいし、すごく理由が気になる。家族以外と素で会話するなんていつぶりだろう……。
「わかった。これでいいかな?」
「ふふっ。うん、いいよ」
「楽しそうだな……」
「はい!」
ちなみに、私を避けなかった理由は人を見た目で判断しないということだった。彼女は見た目より随分、芯の強い人なのかもしれない。
彼女とは長い付き合いになりそうな気がした。
次は火曜日までには。