始まりは小さなギルドから
「…ス?……ルウシス?ちゃんと私の話聞いてるの?」
そう言って彼女は肩を揺すりながらルウシスに確認を取る、どうやら上の空だったようなので本当に話を聞いているのか確認をとってきたようだ。
「勿論だ」
「そう?ならいいんだけど」
彼女は確認を終えると本題に戻り話を続ける。
「さっきも言ったように今回ギルド、つまり私達に来た依頼は大嫌いな帝国からの依頼なの、仕事内容は後ほど説明、とりあえず受ける方向で進めろとの手紙が送られてきて今日偉いさんが説明に来るんだって」
こんな依頼受けられるかって、そう毒を吐きながらドスンと椅子に座り周りを見渡す。
「でもミユ…報酬は普段やってる仕事の10倍以上…」
ちょうど横に座っていた黒髪の小さな女の子が手紙を読みながら、ミユが気になっていたであろう部分を指差しながら問いかける。
少しつまりながらも、そこなのよねーと嫌そうな顔をして今度は難しそうな顔に変わる。
「ちなみにレーンはどう思うわけ?」
手紙を指差している黒髪の小さな少女レーンは、自分に振ってくると思っておりあらかじめ用意していた言葉でゆっくり小さく返答する。
「答えはNOに近いと思う…内容も説明なしでは準備のしようがないから…それに信用できないし信用するような相手じゃないことは明確」
「なるほどねぇ…」
するとレーンの隣に座っていた青髪の男が
「返事は帝国の偉いさん達が来てからでも問題ないんじゃねぇか?嫌ならそれで
帰ってもらうか、内容をもっと簡単にしてもらうとかそういう方向でいいと思うな俺は」
「ソウマの意見にしては真面目ねそれも頭に入れておくわ、こんな時カイがいてくれればいい案が出てくるかもなんだけどな」
ミユの返答に少し引っかかりながらも青髪の男ソウマは相槌をうちながらテーブルの上に置いてあったジョッキの中身を飲み干す、今は昼間なので中身は水である。
すると入口の扉がドンと大きな音をたてて開かれるのがわかる、ここにいる4人はやっとお出ましかと渋々椅子から立ち上がり入口へと向かう。
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「ふざけんなくそったれが!んなことできるわけねぇだろっ!」
ソウマは見慣れない顔の男からの依頼内容を聞いて声を荒げる
「ですからこれからあなた方には森に向かって獣人達を焼き払ってもらいますと
何度も申し上げているではないですか」
声に驚きながら見慣れない顔の男は焦りを浮かべながらぼそぼそと説明する。
しかし依頼が依頼だけにこちらのギルドとしては受けられない、獣人と言えば元々数が多い種族ではないしそれに帝国に対しての反逆も一切行っていないはずだ。
「報酬がいいってだけで内容がこれでは私たちとしても受けられない、答えは決まってるNOよ、わかった?殺しだからってわけじゃないのその依頼に理由がないからよ」
「おやおや?たかだか傭兵ギルドの団長ごときが帝国の依頼を断るのですか?い
けませんねぇ…答えはYESでお願いしますと手紙に書いていたはずですが」
嫌な声を聞いたとばかりにミユは顔をしかめる、その声の主はゆっくり大きな態度で扉から入ってきてさっきの返答は気に食わないとばかりにミユの顔を睨みながらニヤニヤと笑っている
「これはこれは誰かと思えば帝国のお偉い様のローム・シュツバルツ様じゃないですかご機嫌麗しゅうございます」
「嫌味のつもりですか帝国の次期司令官の私にむかって、これだからならず者の女王は教育がなっていない」
その言葉にソウマが飛びかかろうとするがレーンがソウマの服を後ろから引っ張り静止をかける、なぜ止めたのかという顔でレーンを見てみると彼女は小さく首を振りまるでこのままいいようにはされないから安心して見ていろと目で訴えかけてくる。
ソウマは面白くないといった表情をレーンに送りながら再び2人の会話に耳を傾けることにする。
「何分生きることに精一杯なもので教育は最低限しか受けておりません、帝国のお偉い様方のように煌びやかな場所で食事を取りながらワインを嗜み踊りながら毎日を過ごしているわけではありませんので」
その言葉を聞いた瞬間ローム・シュツバルツの顔色が一気に赤くなり、眉間にはシワがより体はカタカタと震えだし今にも腰の剣を引き抜きそうな勢いであった。
それを見たミユはわざと大きく盛大にため息を吐きながら今までで一番であろう嫌味を言い放つ
「自分が嫌味言われて我慢ならず剣に手をかけようとするなんてお笑いですね、私なら絶対こんな司令官の下で働きたくないわー」
「なっ!」
「頭に血が昇って冷静な判断ができなくなるなんてローム・シュツバルツ様はもしかしたら司令官に向いてないのかもしれませんね」
散々侮辱され顔を赤らめ剣の柄を握り締めるロームを尻目にミユはクスクスと相手を見下すように笑う。
見慣れない男はこのやりとりを見ながらオドオドと両者の顔を交互に見ながら、どう声をかけていいかわからないといった感じでどうしようもできないでいる。
「ね?うまくいった」
振り向いたソウマと目があったレーンは最初からこうなるのがわかっていたかのようにソウマに言う、それを聞いたソウマはミユの言っていた頭に血が昇って冷静な判断ができなくなるという言葉を思い出し少し自己嫌悪に陥っていた。
誰もが動きを見せないそんな状態はそう長くは続くことはなかった、この状態を打ち砕いたのは護衛としてロームについていた兵士だった。兵士は外でこの話を聞いていたのだが、余りにも自分の上官が馬鹿にされたのが気に食わなかったのかギルドの中に勢いよく入ってくる。
「貴様っ!たかがならず者が帝国の次期司令官に楯突く気かっ!」
腰の剣に手をかけていつでも斬りかかることができるぞと言わんばかりの距離まで近づいてくる。
「抜く気?それなら帝国とて容赦しないから、死ぬ覚悟で来なさいよ」
帝国の兵士を睨みつけながら目の前まで歩いて行き顔を近づける、まさに一触即発の状態になっていた。
少しの間静かな状態が続き誰もが動かない状態になるがそれもつかの間、帝国の兵士が右手で剣をぬこうとした、その瞬間をミユは見逃さず右肘を左手で押さえる。
「この間抜けのクソッタレが」
ミユは耳元で囁くと兵士の顔を掴み地面に叩きつける
「正当防衛が成り立つはずですけど?どうなんでしょうかね次期司令官様」
もう一度クスクスと笑うミユからの言葉で完全線が切れてしまったロームは声を上げながら剣を抜き振り上げる。
ドンッ
大きな音が部屋に響き渡り、斬りかかろうとするローム臨戦態勢に入るミユとソウマそして入口から新たに入ってきた兵士たちが一斉に静まり返る。
「少し冷静になることだ」
奥で話を聞いていたルウシスが壁を叩き低い声で全員をなだめる。
その声を聞いた全員が寒気を感じ嫌な汗をかいていることに気が付く、これは警告次はないぞというような威圧感であった。
ミユは少しやりすぎたと反省気味の、しかし納得がいかないような顔で唇を尖らせながら渋々と帝国側の人間から距離を取る。それを見たソウマもそして帝国側の人間も納得がいかないような顔で渋々距離を取る。
「偵察でもいい?」
一番最初に口を開いたのはレーンだった、小さな声だったが聞き取れたようで全員がロームの顔を見る。
最初は顔をしかめて考えていたがやがて
「いささか気に入らんがいいだろう、だが失敗は許されんぞレーン・リリーヴ」
フルネームで呼ばれたことと自分の意見がこの石頭の男に通ったのと両方におどろいたレーンだったが、小さくこくりと頷きミユに目をやる。
「偵察なら問題ないわありがとレーン」
「どうも」
レーンは礼などいらないのにと思いながら小さく返事をする。
「この仕事偵察の依頼としてうけるから、報酬はちゃんと手紙の通り渡してもらうからね」
「なっ!」
「ではお引取り願いますねこれから準備がありますので、ちゃんと獣人たちの動きを偵察してきますのでご心配なく」
満足そうに笑みを浮かべながらミユはロームや帝国の兵士に背中を向けながらギルドの奥の部屋へと足を進める、これ以上は話を聞かないとも取れる行動だ。それに続くようにソウマ、レーン、ルウシスは奥の部屋へと戻っていく。
「それでは帝国の皆様方御機嫌よう、綺麗な衣装で着飾ってパーティーでダンスでも踊りながら間抜け面で私たちの帰りを待っていてくださいねー」
アハハと笑いながらミユは見下すような顔で最後に嫌味を叩きつけ奥に消えていった…