story1.
ここ一週間、大雨が続いている。
仁奈はアニメや漫画では大体こんな時は主人公に不幸が降りかかったり、空からかわいい女の子が降ってきて間違って胸もんじゃったりするものなんだけどなぁ。と頭のなかで考えながら傘を差して玄関から出た。
「おい、仁奈」
仁奈は聞きなれた男の人の声を聞いて傘を少し上げて前を見た。
クラスのHR長の西崎京介だ。黒髪に黒縁メガネなのは真面目そうなのだが、HR長らしくないアシンメトリーな髪形をしている。
「あっ、おはよ京介!!」
「ああ……いつもいつも俺を待たせるな。たまには時間通りに来たらどうだ。バカ」
京介は大きくため息をついた。そう言いながらも仁奈の手からカバンを取り自分のたにかけた。この世話癖は治りそうにない。
「ばかじゃありません!!あたしも起きるように努力はしてるつもりなんだけどうしても起きられないんですのよねぇ……というか、別に先に行っちゃってもいんだよ?」
仁奈がそう言って京介の顔を覗き込むと、京介は不機嫌そうな顔で仁奈の顔を睨んだ。仁奈は慌てて「うそうそ」と言いながら両手を顔の前でぶんぶんと振った。
「そんなことより、京介!あんたモテるんだからさ~いい加減彼女とか作らないの?性格は置いておくとして…顔はいいんだからさ!がんばりなよ」
「…別に……仁奈いるし……」
「え?なに?聞こえない」
「チッ……なんでもない。お前は顔も性格も悪いんだからなんとかしたほうがいいんじゃないのか」
京介はあざ笑うかのようににやっと笑って仁奈を見下ろして顔を近づけた。
「ああああ!うるさいな、わかってるよ!…って言っても好きな人すらまともにできないんだよね……」
「……だから俺でいいだろうが………」
京介は少し大きめの声で言ったが、仁奈は一人で落ち込んで聞いている様子すらなく、京介は大きくため息をついて仁奈の頭を思いっきり叩いた。
そうこうしているうちに、駅についた仁奈たちはポケットから定期を取り出し機会にかざしてホームの方へ早歩きで向かった。
ホームに着くと京介からカバンを渡され、京介は友達のところへ向かってしまった。仁奈も友達を見つけその子のもとへ駆け寄ろうとした。
「あっ、悠里おは―――………」
「おい!邪魔だ!」
「仁奈ッッッ!!!」
仁奈は男に勢いよく突き飛ばされ、線路に落ちそれと同時に向こう側から走ってくる列車の下敷きになり、叫んだ京介の声は列車のブレーキ音によってかき消された。