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魚肉ソーセージ

作者: つゆき

おばあちゃんは今日も魚肉ソーセージを買ってきた。

いつも買ってくる奴は一緒。

私の大好物。お弁当にもおやつにも、いっつも入ってた。

どこ行くにも持たせてくれた。


だからすぐなくなっちゃう。

冷蔵庫にいつも5本は入ってる。入ってないと足りなくなっちゃうからね。


でも最近はたまりっぱなし。

冷蔵庫の扉を開けるとおばあちゃんの買ってきた魚肉ソーセージがたくさん。


私とおばあちゃんはずっと昔から一緒。

おじいちゃんが亡くなってから私の家族と一緒に生活してる。

小さい頃からずっと一緒で、参観日も運動会も何があっても絶対におばあちゃんは来ていた。

あたしはおばあちゃんが大好き。


「琴音ちゃん、琴音ちゃん…」


廊下から私を呼ぶ声がする。

悲しいそうな声音。


おばあちゃん、どうしたの?悲しことがあったの?

なんて声をかけることが私にはできない。

私が悲しい顔をするとおばあちゃんも悲しくなっちゃうからいつも元気でいるの。


「なぁに、おばあちゃん、どうしたの?」

「琴音ちゃん…琴音ちゃん…」


いくら元気に話しかけてもおばあちゃんは元気になりません。

理由はわかってる。


おばあちゃんは家の中を歩き回っていったりきたり。

最近は落ち着きがなくなっちゃって…。

私に何がしてあげられるんだろう。


でも、何もしてあげれない。

私は、今まで育ててくれたおばあちゃんに何もしてあげれない。

恩返しも、親孝行も何もしてあげれない。

なんて親不孝者…。


「琴音ちゃん、琴音ちゃん」


あぁ、そんなに私のこと呼ばないで。おばあちゃんの声を聞くたびに胸が締め付けられる。

私のことを何度も呼びながら家の中を歩き回り続けている。


「ほら、琴音ちゃん…。琴音ちゃんの好きな魚肉ソーセージ買ってきたよ…」


悲しそうな声。

聞いているのが辛くなってしまう。

私の両親もおばあちゃんの様子に心を痛めていた。

誰だって見てるのはつらいよ…。


おばあちゃん、私、死んでるんだよ…。


私は1か月前、友達と買い物に行くために街に出ていた。


久しぶりに買い物に行くとなってうれしくなった私は浮かれていたのだろう。

不注意だった。信号を無視して曲がってきた車にはねられ、運悪く頭を強打。

病院に運ばれたけど私は死んでしまった。


おばあちゃんはその事を受け入れていない。

両親も友達も信じられず毎日ぼんやりしている。

それもそうだ。まだ1か月。そんな簡単に受け入れられるわけがない。


私の名前を呼びながら仏壇の前にうずくまってしまった。

おばあちゃんなりに受け入れようとしてるんだと思う。


ああ、こんな時に「大丈夫だよ、私はここにいるよ」って言ってあげたい。


私の大好きな魚肉ソーセージは誰にも食べられることなくたまっていく。

私の代わりにだれか食べてくれないかな…。


おばあちゃん、私ね、すごく幸せだった。

大好きな魚肉ソーセージもたくさん食べれた。

おなかいっぱいだよ。

だからもう買ってこなくても大丈夫だよ?


私は聞こえないと知っていても、おばあちゃんの隣に行きそっと呟いた。


「ああ、そうかい…。それじゃあまたお腹すいたら言っておくれ。おばあちゃん、琴音ちゃんのために買いに行くからね」


ああ、私の声が聞こえたみたい…。


ありがとう、おばあちゃん。

大好きだよ。

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