管理者エリア(2)
☆カルム・ハル視点
「…あれ?お前が管理人?」
「そうだよ。」
「あれあれ~、なんか魔導士のお爺ちゃんみたいな恰好じゃなかった?」
「それは、管理者だとすぐ分かるように設定しただけさ。今のこの姿のまま大広間に立っていてもあまり信用もされないし、なによりこの姿をあまり知られたくもないからね。」
「じゃあ、何故俺たちの前では『その姿』なんだ?」
「そりゃ、協力してくれるっていうのに『あの姿』じゃダメだと思ってね。」
そのように言いながら、彼は少し笑いを含んだ顔で説明してくれた。
「何個か質問いいか?」
俺は、姿の質問だけでなく今目の前に管理人と名乗る青年がいるのだからいろいろ聞きたいと思い、切り出した。すると…
「どうぞ。元よりここに君たちを呼んだのは、協力をするためだ。協力的にいかないとね。」
あっさりとOKしてくれた…。
「こちらの、ゲームの世界で把握されてるバグっていうのは何なんだ?」
こう質問すると、少し笑いを含んでいた顔はきりっとした真面目な話をするような顔になり、足を組み話始めた。
「まずは、大きな分類で説明していこうか。まず一つ、それはモンスターだ。カルムも知っている通り今回は大規模なアップデートが行われ、今までいたモンスターの改良や新しく作成したモンスターの暴走だ。」
「暴走?」
「つまり、自我を持ってしまってね。システムの範囲外の動きをしちゃってわけだ。」
「それが、バグだと…。」
「あぁ、モンスターではないが君たちはそのバグと話したことがあるんだよ。」
「?」
俺は、首を傾げた。ここまで、会ってきた人間は限られている。管理人のレイクさんにハル、エル…。
「もしかして…。」
「そうそう、管理人専用プログラムのエルだよ。彼女もバグが発生した直後あたりに自我を持ったらしくてね、その時に『エル』という名前もできたらしい。」
「こんな身近に…、よし消しましょう。」
「いやいや、そんなに焦らなくても大丈夫。システムから離れた独自のスキャニングをしたところ今の彼女にはこれ以上の異常は見られなかった。だから、考えたのだが自我を持ったモンスターやNPCたちは、自分が求める姿・形になれたらバグとしての異常状態が消失するのではないかと…。」
「確かに、これだけを聞いているとそうなりますな。」
人間も同じように、自分が欲するものが手に入れられない時は何かしらの行動に出るものだ。我慢して欲求を抑えようとする者や我慢しきれず爆発してしまう者も少なからずはいる。おそらく、それと同じ現象がシステムにも発生しているのだろう。
「それでだ、モンスターには言葉が通じない。それどころか、私たちをプレイヤーと認識すると戦闘態勢に移行する。全てが全て望みを叶えられるわけではない。だから、システムそのものを削除してしまおうと思う。」
それをきくと疑問に思った。管理者である彼ならば、わざわざ赴かずとも問題の解決に踏み込めるのではないかと…。
「それなら、ここでもできるのではないかと…。」
「それが、無理なんだ。さっきも言ったようにシステム外の行動を起こしている。彼らもシステムから離れていてね、こちらからの信号を受け取ってもらえないんだ。だから、一度HPをゼロにして一度システムに戻し、自我が発生する前にシステムごと削除する。」
「システムごと切り離しちゃって、大丈夫なのか?」
「問題ない。その後バグを完全削除したデータを外部から挿入してもらう。ただ、いちいちやってるとゲーム内にいる俺たちに悪影響が出るかもしれない。だから、ある程度削除を行ったら一度に挿入してもらいその間この管理者エリアにいない一般プレイヤー全員を強制的に眠らせる。もちろん、予めアナウンスはする。」
「なるほど、まあ妥当か…。…ところで、何そこでプログラムと一緒にお茶飲んでんだよ!」
俺と管理者が真面目な話をしている最中に、彼女ら-ハルとエル-は我関せずといったように部屋-おそらく休憩室-で二人で全く違った話をしていた。
「だってぇ、そんな難しい話分からないもん☆」
「『もん』ってどこのアイドルだよ。てか、お前キャラ違く…」
「う~ん、何か言ったかな、かな?」
彼女が俺の胸ぐらを掴みながら笑顔で問いかけてきた。レイクさんやエルは、後ろの方で苦笑いしていた。
「というかさ…、ハルさん…首絞まるから…」
「あっ、ゴメン…」
宙に浮いていた俺の身体は支えを失くし、地に落ちた…。