水泳学習
冬のさなかに夏の話を。
6月下旬。職場では水泳学習が始まる。
高学年が水遊びなのか掃除なのか判らないプール清掃をしてから、というのが通例だったが、昨今は職員の手で殆どが行われ、子どもが関わるのはほんの僅か。大人だったら構わないのかと云いたくもなるが、まあそれはそれ。
多少肌寒かろうが、水泳学習が始まると子ども等は大興奮である。校庭を挟んだ教室にまで、その歓声が聞こえるくらいに。
「……」
教室内は反対に静かだ。子ども等は必死の形相で算数のテストと睨み合っている。
……一部、考えることを放棄した輩も見受けられるが。仕方ない、あとで個別指導だ。
気づかれないよう小さく溜息をつきながら、机間巡視。時折質問の手が挙がるが、視線はつい窓の外へと吸い寄せられる。
プールサイドで指導に当たる、己の恋人へと。
日に焼けた躰は引き締まり、肌が弾いた水が陽の光にきらめいている。
背中から臀部にかけてのラインにいつも見惚れる。――ベッドの中で。
(――ッ)
ぞくり、と背筋を覚えのありすぎる感覚が走り、今は仕事中だと己を戒めた。
プール開きから夏休みまでと、夏休み明けから運動会が終わるまでは、禁欲状態が続く。人前で肌を晒す機会が多いのと、運動会前は肉体労働がどうしても多くなるからだ。
傍に居るのに触れ合えないのは辛い。手や口で、とも最初は思ったが、結局お互いに我慢が出来ず最後まで……と、本末転倒の結果にそれも諦めた。
……少し前までを考えたら、これも贅沢な悩みだが。
もう二度と会うこともないだろうと思っていた相手の腕の中で眠りに就ける幸福。
今宵も巡ってくる甘美な時間に思いを馳せながら、「あと5分」とテストと戦う子ども等にカウントダウンを始めた。