蛇足
俺が仕事に行っている間に一度家に帰ったらしい。
「この週末お前んちに居るって云ったら『あら仲直りしたのね』って一言で済まされた……」
俺の長年の葛藤は一体……と凹む背中をよしよしと撫で、甘やかしついでに昼間っからいちゃつきもした至福の週末はあっという間に終わり、月曜日がやって来た。
「おはようございます」
「おはようございまーす」
職員室のあちこちからの応えを半ば聞き流し、俺は自席に荷物を置くとあいつを追い掛けた。
同じように自席に荷物を置き、向かいの先輩職員と楽しげに話す様子に顔には出さず苛つきながら声を掛ける。
「云ってたやつあったか?」
「え? ああ、一寸待って」
確かこの辺に……と机上を探す姿と俺を興味深げに見比べて、先輩が云った。
「お前ら何かあったか? 明らかに先週と様子が違うんだけど」
あった、と輝いた顔が、先輩の言葉に一気に色をなくす。
「ええ。とんでもなく時間が掛かりましたが、漸く仲直り出来ました」
「そうか。初任の頃から見てて、こいつずっとピリピリしてるっていうか、心を押し殺している感じがしてたんだけど、それがなくなってるからさ。良かったな」
ふわりと笑う先輩に、耳まで赤くなる姿を見て嫉妬した。
慣れない仕事に右往左往するこいつを支えていたのは、間違いなくこの人なんだろう。傍には居なくても、それは俺の役目でありたかった。電話の向こう、こいつの変化に気付かず似合わない台詞を鵜呑みにして手を離した俺が云えた義理じゃないのは判っているけれど、それでも。
「ナギ、それよりこれ。元原稿も印刷室にある筈だから」
「ん。有難う、助かるわ」
動揺が懐かしい愛称呼びに表れている。先輩は微笑ましそうにその様子を眺めていた。