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世界にたったひとつだけ  作者: 猫依颯
蛇足たち
15/21

無題

 ――あの頃、楓雅はいつも図書室にいた。

 放課後、図書室のいちばん奥、誰も読まないような古い本ばかりの場所に設えられた閲覧スペースで、物憂げに窓の外を眺める横顔――それを、俺は開かないドアの窓越しに、本棚の隙間から覗き見て、それから部活に向かうのが常だった。

 その場所が楓雅にとって特別だったのを知ったのは偶然。


 きっかけが何だったかは忘れた。図書室になんて縁のない部活仲間と何故かその図書室に足を運び、結局本を読むことはしないで奥でだらだら喋っていたとき、ふと気づいた。楓雅が好んで陣取っている場所だと。

 楓雅は今日、図書室に居ない。図書室どころか、学校にも来ていなかった。風邪を引いたらしい。俺の鞄の中には、帰りに楓雅の家に届けるプリント類が入っている。

 こんなところでぼうっとしていないで、躰動かせばいいのに――中学の頃はあいつも立派な部活莫迦だった――そんなことを思いながら、いつも楓雅がしているように窓の外に視線を向けて……気づいた。

 この場所から、グラウンドの運動部がよく見えるのだと。

 もしかしたら、と希望が浮かぶ。

 もしかしたら、楓雅は此処から、俺を見ていたのではないか――と。


 放課後。

 逸る気持ちを抑えて、楓雅の家の呼び鈴を押す。

 出てきたおばさんは勝手に上がってと俺に冷たい麦茶の入ったグラスを持たせると、買い物に出て行った。


「楓雅、入るぞ」

 中学までは互いの家を行き来していたものだが、高校に上がってからは初めて、楓雅の部屋に入る。

 記憶の中にあるものと何も変わらない――室内に他の奴の気配がないことに安堵しながら、ベッドの上の盛り上がりに声を掛ける。

「楓雅、起きてるんだろ?」

 それくらいは判る。伊達に長い付き合いじゃない。案の定、もぞりと布団の山が動いて楓雅が顔を出した。

「熱は下がったのか?」

 おばさんから受け取ったグラスの片方を渡すと、楓雅は小さく頷いた。

「どれ……確かにもう熱くはないな」

 額に手を当て、楓雅が硬直しているのをいいことに首筋へも掌を滑らせる。滑らかな肌を堪能していると、とくとくと掌の下で脈打つ搏動が、徐々に早くなるのと共に、伝わる熱も増してきた。

「?」

 訝しんだのは、ほんの僅かな間。それが何を示すのか――欲していたものがこの手へと堕ちてくる予兆に、自然と笑みが浮かんだ。

「楓雅」

 赤みを増した滑らかな頬を両掌で包み込み、こつんと額を合わせる。

 覗き込んだ瞳は驚きに大きく見開かれ、今にも零れ落ちそうだ。

 ――愛おしい。

 ただそれだけを思いながら、俺はその言葉を口にした。


「――お前、俺に惚れてるだろ」


 虚を突かれたように一瞬呆然とした楓雅。

「な、なんで……」

 なんで判ったんだ、と掠れた声で呟く。

 判らない訳がないだろう。どれだけ俺が、お前のことを見つめてきたと思ってるんだ。

 噛みつくように唇を塞ぐと、楓雅の瞳からぽろりと大粒の涙が零れる。


 ――もう逃がさない。お前は、俺のものだ。

汀の性格がなんか全然違う……と書き上げて驚いていたり。丸くなったんだなァ。(笑)


さあ仕上げだ、という途中で筆が止まり、新学期が始まったことで更に色んなものと一緒に放置されたが、あまりの忙しさからの現実逃避行動の結果、こんなん仕上がりました……


携帯からの投稿につき、帰宅後修正をかけます。ちまちま書いてはPCで修正していたのでこうなる……


**

という訳で加筆修正が入りました。タイトルはいずれ、気が向いたら。

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