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冬行路  作者: 銀子
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5.ずっと一緒に

 雪のカケラが黒く光っている。それを見た瞬間私は家の外にいた。


「お父さん、お母さん、雪名を守って……」


 私は雪のカケラと両親の形見の何かのカケラを祈るように見、そして走り出した。

春がくれば……。五年前までは春が来てたのにどうして、春は来なくなったの? 春が来なければ夏も秋もこない。

 そういえば、昔お父さんが言っていた。春は、春の使いがもたらすと。その使いは人間であるが、白い心を持っているから雪の女王に認められていると。北風がたくさん吹いたあとに春の使いはやってくる。だったら、何で五年間も春の使いはこないの? 人間ならたくさんいる。どれが春の使いなの?

私はひたすら走った。走り続けた。雪名のもとへ。この白銀の雪の上を。




 私が雪名を見つけたとき、雪名は倒れていた。酷い火傷を何か所かにおっており、雪名の周りをまるで脅すかのように人間たちが囲み、松明を雪名に向けていた。


「おら、雪うさぎはどこだ。今日は絶対雪の女王の居場所を見つけるんだ。ほら、さっさと吐いちまいな。俺たちだって、同じ生物の雪だるまにこんなことしたくねぇんだよ」


 その中のリーダー格の男の人が、松明を雪名の顔に近づけた。


「あちっ……!!」


 雪名の意識はあったものの、朦朧としていた。これじゃあ、まるで拷問だ。もしかして、雪うさぎたちにもこんなことをしていたのか? 雪の女王の居場所を知るために。そして、教えないと殺すんだ。そして、雪うさぎは人間たちに殺されるか、不思議な力を使って死んでしまうんだ。

 雪のカケラがより一層どす黒く光った。


「やめて!!!」


 私はいつのまにか飛び出していた。その人を突き飛ばし雪名の前に。雪名も人間たちも驚いていた。私だって、自分の行動に驚いているんだ。他人はもっと驚くだろう。


「雪名に酷いことしないで!! 私から雪名を奪わないで!! わ、私の大好きな雪名を傷つけないで!!」


 とにかく私は必死だった。自分が何を言っているのかさえわからないくらいに。


「私の、雪名を……私の大好きな雪名に酷いことしないで!!!」


 私は叫んだ。声のかぎり、心の限り。その時、あの形見がピンク色の光を発した。眩しくはなかったけど、光は世界中を包んでいた。そう、この白銀の世界がピンク色で覆われたような気がした。


「な、なんだぁ?」


 人間たちは自分のまわりを、世界を覆うピンク色の光の方に松明をむけた。そして、中でも一番ピンク色の光が強い……そう、南から強い風が吹いてきた。いつもの北風ではなく、暖かく、強い南風だ。


「……もしかして、春一番?」

「え?」


 雪名がそう呟いた。私は雪名の火傷に、雪をかけた。そういえば、これもお父さんから聞いたことがある。北風が吹き終わると南風がやってくる。その最初に吹く南風は、寒さを吹き飛ばすために強風なのだと。この風が、春一番っていうのか。とても、暖かい。


「春が、くる」


 人間たちはそう呟き、暖かい南風を体全体で受けていた。松明の炎は今や南風によって消されてしまっていた。


「春がくるぞ!! 五年ぶりの春だ!! みんなに知らせないとっ!!! 春の使いが戻ってきた!!」


 人間たちは、とても嬉しそうにはしゃぎはじめた。まるで、さっきの雪名への態度が嘘のように。人間たちは、とにかく嬉しいらしくどこかへ走り去っていった。きっと、町にでも帰ったのだろう。そして、あっと言う間に見えなくなり、そこには、私と雪名が残された。


「そうか、お前が春の使いだったのか。この光は春のカケラだな。お前の髪の色と同じピンク色だな」


 雪名はそう言い、首からさげているピンク色に染まった形見を触った。私は雪名の火傷にまた雪をかけた。


「でも、私何も聞いてないよ?」

「そりゃ、そうさ。春の使いっていうのはなろうと思ってなれるものじゃない。春の使いは、ある人間の家が受け継いでいる。春の使いになるには“恋の季節”と呼ばれる春にふさわしく、恋をし、想いを伝えなければならない。もちろん、これは生涯恋をするという意味で、運命の相手にだけ有効だ。それをクリアしたと同時に春のカケラは次の世代へと受け継がれていく。ようするに、運命の相手に告白したら、春の使いになるってことだ。そして、その時に春のカケラのことも知るっていうのが普通だけど、お前の場合は特殊だった。五年前から春が来なかったのは、お前がまだ春の使いになっていないからっていうのと、春の使いだったお前の両親が死んでしまったからだ」


 雪名は説明しながら赤いカラーコンタクトを外し、もとの青い目に戻っていた。私は黙って手当をしながら雪名の話を聞いていた。雪だるまは組織があるからか、たくさんのことを知っている。確かに私の両親は春のことに詳しかった。そして、五年前死んでしまった。そして、このカケラを私に残した。あれ? でも……。私は雪名を見た。雪名も私を見た。


「運命の相手に想いを告げるって……」

「だから、そうゆうこと。俺は小春が好きなんだよ」


 雪名はそう、言い照れながら私を抱きしめた。

 私はあまりのことと、突然の告白に(私の方が先だけど)に思わずうろたえ、そして赤面した。雪名はそれを楽しそうに見ていた。




 それから、相変らず雪はあるけど、春が来て三月になった。雪うさぎたちは春眠し、人間たちは五年ぶりの春に祝杯をあげた。そして、自分たちがしたことの罪の大きさを知った。

 人間は五年前のことを謝った。あれは間違っていたと。そのせいで、与えてくれていた春を失ってしまったと。私は両親がどうやって死んだか実は知らない。そして、今やっとわかった。私の両親は雪の女王の怒りのことを知っていて、雪うさぎを守り裏切り者として殺されたらしい。そう人間たちがいっていた。私の両親はあの出来事が起こる前から、雪の女王の怒りを訴え続けていて、そして今やっと受け入れられたのだ。雪うさぎを殺していた理由は、雪名が話してくれた推測が殆ど当たっていた。だが、それは解決した。雪の女王が姿を現したのだ。雪の女王は少女の姿をしていた。そして、雪うさぎに何もしなければ人間の安全を保障すると、春には雪を溶かすと言ってくれた。もちろん、雪だるまにも何もしないのが条件だ。人間たちはその条件を飲み、私たちは共存に向かって歩みだしていった。



 そして……



「雪名ー! また雪のカケラが黒く光った!!」

「あー、さっきじゃぐちひねったらお湯だったんだよー」


 私たちは相変わらず一緒に住んでいる。春のカケラもピンク色の光を忘れていない。でも、変わったこともある。


「さっき、冬生さんが呼んでいたよ。一刻も早く“人間、雪だるま、そして雪うさぎにも住みやすい国作り”を実行したいんだって」


 そう。まずは雪だるまたちの仕事だ。雪だるまは雪うさぎを守る仕事ではなく、共存のための国作りが仕事になった。もちろん雪の女王の許可のもとだ。そして、私たちの関係も……。

「おう、じゃあいい子で待ってろよ」


 雪名はそういい、私にキスをした。私たちは来年……そう私が十六歳になる春に結婚する。

 どうやら、私の心にも、春一番が吹いたみたい。




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