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Room006 愉しいプールへようこそ。

◇1/11 句読点修正。

 ノイリとマゼンダが仲間に加わってからも、虫族のダンジョン侵攻は止まる気配が無かった。あれからさらに10組来ている辺りどうしようもない。


 とはいっても、そのおかげでアリサはマゼンダに餌やりが出来て、噛まれるまでの仲になることが出来たのだから、アリサとしてはこの際虫族にはどんどん来てもらいたいところだろう。


 けれど残念なことに、虫族の傭兵団もそろそろ全滅してしまうらしい。その情報を虫族から聞いた時、何で誰も帰ってこないのに来るんだよとかツッコミを入れてしまったのが、律儀にも虫族は脅えながら答えてくれた。


 曰く、虫リーダーは生きていてダンジョンに入った奴らと美味しい思いをしている。

 曰く、ノイリを連れ込んで美味しい思いをしている。

 曰く、ダンジョンの主になっている。


 という事なのだがツッコミ所が増えただけで、改めて虫族、というよりこの傭兵団の馬鹿さが露呈しただけで疲れる羽目になった。


 しかも外にある街のことを聞いても旅人を襲ったりしたり、他国に雇われて戦場に行ったり、山に引きこもっていたりとしていた為、街に関する情報は全く得られなかった。


 それでも現状の把握には役立ったのだから、無駄骨ではなかった事が唯一の救いだろうか。現状、つまりはこのダンジョンが山に出現したおかげで、半ば山賊な傭兵団には簡単に発見でき、ギルドは把握に時間がかかるという状況に陥っているわけだ。


 傭兵団を壊滅寸前まで追い込んでから、虫リーダーが唯一の切れ者(?)だったらしいと分かったのだが、悲しい事にそいつはもう生きてない。


 虫リーダーがいなくなって、ただの寄せ集めのゴロツキと成り果てている奴らには、くだらない考えが当たり前のように降って湧いてくるだけの様で、本当に使えない。


 全く、こんなことなら虫リーダーを尋問しておきたかった。


 そんなことを考えても後の祭りなので、貯まったPを駆使してダンジョンを作っていくしかない。


 残存Pが今1160もある。これほどPが溜まったのは傭兵団が平均Lvがそれなりに強かった事が大きく貢献している。アリサ曰く最初に入ってくる敵から貰えるPは1人あたり10P、それにに対して虫族からは20Pも貰えるのだ。


 ただ情報をくれたアリサも自分のダンジョンで起こってた事だから、弱い奴らから来るというのは定かではないといっているが、その法則は正しいのではないかと考えている。


 ギルドが情報把握の為に、まずは弱い奴らを尖兵として差し向けてくるのなら納得できるからだ。いきなり強い奴を出し、万が一にも弱いダンジョンで失ってしまったらギルドにとっての喪失は計り知れないのではないだろうか。


 なら弱い人から送り出し、情報を収集して攻略組みを送り出すのが妥当だろう。弱い奴らがダンジョンの主を狩れば、それはそれでいいと思うし。まあ、全て予想でしかないわけだから、本当のところは結局分からないが。


 でも出来ることは過分にある。まず此処を見つけ出し、ギルドが攻略組みを募るのはまず間違いないだろう。


 だとすれば敵を殺すための仕掛けを今のうちに作ったほうがいい、幸いにもPは溜まっているわけだし、迎撃体制を整えるには何の問題も無い。


 と言いたい所ではあるが実は問題がある。俺が、俺達が人間(・・)としてのきちんとした生活を送るうえでの問題がね。


 こんなダンジョンにいるんだから、食事以外の贅沢目指すなよとか言われるかもしれないが、これは大きな問題なのだ。きっと元の世界の人間なら耐えられないのではないだろうか? いや、案外順応して気にしない人もいるかもしれないけどさ。


 俺は少なくとも耐えられない。




 自分の臭いに




 ああ、そうだよ。今まで敵殺したり、腐りかけの死体を潰したりで服は避難できていたものの、体が臭いなんてもんじゃないんですよ。


 鼻が利かなくなっているせいで普段なら気にならなかったのだが、マゼンダさんがいい匂いを辺りにばら撒いたおかげか、鼻が復活してしまい、気づいてしまったんです。


 気付いたらもう耐えられない、極限状態だったから我慢できていた様なものだと今更気づいた。


 だからこそ今、最初の罠部屋の扉から通じる所に100Pでフロア小を作り、[穴]で100P消費して盛大に床を全てぶち抜き、奥深い穴を作っていたのだ。


 作り終わって気付いたのだがこれ即死罠扱いらしく穴としてきちんと動作しなかった。


 つまりどういう事かというと、透明の床が存在したという事だ。気づいた切っ掛けはアリサ達が様子見に来たせいなのだけれど、何がとは言わないがいやはや眼福である。


 妹分じゃないのかって? 馬鹿だな、純白と蒼の縞柄という至高の美の一端を前にしては、何もかもかすんでしまうのさ……。


 さて、お遊びはここまでにしてこのフロアに100P消費して水属性を付け加え、水を底の方に溜めていく。


 穴の半分ぐらいの深さまで水をためると即死効果が抜け、透明の床からドボンと落ちて皆で久々の水を大いに楽しんだ。


 皆一通り遊んで匂いを落とした後、水の流れを形作っていく。入口の上から勢いよく水が出る場所を作り、増えた分はプールの底に引き摺り込む形で消失するようにして、水の量を一定に保つように設定する。


 これで流れるプールならぬ引き摺り込まれるプールの完成。といってもきちんと泳げば耐えられる程度の流れなのだから良心設計と言える。


 ノイリはプールが気に入ったのかマゼンダから大きな花弁を貰い、それに乗っかってのんびり寝ている。


 あまりにノイリが水遊びを気に入ってここでばかり遊ぶものだから、マゼンダまでやって来た時は流石に驚いた。


 あれ? 人型? あれ? ってな感じに大いに驚いてしまった。


 俺が見たマゼンダはノイリより少し成長した少女といった感じだろう。実際上半身は見た事あったが、下半身まで人型なのを目撃したのは初めてだ。


 最近マゼンダは俺達から何か学び取っているのか、噛むぐらいは以前同様にするのだが、舐めるといった行動はとらなくなり、喋ることは出来ないまでも行動はより人に近くなっている。


 だからといって形まで完全な人型になるとは思わなかった。


 マゼンダの花の色の服を着ているが、あれは自分で生成しているのだろうか? 赤いセミロングの髪と緑の体に似合っている。


 今本体のマゼンダの花がどうなっているのかは分からないが、ノイリとマゼンダの戯れを見ていたらそんな事もどうでもよく思える。


 しばらく見惚れていたが頭を振って作業に戻る。見惚れるのは後でも出来るが、最後の虫族が来るまでに完成させておきたい。


 半分水に浸かる程度の場所に扉をまず作り上げ、それに此処最近戦闘に参加しないで、さらには夜なべまでして完成させていた細工を付ける。扉の先に通路を作る。今はここまでにして次のフロアは作らない。


 最後にプールの底に[糸]を50P消費して張り巡らせていく。この仕掛けを発動させるための[ボタン]は体に見つからない様に厳重に隠す。


 これでこのフロアの仕掛けは完成である。


 後はノイリとマゼンダと遊ぶだけだ! と言いたいでは所だが悲しい事に隠し通路をちゃんと完成させなければいけない。


 粘着沼の落とし穴の横穴は今隠し扉で塞がれて落ちても見えない様になっている。


 こっちには畑用の水の確保と洗濯場として利用もしたいので、隠し通路は必ず作らなければならない。そして隠し通路は万が一にも察知されない様、全部手作りにしなければいけない。


 そこまで考えて溜息をつきながら作業を開始する。


 迷宮を掘る為に改良した針。先が平らに潰されてスコップと化しているそれを使って猛スピードで掘っていく。


 掘って掘って掘り進め、ついに畑フロアへとたどり着いた時俺は速攻でプールへと舞い戻った。


「ノイリーーー!」


 叫びながらプールへとダイブし、虚しさを噛みしめた。


 流石にもう残っていなかったのだ。




◇◇◇◇




 半ば自棄になって隠し扉を完成させ、しかもプールの扉奥の通路に嫌がらせを設置しまくった。おかげで100Pも新たに消費してしまった。


 ここで残存Pは745。結構残っているがこれはもう少し構想を練ってから使おうと思う。


 さて、ここで完成したプールだけど何も自分達の都合の為だけに作ったわけではもちろんない。


 試すためには最初の扉を開けておく必要がある。


 ちなみにだが最初の扉は下から上に上げるシャッター式だ。取っ手がついているのでなかなかその発想には思い至らないだろうが、扉の上に取っ手を入れる穴が開いているので良く観察すれば分かる程度にはなっている。


 本当はもっと分かり辛くしたかったのだが、生憎と今はアイディアが出なかったのでこのような事になっている。


 ま、今回は事前に空けておくので今は関係ないだろう。


 ここに来てまだ虫族が来てないので余裕が出来てしまったが、これを利用してマゼンダの花を確認しておこうと思う。




◇◇◇◇




 結論を言えばマゼンダの花は健在でマゼンダさん自体は花に戻っていなかった。


 そして何故かマゼンダの花の周りに魔族が集っていて疑問符を浮かべる。いい匂いなのはわかるけどなんで魔族だけ? と


 そういえば詳しいステータスを確認するのを忘れていた。この際だからノイリも含め見ておこうと思う。


―――――――――――――――――――

名前:ノイリ

種族:虫人族

職業:ノリトの部下

Lv:1 NEXTLv:10Ex

HP:100/100

SP:300/300

Ex:0


STR :5

INT :10

DEX :10

DEF :5

MDEF:10

AGI :5

LUK :20(+100)


固有能力:《感情の増幅》《癒しの微笑》

戦闘技能:《幸せの歌》

称号:《奇跡の子》

―――――――――――――――――――

 《感情の増幅》…特定の感情を増幅し、周りに伝播させ状態異常に陥らせる。

 《癒しの微笑》…周りに居る仲間の自然回復力が上がる。


 《幸せの歌》…この歌を聞いたものは幸福感で満たされ戦闘を行うことが出来ない。


 《奇跡の子》…幸運の引き寄せてやまない神に愛されし子供。LUK+100

―――――――――――――――――――

名前:マゼンダ

種族:魔族

職業:ノイリの親友

Lv:1 NEXTLv:10Ex

HP:300/300

SP:200/200

Ex:0


STR :160

INT :100

DEX :100

DEF :300

MDEF:100

AGI :40

LUK :30


固有能力:《花衣生成》《誘惑の実》《食虫強化》

戦闘技能:《蔓の鞭》

称号:未取得

―――――――――――――――――――

 《花衣生成》…花の衣を生成し、装備することが出来る。装備時DEF+100、MDEF+100、AGI+100

 《誘惑の実》…虫を冠する種族を誘惑してやまない実を出すことが出来る。

 《食虫強化》…虫を冠する種族を食べるごとにステータスを強化する。


 《蔓の鞭》…体の一部を鞭にすることが出来る。




 感想、なんだこのチートな子達。


 もう凄い、凄いって言葉しか出て来ないんだけど戦闘に参加させられねえええええ!


 そしてなんで魔族しか集まらないのかわからねえええええ!


 もう仕方ないので気にしない様にしようと思う。もし戦わせるにしても本当にピンチになった時だけお願いしようと思う。


 こんなステータス目の毒でしかない、早々と画面を閉じる。成長した魔犬達の様子も見たかったが今は見る勇気が出ない。


 俺もそろそろLvを上げるべきだろうかと不意に思った時だった。測ったようなタイミングでアラームが脳内に鳴り響く。


 良いタイミングだと微笑を浮かべ、プールに続く隠し通路に向かい観察を始めた。




◇◇◇◇




 皆ダンジョンに潜り込んで帰ってこず、最後は俺達5人だけになってしまった。


 そりゃ最初は不安になったが、良く考えてみれば出来たばかりのダンジョンで御頭がやられるはずがない。だとすれば中で楽しんでいるに違いない。


 御頭の敵討ちだと言って入っていった奴らはきっと俺達をだますために演技したに違いない、そしてその後をニヤニヤしながら入っていった奴らはこの事に気づいていたんだ。


 ちくしょう、出遅れたと悪態ついても最後の組になってしまった今は意味がない。せめて何かしらの恩恵があればいいと願いながら転移陣の中に入る。


 次の瞬間目の前に現れたのは小さな部屋と奥へと続く通路のみ。やはり既にダンジョン攻略は終わっていて奥の方でいいことしているのだ。


 怒りを感じながら5人で奥へと進んでいく。


 次の部屋は上から水が降り、下に水が貯まっている変な部屋だった。残念ながら俺たちの組に水に強い虫族はいなかったが、奥に進むにはここから微かに見える扉を開けなければいけない。


 仕方なしに次々と水へと飛び込んでいく。


 近づいて確認した扉は変な文字の羅列が並んでいる鍵と思わしきもので閉じられていた。


 俺達は馬鹿にしてその鍵を外しにかかった。今まで何十という宝箱のカギを、力づくでぶち壊してきた俺達である、こんなの楽勝だ。


 いつもの様に攻撃を加えていく。


 けれど鍵は一向に壊れる気配を見せない。仕方なしに今度は鍵を外しにかかる。


 いくら文字の羅列を上下に回そうが鍵は開かない。だというのに、下に引き摺り込まれる流れに抗って泳ぎながらの作業のせいで、どんどん体力が削られていく。


 焦りを覚え、一旦引き返そうと空へ飛び立った。だが入口は遥か上空、しかも水が上から降ってくるためにそれに抗って進まなければならず。余計に体力が落ちていく。


 1人、また1人と水底へ沈んでいくのを見て恐怖に打ち震え、鍵を急ぎ開けようと焦る。


 焦れば焦る程開かない鍵に苛立ちを覚え、もうどうにでもなれとめちゃめちゃにする。


 するとカチっという音と共に鍵が開き、扉を開けることが出来た。


 その次の通路に喜び勇み、入って絶句する。


 扉の先には針だらけの通路が広がっており、よけながら進むことなど本来なら容易だが、今は体力がない為に困難すぎた。


 後には引けない、だから奥へ奥へと入っていく。先の見えない恐怖に怯えながら。




◇◇◇◇




 最後の一人は足を滑らせて針に刺さって通路の中で死んでいた。


 即死ではないけれど、針から自分の体を引き抜くことも出来なかったのだろう。概ね成功ではあるが、苦労して作った鍵を適当にやってあけられた時は流石に苛ついた。


 他にもう2つほどつけることに決め、死体を回収して部屋に戻る。


 水底に沈んだ死体は隠しボタンを押して水底に張ってある糸の網で引き上げて持ち帰る。


 適当に装備品を取って、アリサと魔族が食べたいという分の肉片を渡して後はマゼンダに持って行く。


 マゼンダではなくマゼンダの花が虫族の死骸を食べたのを見て、一体どうなっているのか不思議に思ったが気にしない事にした。


 何せ考えてもこんな世界の生物の仕組みなどきちんとわかるはずもない。むやみに仮説を増やすのも危険だろうしね。


 さて、とりあえずノイリの話だとこれで傭兵団最後の輩である。結局ギルドに報告しないで終わったらしいが、大変ありがたかったと言っておこう。


 ギルドがあとどれぐらいでこのダンジョンに行きつくかはわからないが、その間に色々策を練らないといけないだろう。


 今回のフロア作成で使ったPが通路や扉もあわせて合計505P、残高655P。ちょっと派手に使いすぎたけれど活用すればどうということもない。


 さてはてこれからどう作っていくかな……。

アリサ「ボールがあれば良かったんですけどね」

ノリト「確かになー、あれがあればもっと楽しかった」

ノイリ「ボールって何?」

ノリト「皆で遊ぶための道具だよ」

ノイリ「面白いの?」

アリサ「面白いですよ」

ノイリ「ノイリもボール欲しい!」

ノリト「……」

ノリト「ちょっと作ってくる」

アリサ「さすがに作れそうな材料ないですよ」

ノリト「神は死んだ!」

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