Room004 こんな虫族ありですか。
◇9/14 誤字微修正
◇1/7 句読点、誤字脱字修正。
マウントポジションを奪われ、闇球を顔面に連続でぶつけられ続け、更には虫族の死骸を顔に押し付けてくるという、お茶目な妹分の攻撃を受けてから少し時間が経過した現在、虫族の方々が未だに攻めてきているという現実に特に変わりはない。それどころか既に倒した数の合計は7組(35人)にも及んでいて、ため息が出てくる始末。
だというのに最初に侵入して来た気持ち悪い虫リーダーのチーム以外、強い人が全く来ない為に貰えるPが1人あたり20P程度しかなく、畑と倉庫で消費したPを補完するだけにとどまっているのはさらに悲しい。
あのチームはこちらを舐めていたわけではなく、結構本気だったという事だろう。中の下とアリサは評価していたがこれは下方修正を入れないといけない。
ま、そんなどうでもいい事はいいとして、今問題なのは貰えるPは微々たるものだというのに死体は未だ増えているという事だ。
数体は畑の肥しとして役立っては貰っているもののそれも限界がある。もうダンジョンに消化する機能でもつけようかと本気で考えてしまう。
もしそれを付けようとすると馬鹿にならないPが飛んでいく辺りこのダンジョンの不便さを感じて泣けてくる。
嬉しい事があったとすれば薬草が上手く根付いていたという事だ。ただこれだけ生命力があるのだから、葉っぱをぶっ刺しとけば育つだろうという俺の仮説は見事に外れてしまった。
困ったことに微かに根が残っていた薬草だけが根付いたのだ。後は青々としているだけでただ刺さったままの状態だった。そういう訳できちんと栽培できた薬草の数はわずかしかない。
といっても成果が上がっているのだから数に文句は言えない。というより水をやっていないのに普通に育っている辺りもう驚きだし、水属性を付ける為にPを消費しないですんだのはありがたい。
総括すると植物の事に詳しいわけではない俺の仮説なんて只の妄想に過ぎないのだから、十分満足のいく結果になっている……、といった辺りだろうか。
薬草畑の様子を見終わった後は日課になりつつある死体漁りに移る。最近腐臭を放つ死体が出始めているので作業は困難を極めるが、漁れば宝が出てくるのでやめる事はない。
出てくるのは主に回復系の薬草やブルーポーション。敵が装備していた武器類などだ。
他にも何かないかと期待してはいるけれどあまり芳しい成果はない。ま、これだけでも十分なお宝なのだからこれ以上は高望みというものだろう。
後使えそうなのは虫族のつやつやとした甲虫類の殻ぐらいだろうか、ここまで剥ぐといつも後で吐くのだが、使えるものは剥ぎ取っておかないと勿体ないのでやるしかない。
解体し終わった死体はフロア中の中に穴を掘ってそこに放り込み、埋めていく。ダンジョンには普通の虫とかがいないので何かが群がる心配もしていない。が、虫族の方が何かを運び込んだ可能性もあるので埋めないという選択肢は存在ない、正直臭いし。
剥ぎ取った部位や武器類などは今隠しフロアに貯め込んでいるのだが、そろそろ手狭になってきている感じが否めない。
今Pが560あるのでフロア小を増やしても別に構わないとは思っているのだが、出来るなら侵入者が最初のフロアから奥に行けるようにしたい。
虫族共は一向に学習しないからいいのだが、最初のフロアで行き止まりという事を知ることが出来れば下の存在に気が付くやつが出てもおかしくない。そうなる前に最初のフロアの扉はきちんと開くようにして奥に続くフロアを作り込みたいのだ。
といってもまずはどうして虫族しか来ないのか確かめないといけないだろう。ちょうどアラームがなったし、これからくる敵さんにでも尋問してみようと思う。
狩場は少し改築(落とし穴を横に広げた)したばかりなのだが、魔族と霊族が合わせて14匹、俺とアリサも含めれば16にもなるので、改築したといっても広さにあまり余裕は無い。
それでも改築する前は隠し部屋につながる通路にまで下がらないと駄目だったのだから、まだ余裕が出来たといえなくもないが。
どの道敵が落ちてくる場所を空けることは出来てもいっせいに飛びかかることは出来ないので、主に手が使える子ブリン、インプ、ゾンビ、アリサが粘着液をかける役割で、魔犬は念のために《吠える》を使用。
骨犬は出来ることが無いので、相手の動きが止まるまでは待機するという形をとっている。
もちろん俺が参加する場合は粘着液をぶつける役割である。こちらとしては水をぶっ掛けてるつもりだというのに、相手は簡単に動けなくなるのだからなかなかに面白い。
だから久々の戦闘(?)参加で思いっきりぶつけてやると気を高ぶらせていたというのに、落ちてきた相手を見て思わず手を止めてしまった。
他の仲間が敵の動きを止めたからいいものの、本当なら相当にまずい行動ではあるのだが、思考が停止しても可笑しくない相手だったのだから許して欲しい。
5人組のうち4人はいつもと変わらない虫野郎だったが、残りの1人が問題だった。
それがなんと……、虫だったのだ。
あれ? 表現が難しい。……そう、虫型の人だったのだ!
これもいつもと変わらない気がするな。
もっと詳しく言うなら可愛らしい顔立ちをした幼女で、黒いショートヘアに赤いメッシュが入っていて、しかも可愛らしい触覚が頭からぴょこんと飛び出ている。
さらに背中にはシンプルな赤丸に黒が特徴のテントウムシの羽が生えていて、それ以外はそのまんま人間の幼女である。素っ裸なので人間の体だということはまず間違いないだろう。
可哀相なことに白い肌には暴力を受けたような傷が複数あり、この5人組の立ち位置を見てみれば虫幼女がボタンを押す位置、他の4人はそれを後ろから眺めるような位置だ。いじめられているのはまず間違いないと見た。
仲間の魔族や霊族が粘着液をかけてすぐに体は隠れてしまったが、俺の中に沸いた怒りを隠すことはできなかった。
尋問しようと元々思っていたところである。遠慮する必要は何もないと残りの4人の近くへ歩いていく。アリサや仲間達には尋問すると事前に伝えてあるので攻撃は一切加えていない。
口元に粘着液がついていない者に問うことにし、まず1匹を見せしめに殺す。
「質問がある」
怒りに染まった瞳から何かを感じ取ったのか残りの虫族は小刻みに震え始める。
「まず1つ、こいつは何だ」
そう言って虫幼女を指差して問う。それに対しての答えは虫族と人族の子、つまりは虫リーダーが襲った人間に孕ませて生ませた子供らしい。
そういう子は他にも何人もいたらしいが、虫族の連中はその子供をもてあそび次々と殺していった。唯一この子は容姿がよかった為に、虫リーダーが育てて将来食うつもりだったつもりらしく、今まで手が付けられていなかった。が、今回虫リーダーが死んだことでこいつらは堪えきれずにダンジョンに連れ込んだらしい。
この虫幼女についている痣はどうやら逃げようと暴れたときについたものらしい。全く最悪な連中だ、吐き気がする。
「2つ目、どうしてお前ら虫族しかダンジョンにやってこない」
これはいたって簡単な理由だった。本来ダンジョンはギルドがきちんと運営管理するらしいのだが、今回はまだギルドがダンジョンの位置を特定できていないらしく、流れの傭兵だった虫リーダー達は偶然このダンジョンを発見し、ギルドに介入される前に好き勝手しようと突っ込んできたらしい。
今まで襲ってきた連中は虫リーダーをはじめとする傭兵団のメンバーだったとか、要するにギルドに位置を把握されない限りは他の種族がこぞって来る必要も無いということだ。
本来ならギルドがそのダンジョンを把握した後、ギルド職員が帰還用の転移陣をダンジョン内入り口に貼ってから挑戦したい者達が種族別で中に入り、パーティーをダンジョン内で組んでから攻略を開始するらしい。
最初から転移陣をギルドに張られたアリサがわからないわけだ。確かに1ヶ月経って敵の侵入と同時に帰還用の転移陣が出来たとしてもさほど疑問を感じないだろう。
ま、そんなことはどうでもいいとして、なんでそこまで知識を持っていながらギルドに相談しないで単独の種族で突入してきたのかと疑問に思い、問い詰めたのだが、傭兵団は無法なこともやっている虫族だけの集団だったためなんだとか、要するに指名手配犯である。
そりゃまあ誰も好き好んで捕まりに行きたくはないわな、でも死んでりゃ世話ないと思うけれどその辺考えてない虫族はどうしようもない。
もうどうでもいい情報が多すぎて嫌になってくるが質問を止める事はない。
「3つ目、このダンジョンにつながってる場所はどんな場所だ」
答えは簡潔に森の中と返って来た。こいつらが持っていた薬草も買ったもの(根っこなし)と摘んだもの(根っこあり)ということだったらしい。
んー、虫族の癖に地味に俺の畑作りに貢献していたとは驚きである。
「4つ目、ここ以外にダンジョンはあるのか?」
この質問には何故か口をつむぐ虫族に首をかしげる。あんなにも口が軽かったのに何故ダンジョンに関することだけこいつらはそろって口をつむぐのか不思議だ。
今までもたまに質問は違うもののダンジョンについて質問したことがあるのだが、全員が口をつぐんだまま死んでいった。全く持って謎である。
「答えられないのならこうだ」
意味はないとわかっているが残っていた虫族を一人殺す。
「だめだ、ダンジョンのことについては話せないんだ!」
初めて聞くその答えに首をかしげる。ダンジョンについて話せないとはどういうことだろうか? この不親切すぎるダンジョンと同様に何か仕掛けがあるのだろうか?
「何故話せない?」
残念ながら虫族はその問いには答えてくれなかった。聞きたいことはもう無いので残り2匹の虫族を殺して虫幼女へと振り返る。
思い切り脅えてビクビクと涙と鼻水をたらすその姿に保護欲が刺激される。妹分のアリサにはもう可愛い要素があまりないし、こういうのは新鮮に感じてしまう。
今は外面を維持して凛と隣にたってはいるけれど、どうせお腹がすいたらまたバリバリと虫を食べだすに決まっている。早いこと普通の食生活に戻さないともし元の世界に戻ることがあれば、飛んでいる虫をひょいっ、ぱく! と食べかねない。
想像したら気持ち悪くなってしまった。こんなアリサを連れ帰ったら園田のおじさんに合わせる顔が無い、なんとか改心してもらわねば。
そこまで考えていつの間にか放置してしまっていた虫幼女に視線を戻す。思考が脱線しすぎてしまったと反省して笑いかける。
「大丈夫、君を殺すつもりは無いよ」
笑いかけられたことに驚き、目を見開いてこちらを凝視してくる。それほど信じられないのかと苦笑してしまう。
近寄って頭をなでてやるとやっと恐々としながらも次第にその身を預けてくる。こんな可愛い虫族なんてありなのか! と叫びそうになってしまうほど可愛かった。
満足して傍を離れた瞬間だった。
黒い塊が唐突に虫幼女を貫いた。
微笑みながら倒れていく彼女を見て俺は後ろを振り返り、アリサを睨む。
「ノリト兄さん、助けるのは私だけにしてください、そういうのを見ると少しイラついてしまいます」
イラつくだけでお前は殺すのか、と一瞬愕然としたがこんな混迷とした世界にいれば仲間以外への態度なんて自ずとこうなってしまうのかもしれない。
俺の性格を知っているがゆえに、俺が蘇生隷属化を使うとアリサは確信しているのもその要因かもしれないが、なんにしても性格を元に調教しなおすのはなかなかに骨が折れそうだとため息をつく。少なくともここにいる限りは無理なんじゃないかと思ってしまうのは無理ないことだと思いたい。
「《隷属化:階級操作》ターゲット:目の前の虫族」
とりあえず今は攻めずに蘇生させる事にする。殺した相手に謝らせるためであり、俺が気に入った幼女を生き返らせるためだ。
『【ノイリ】蘇生隷属化必要P:400 YES/NO』
んー、かなり弱そうなのに蘇生して隷属化するのにはやはりかなりPが必要になるらしい。せめて殺さないでいてくれれば少しも悩まずにすんだのに……、そう思いながらも指は迷わずYESに這っていく。
死んでいた虫幼女ことノイリの体が光り、円陣の上に浮かび上がる。
光が収まった時ノイリは混乱しながらも自分の体を確かめており、怪我が無い様子を見ては驚きを繰り返していく、その仕草もなんだか可愛くて笑ってしまうのは許して欲しい。
アリサは先ほどの不機嫌な表情を既に引っ込めてはいるが、面白くなさそうに殺した虫のところへと歩いていく。もしかしたらこの世界で甘えは為にならないと教えたかったのかもしれないが、人としての心を俺は忘れるつもりが無い。もちろん食事もね。
仲間になったことによって粘着液が水のように感じることが不思議らしく、しばらく粘着沼で遊んでいたノイリはこちらにトコトコと近づいてきて頭を下げる。
「どうしたんだ?」
「マスターのおじさんが助けてくれたんだよね?」
高校生でおじさん呼ばわりはつらいものがある。そしてアリサが虫族の死骸を処理ながら肩を震わせるのを見て余計に精神的なダメージを追ってしまう。
「出来ればおじさんは止めて欲しいかな……」
「んー、じゃあ名前教えて!」
「大沢ノリトっていうんだ。よろしくな」
「ノイリと似てる!」
何がそんなにうれしいのかはわからないが、笑顔で癒されるってこういうことなのか、としみじみ思ってしまう。存外俺におじさんって言葉はあってるのかもと今更ながらに思う。
「ノリトお兄ちゃん……って呼んでもいい?」
喜んでいたと思ったら、今度は不安そうな表情を浮かべてそう呼んでいいか聞いて来るノイリに笑いかけて了承する。
お兄ちゃん……いい響きだ。
「ノリトお兄ちゃん、虫のおじさんたちと違って優しいから好き!」
思ったよりも明るい子らしい。ストレートな物言いに好感を覚える。きっとこの子は将来美人だ、しかも世界有数の美人になるに違いない。
「お礼にこれあげるね!」
ノイリが手から出したものを見て驚く
そこには今まで無かったはずの真っ赤な花がゆれていた。
ノリト「アリサ謝りなさい」
アリサ「ごめんなさい」
ノイリ「どうしてあやまるの? それよりお姉ちゃんって綺麗で妖精さんみたいだね!」
アリサ「本当にごめんなさいっ!」
ノリト「これは将来恐ろしいな」
アリサ「こんな良い子がノリト兄さんに毒されるのは忍びありませんので私が保護したいと思います」
ノリト「鏡を見て言え!」
ノイリ「お兄ちゃんとお姉ちゃんばっかりずるい、ノイリも混ぜて欲しいな……」
アリサ・ノリト「「喜んで」」