表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/38

Room027 貧弱貧弱なエルフの里。

 アリサが犬さん達に俺の迷宮について簡潔に説明した内容はこうだ。

 まず俺も含め、一人一人の力は初級冒険者と中級冒険者(ステータスが平均100として考えた場合)の間であるという事。

 侵入者を撃退できているのは主に罠と運による所が大きいという事。

 外に協力者なんていないという事。

 侵入者を食べても食料が不足しているという事 (アリサのせいで)

 俺が人体(死体)を解剖しているのは本当だという事。

 俺が隷属者を大切にするけど、働かない奴は人形にするという事。


 主にコレぐらいだろうか。いや、これだけあれば絶望して然るべきかもしれない。

 何せ普通なら食糧不足の時点で生き残れないわけだし、実力不足も合わさって生きている方が不思議なぐらいだ。

 犬さんたちに勝てたのも必殺の防御法(俺専用)があるからと、酷くやりすぎた感がある演技のお陰だからな……うん、絶望するかも。

 とはいえ、絶望しても始まらないことは知っている為か、魂が抜けるレベルではなく、頭を抱えているだけというのは評価できる。

 気を持ち直した所で仁王の様に腕を組んで睨んでいるシアがいるので、正直もっと絶望したっていいと思うのだけれど……。


 ともかく襲撃の件は軽く話を聞いただけだし、今度はきちんと主要メンバーであるシア、アリサ、サラ、おーちゃんを含めて話し合うことにした。

 犬さんは自分自身と、そして俺たちにあきれ果てたという態度を隠しもせず、悪びれもせず襲撃の件、ではなく俺に開放してもらった後の事から話始めた。

 正直長い話はいいので、エルフの里襲撃事件をさっさと話して貰いたいのだけれど、それじゃ我慢ならないらしい、シアが激怒しているので早く話してと懇願したいが、さすが冒険者というか、肝が据わりすぎててシアの事を気にも留めない、というよりはどうにでもなれと投げやりになっている気もする。

 もしかしたら、隷属者にしたのだから殺さないと認識しているんだろうか? そうならば俺の中で優先順位が最低で、代わりが立てられる存在というのを認識させた方がいいのだろうか?

 だからといって此処で口を挟みまくり、話をさえぎっても時間が掛かるばかりだ。簡潔に話してくれるらしいので、とりあえずはシアを抑えて話を聞く事にした。


 まず犬さんたちは俺と分かれた後、結婚式をするべく、アクネラと一緒に貯金していたお金を崩したと――結婚資金という事を強調して――話してくれた。

 何でもアクネラと犬さんの結婚は秒読みだったらしい、それでギルド職員の頼みを聞こうという寛大な気持ちが浮かんで受けたんだそうな。

 ま、それはいいとして、結婚資金を崩した犬さんたちは、まず分かり易い要求、というよりは意味のわからない、主のなでなでや、友達といった物を無視して、集めやすい物を買いあさったんだそうな。

 そして買いあさって集める以外に、森に行って種や苗を採集し、それをバッグに詰め込んでいった所までは順調だったらしい。

 けれど他の条件があまりにも意味がわからず、こちらを手放す気などないのだと理解していたが、改めて理解させられたという。

 とはいえそこは発想の転換だとばかりに、開放してくれないのであれば、良い手土産が出来ればいい待遇で仲間に迎えてくれるのではないか、と考えたらしい。

 そもそも無茶な要求だというのは犬さんも俺もわかっていたわけだ。だから犬さんは自分がある程度使えるという事を誇示するだけでいいと判断し、子供用の服と言う観点から、友達というのは子供ではないかと推察し、その無茶な要求をある程度達成する事に決めた。

 もし子供が友達として機能しないとしても、解剖すると思い、無駄にはならないと思ったらしい。まあ確かに子供でも敵で、尚且つ死体であれば弱点探求の為に解剖するけれども、俺ってそういうイメージなのかと少し凹みつつも、そういう理由で子供を集めることにしたんだなと納得した。

 つまりあれだ、やっぱり俺がやりすぎていたわけだ。今度からはもう少し自重することにしようと心に決め、そのまま話を聞いていく。


 犬さん達は方向性を決めた後、襲撃する場所を決めることにしたという。

 孤児院を襲うのはリスクが高く、また自分達も孤児院出身だという理由からあまり気乗りしなかったらしい。しかも生きた魚が要求リストに入っていたため、川が近くにある場所に絞るしかなかったという。

 そこで条件にこの上もなく合致したのがエルフの里だという話だ。なんでもエルフの里では混じり物、要はエルフの姿格好をしていない他種族の特徴が出た子供を、好き勝手に使って金持ちに売っているという話、この上もなく事実に近いその噂を耳にしていたという。

 詳しく調べ、それが事実だとわかった後はすばやく襲撃計画を立て、エルフの里を襲撃したわけだ。

 幸いにもエルフは戦闘経験が皆無で、殺すまでもなく襲撃したら逃げ散って行ったらしく、事前に立てた作戦が馬鹿らしくなるほど簡単で、後は残って怯える混じり物を連れてくるだけの簡単な作業だったとか。


 エルフの里ェ……。


 せめて誇りを持って戦おうとか、そういう気概はないんだろうか? エルフの里はアレですか、馬鹿にされる為に生まれた里なんですかと、声を大にして問いたい。

 もしかしたら混ざり物と呼ばれる子供たちに、賊の相手をして時間を稼げとか言ってたのかもしれない。何せ彼らはエルフの玩具でしかない様だし、エルフの里は容姿が完璧なエルフさえ生き残れば幾らでも再興できる。

 とはいえ国もエルフの里は保護するべきなんじゃ、とも思うのだけれど、エルフは長命だし、何百年先の事まで面倒見れないとか言い訳してるのかもしれない。実際保護し始めると止まる所を知らないだろうから……。

 実際見張りの兵士立てても、エルフ側から文句言われてたとかも十分にありえそうだ。それでも保護しないといけない対象だから面倒だよね。

 それでも呪いの侵攻は徐々に進んでいる、というより外見だけエルフというだけで、呪いが強くて使えないなんて者もいるにはいるらしいし、対処しかねているといった所だろうか。

 もしかしたら呪いの薄い混ざり者を確保して、国家に使えている者と結婚させているかもしれないし、国として最低限やることはやっているのだろう。

 何れにせよエルフの里は近い未来滅亡するのだろうな、ここまで警備が手薄で、犬さんたちが逃げ切れたというのであれば、まず利用価値がその程度に下がっていると見て間違いないだろう。恐らく各国は今エルフの里が使えなくなる時期の見定めしている。


 いや、もしかしたら使えなくなる前に手を打つというのもありえるか?


 エルフの特性を隔世遺伝させるために、数打ち当たるとハーレム、逆ハーレムを作って囲うぐらいはありえそうだ。というより、使えるエルフの減少に伴い、そろそろ各国が取り合いを始めても何ら不思議ではない。

 寧ろきっかけさえあれば全て賊のせいにしてしまって、国がエルフを誘拐することだってありえるのではないだろうか?

 各国が協定を破る事を承認してしまえば、後はエルフの分配を決め、表ざたにはせずに消滅させられる。そうしてエルフ達は一方的に搾取される者達へと移行する……なんてのは流石に妄想しすぎだろうか。


 何れにせよ俺が考えた所であまり意味がない、俺にはそれを止めるだけの力なんてないのだから、とはいえ仲間の家族がいるのだ、無視する事も出来ない。

 今唇をかんで犬さんの話に耳を傾け、母親の情報がないか問いただしているシアのためにも、早めに救出作戦を立てた方がいいだろう。

 それが最も難しいんだけども、手がないことはない、と思いたい。

 シアの仕掛けた転移陣、エルフの逃げ散った後なら決壊も解除されてつかえるようになっていると思いたい。

 というより、それしか手段がない。

 犬さんたちも今更外に行ったところで追われてお仕舞いだろう。


 考えることを考え終わり、俺は犬さんの話を止め、シアへと向き直る。


「転移陣を試して成功すれば救出する。失敗したら悪いが諦めろ」


 お願いではなく命令、恐らくその方がシアにとっても助かるはずだと信じている。もし駄目だったら、犬さんは殺すとしても、きっと感情をぶつけられる相手がいた方がいい。

 アリサが消えてしまったあの日から感情をもてあましてしまった。やり場のない思いは自分の中に何時までも燻り続けてしまうと、俺は経験から知っている。

 時間なんて強い想いがあるものほど、忘れさせてくれないのだから、ぶつかれる相手がいてくれた方が何かと救われるものだ。


 「……わかりました」


 少し逡巡する様子を見せたが、シアはすぐに決断したように転移陣を設置していた、今は物置と化している手作り小部屋へと足を運ぶ。

 恐らく冷静になりきれてはいないものの、早急に実行に移した方が良いという思いはあるのだろう。

 もちろん俺を含めた仲間たちも後を追いつつ、救出に向かうメンバーを選び出していき、シアが転移陣起動の確認を取り次第、共に外へと行くよう指示を出す。

 選出メンバーはおーちゃんと魔狼、アリサ、シア、フランケン。もしもの場合はフランケンを劣りに即時撤退するよう命令しておく。感情を爆発させる現場内とも限らないのだから、命令はあまりしたくないけれど、仕方がない。


 準備を終えたシアがさっさと転移陣を確認して起動したと思ったら、次の瞬間には選抜メンバーごと消えていた。無事突入出来たらしい。

 安全確認が出来た場合は、俺も地上に細工できるかどうかの確認の為、外に出る手はずになっている。けれどそれはあまり期待していない。というのも、ダンジョンの侵入者制限のせいで帰って来られない可能性があるからだ。

 というわけで、俺は俺で残ったメンバーと共に敵が侵入してくる場合の為に、ちまちまと骨を使って簡易バリケードを作り始めた。






◇◇◇◇






 シア達は思ったより早く帰ってきた。

 何かしらアクシデントが発生して、最悪死んだりする場合も想定していたのだけれど、そうはならなかったようだ。

 だからといって良い成果が出たわけではない様で、シアの落ち込みようは半端じゃない。

 闇を背負ってる、という中二病全開の言葉が当てはまりそうな感じだ。もうなんと言葉をかけてやったらいいのやらわからない。

 安っぽい言葉では逆に傷つけてしまいそうだし、そもそも声をかけられるような雰囲気ではない。

 だからといって対処しないのはいただけない。

 なので苦肉の策として、転移陣の撤去作業を終えたシアを、俺と一緒に外へ行くマゼンダ以外の、戦闘を免除した女性陣とまとめて精霊大樹へと放り込んだ。

 男の俺よりも女性の方が何かと吐き出しやすいだろうという配慮であって、決して俺が逃げたわけではない。


 何はともあれ、犬さん達の死刑は決まったようなものだろう。

 だからといって、俺が悲しむシアを見て貯まった鬱憤を犬さん達で晴らすのはお門違いだろう。だから俺はとりあえずバリケードなどを片付けた後、俺は転移陣にのって外の世界に思いを馳せながら跳んだ。


 外は思ったよりも普通だったが、唯一困ったことがあった。

 疲労、というよりは体が一気に衰えてしまったかのような感覚がするのだ。もちろんこれは気のせいではなく、いつもよりも力が出ない、というよりも普通の人間、迷宮に入る前の体に戻ってしまったかのように感じる。

 出てくる場所が部屋の中で良かったと心底思う。原因はよくわからないが、もしかしたら職業が迷宮の主だからかもしれない。

 ステータス表記に問題はないけれど、隠し要素が満載のシステムである。とてもではないが鵜呑みには出来ない。

 とりあえず此処を迷宮化させてみようと思い、内装を迷宮内に運び込む準備をし、カーテンを閉めて外から分からないようにしてから、家の中に小部屋を発生させる。

 出来ればいいなという気持ちだったのだが、思いのほか上手くいった。どうやら迷宮の外でも問題なく能力は使えるとわかったのは中々に大きな発見だ。

 しかし、迷宮化してみると良く分かるが、やはり迷宮の外だと能力を制限されてしまうらしい。現状コレに対して良い解決策が浮かばないので、とりあえずは人が入って来られない様に扉を完全に閉じ、開けられないようにする。

 奥にいける道がひとつさえあればいいという設定は、中々いい設定だったんだなーと思いつつ、人が里に戻ってきたのか、外から声が聞こえてきたので、さっさと迷宮化して制限が解けた転移陣にのり、荷物を蔓で持ってくれているマゼンダを一撫でしてから一緒に跳んで帰った。


 しかしあれだ。外に拠点が出来たのはいいけれど、当分は開かずの家としてホラースポットになるのではないだろうか。何せまだ外に侵攻できるだけの戦力など存在しない。

 ここが街の裏路地とかであれば良かったのだけれど、生憎とここはエルフの里、エルフ以外が居ていい場所ではないので目立つ上に、各国の注目度もまだ高めだろう。だからこそここから外に出るようになれば、嫌でも戦闘、もしくは問題が起こる事はまず間違いない。

 故にここはまだ活用できない。最悪の事態に陥って対処できると確信し、万全を期してからエルフの里を侵略すべきだろう。






◇◇◇◇






 ノリト兄さんに頼まれておーちゃん、サラさんと共に精霊大樹へと向かった。

 あれでいてノリト兄さんはこういった事態が苦手だ、というよりこういった事態に直面したことがほとんどない。

 身内の死というのは、他の人よりも家族を重視するノリト兄さんには重過ぎる。だから自然とノリト兄さんの周りには身内の死に関する話が避けられてきた。

 だから、思ったよりも冷静に判断し、私達に任せたノリト兄さんの対応に意外の念が尽きないけれど、それだけ信用して貰っていると思うと少し嬉しくなる。

 こんな時に不謹慎だけれど、仕方がない。


 でもシアのお母さんの生存は全く望みがないというわけでもない。特に部屋が荒らされた形跡はなかったし、外で乱暴されているといった光景もなかった。

 本当に無人で、エルフの里は人っ子一人いない空虚な空間と化していた。だから恐らくシアのお母さんも逃げて、そして生き延びているのだと思う。

 ノリト兄さんほど考えが深くない私だから楽観的なのかもしれない。いや、ここに来てからというもの、希望があるだけマシだという事実を突きつけられたからかもしれない。

 何れにせよ、私としてはそう落ち込むことも無いと思うのだ。だからといってそれをシアに強要することは出来ない。ノリト兄さんに任された以上どうにかしたいとは思うのだけれど、こういった問題はデリケートだから女同士でも中々触れられない。

 とはいってもサラさんは思いっきり悪乗りして、「悲しゅうございますね」本当は悲しくも何とも思ってないことが明け透けなのに、悲しいですとばかりにメソメソしている。

 まだ仲間になってそれほど経っていないけれど、この子の性格が悪ことははっきりしている。といっても悪魔なのだから仕方ないとも言えるかもしれない。寧ろサキュバスの癖に健全極まりないというのが予想外過ぎるといっても良いほどだ。

 同じ悪魔でもおーちゃんはサラと違って、愚直で可愛らしくシアを励ましているから、性格は個人によるのかもしれない。

 まあ、おーちゃんの励ましも「本能でわかるぞ! きっと母君は生きている」とか、当たり障りのない、けれどどこかずれた慰めばかりだけど……。いや、今はこの方がいいのかもしれない。

 無駄に励ましても効果がなければ意味がない、ならちょっととぼけた励ましで、少しでも笑えた方がいいだろうと、そう思うのだ。だから私は適度に励ましを入れながら、どうにかシアさんに前を向いてもらう方法を模索する。

 私達がこうしている間のしわ寄せは、全てノリト兄さんにいってしまうのだから急いだ方が良い。

 だから色々考えていく中で、シアが家族意外で最も固執している者を思い浮かべ、そして思いついた。思いた後は行動あるのみと、ノイリとインプといった自習している面々へと声をかける。

 後はシアが泣いているという事を伝え、シアの元へと向かわせる。こういったことは子供の方が癒してくれるのではないだろうか。

 前の世界にいた頃、母は何度か私を見ていると癒されると言っていた。

 私をいじって楽しんでいたという説は否定できないけれど、それでもやっぱり子供というのは偉大なのだと思う。私はその偉大さにしてやられたわけだし……ま、今はその話はどうでもいい。


 ほら、やっぱり子供が側に行けばシアは元気になった。今は無理に笑えばいいと思う。涙を流すのは本当に真相がわかってからでいいと思う。

 じゃないと涙が勿体無いってそう思う。今泣いていたら、いざという時きちんと感情の発露が出来ないかもしれない。だからそれまで貯めたらいいと思うのだ。

 そうやって子供の笑顔でも見て、前向きに考えるといい。


 私も現状にやきもきしつつ、それでも薬草食べて日々前向きに生きているのだから。






◇◇◇◇






 事実は小説よりも奇なりという言葉があるように、現実には時として予期せぬ不思議現象、もとい意味のわからぬ現象が起きたりする物だ。

 というのはこっちの世界に連れ去られてからというもの、嫌というほど理解しているつもりではあったのだけれど、やっぱり理解しているようで理解できていないんだなと実感させられる。


 帰ってきてからそう時がたたないうちに、犬さんたちを助けるって提案を、他でもないシアから聞いた時には流石に驚いた。


 女性陣は一体何を話したのか全くわからない、わからないからシアのこの行動も良く分からない。

 犬さんたちの有用性は理解できる。外の知識も冒険者としての知識もシアとはまた違った方面なのだから。ただ、それは何も犬さん達でなくても良い。またやってきた冒険者を捕らえれば済む話だ。外への道を手に入れたのだから他にも方法はあるのだ。

 とはいえシアがそういうのなら生き残らせることに異論はない。もちろん自分の立場をはっきりと認識させないといけないので、多少思い知らせないといけない。

 その事を話せばシアは笑顔で自分がやりますといってきたが、やはりこれぐらいの反応をしてもらわないと不安になる。何せ家族を大切に想っていたあのシアだ、いきなり反応が鈍くなってしまったら怖い。


 やっぱりこれぐらいの反応をしてくれないとおかしいよな、と少しほっとしてしまう自分に気づき、思わず苦笑してしまう。

 こういった面で一番おかしいのは自分だというのに、まるで他人をみて感情があることに安堵しているかのようだ。否、実際安堵しているのだろう。

 この場所では不必要だと思われる感情がそぎ落とされていく、俺はそう予測しているけれど、不必要の範囲がどれほどのものかによって、俺達は人として生きていけなくなる。

 俺は出来れば人を辞めたくない。日本人らしい思考は最悪捨ててもいいかもしれないなんて、そう思ってしまうほど俺の感情は抑制されている。いや、既に日本人としての考えも捨ててしまっているだろう。

 だからこそ、俺は人を辞めたくない。

 もう辞めてしまっているといわれないように、考えることを止めたくない。人間らしい生活を無くしたくないのだ。

 本当に女々しいと思ってしまうけれど、これが俺という人間なのだから仕方がない。


 何はともあれ、丸く収まったのならそれで良い。

 シアに新人調教、もとい指導は任せるとして俺は俺の仕事に戻ろう。

 できれば侵入者を数名迷宮まで送り込んで試してみたい。そのために少し細工をしようと思うのだ。


 今丁度アラームが頭の中で響き始めたことだし、丁度いいだろう。

 そう思ったのだけれど、犬さん達ではなく、アリサとシアの叫びを聞いて予定通りには行かない事を思い知った。

 シアとアリサが反応した新たな侵入者を見て、再度事実は小説よりも奇なりという言葉をかみ締めることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ