Room020 取引という名の賭け事。
◇1/6 ノリト、シアの話のセリフ微修正。
「クククク」
痛みを我慢するためにテンションを高くしたのだけれど、俺は想像以上に痛い奴と化しているみたいだ。
何故わかったのか? そんな質問は野暮といえる。何せ周りがドン引きしているのが顔から読み取れるからだ、それはもう簡単に。
そもそも痛みを伴う予定ではなかったのだ。足を地面に突き刺し、壁認定させることで敵の攻撃が効かなくなるという予想までは良かった。
予想というより以前シアを攻撃したので確信に近かったのだけれど、それにしてもである。
これ、とてつもなく痛いんですが。
斬れないからと安心しきっていたらこの痛みである。寝耳に水というか、何というか。我慢する為に脳内麻薬分泌して、テンションを上げすぎてしまうのも仕方ないと思うわけだ。
そもそもシアに攻撃した際に、痛がっている様子が無かったのは何故だろうか? と今更ながらに思ってしまった。というより考えてみればだ、シアの境遇からしてみれば痛みに慣れていても特におかしくない。
何でこんな簡単な事に気づかなかったんだと自分を叱ってやりたい、でもポーカーフェイスすぎるシアも原因の一因だと思う。最近は特に表情の変化が出てきたので尚更気づき辛かったという理由もある。
俺がわざと剣を殴ったのも原因とか思わないでもないけど。正直避けれたし、避ければよかったと思わないでもないけれど。でもあれは必要不可欠な行動だったし、何より万が一ということもある。
敵の懐に潜りながら避けるなんて高等技術を行使する為に、折角地面に差し込んでいた足が大きく動いてしまい、隙間が出来て最悪壁認定されなくなってしまう。それでは万が一に対応できなくなってしまうので困るのだ。
新たな能力《姿勢制御》を駆使して爪先立ち、つまりは地面に足を差し込んだ状態を維持し、バレリーナ顔負けの柔軟な動きをし、奇天烈な姿勢を維持して斬撃を避けたり受けたりするのも生半可ではない。
2回目の斬撃を避けるときなんて掠らせる間なんて、スケート選手のイナバウアーの如く体を逸らせ、所定の場所を切りつけてもらう練習だって、不自然じゃない様に見えるまで何度も、何度も再現してようやく成功したようなもんだ。
敵の数が多ければまた違った策だったら、俺もそこまで痛い思いをしなくて済んだのだろうけど、でも敵が馬鹿だった場合、今以上に痛い思いをしないといけない予定だったのだから、これはこれでよかったのかも?
思考がいつもの様に爆走しているが、つまりはなるべくして俺は可笑しくなったのか。いや、ちょっとまて、やっぱり納得できん。
なんて狭量な事を考えていても仕方ないし、時間の無駄か。さっきから俯いて笑ってたから相手の顔すっかり青ざめてるし……、結果が出たのだからまあ良しとしようじゃないか。
動きもスキルも封じられて真っ青な3人に顔を向ける。相変わらず斬撃を受けた場所が痛い、おかげで顔が引きつったような笑みを浮かべない様、口角を上げる事を意識して微笑まなくちゃいけないのは中々に面倒だ。
何故か敵がさらに青ざめてしまった様な気もするが、気にしてはいけない。どの道信じ込ませるには丁度いいのだから気にしちゃいけないんだ。
さて、思考がずれにずれたけどそろそろお楽しみの取引といこう、痛みを我慢す続けるのも難儀な事だし。
「焦らすのも何だし本題に入ろうか、俺が保証するのはお前らの命、お前らの対価は全て、こちらの要求するすべてに答えてもらおう。
拒否権は無い、お前らからの返事もいらん。とりあえずはカエルみたいになりたくなければ従え。
とりあえずの要求はこの紙に書いてあるものだ。丁度それなりに使えそうな雑用が欲しかったんだ、本当良いタイミングで来たもんだな。」
ごそごそとズボンのポケットを漁って厳正なる会議の結果、各々が求める品を書き込んだ紙を広げ、最終確認をしてから犬リーダー達に見せる。
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☆ノリトの欲しい物
・野菜等の種
・外で使われている生活必需品
・外界の情報
・精霊の情報
・大人用の服
・子供の玩具
・子供用の服
☆アリサの欲しい物
・お肉とか美味しい物
・あるなら化粧品
・綺麗な服、または可愛い服
・米とか懐かしくも美味しい物
☆シアの欲しい物
・本を2000冊程
・新しい生徒
☆ノイリの欲しい物
・お友達100人
☆おーちゃんの欲しい物
・主の褒め言葉
・主のなでなで
・主
☆インプの欲しい物
・魔草の苗、もしくは種
☆マゼンダの欲しい物
・森に生えている木の苗
・森に住んでいる生き物
・森で取れる生きた魚
・森で……etc
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貴重な紙、それも最初に置いてあった手紙を利用し、敵の血で書かれているせいで見た目は怖いが、内容は至って普通……?
正直作戦よりも白熱した会議になったのだが、内容は作戦よりもずっと質が低い。元々冗談半分で書いているという事もある。
相手を逃がさない為のものだけれど、はたしてどう対応してくるか見物と言った所か。
何年も従順に従ってくれれば解放してもいいかなと思わないでもないけど、貴重な戦力をみすみす逃す手もないので、悪役の如く知らんふりをして絡め捕る予定だったりする。
できれば人形にはしたくないから、そのうち卑劣だけど身内にはいいやつって事をアピールしておかないといけない。その為の策は後で練るとして、今は話を進めよう。
紙の内容を見て絶望したような顔になっている3人を放って話を進める。
「こちらは担保として先程からホルンと呼ばれていた天獣族を捕虜にさせてもらう。その代りと言ってはなんだが、何年かかっても隷属化せずに気長に待つ。別に裏切っても構わないが……、その時こいつの命はないと思えよ?
ちなみに俺はこの世界の住人、特に体の構造に興味があってな。死体を弄繰り回してるんだが、生きている状態の奴はあまり試したことがなくてな、カエルは興味が無かったからさくっと殺したが、天獣族は好みだ、そろそろ試そうかとも思ってるから丁度よくもある。だから裏切りも歓迎するぞ?」
憤慨するホルンの姉であるアクネラを無視しておーちゃんにホルンを渡す。おーちゃんが楽しそうに一人で喋り、ホルンを隠し通路の奥へ連れて行くのを見送ってから再度残った二人を見る。
姉は怒りを瞳に灯しながらも絶望した様に顔を真っ青にし、怒り、もしくは恐れから発生する震えを抑えようともしない。目が完全に死んでいるわけではないのでまだ希望を持っているのだろう。
その様子を見て満足気に頷き、とりあえずメモを犬リーダーのズボンのポケットへ入れておく。
「お前らがどうしようが勝手だが、俺は契約を守ろう。信じる信じないはお前らの自由にするといい、何も外に出ているのはお前らだけじゃないからな、別に好きにしても構わん。
それと妹を飢え死にさせたくないのなら食べ物関係のものは早めにもってこい、こちらは食べる必要がない、だから然程備蓄があるわけではないからな、一応忠告しておこう」
本当ならこいつらから情報を今すぐにでも引き出したいが、そうすれば疑念の余地を与えてしまう。出来るならそれは避けたい、外部に行ける有用な駒として扱う為にも。
であるならば何をすべきか? それは簡単なことだ。誤解させ、疑心暗鬼にさせ、ただ命令に従うようにすれば良い。
危なすぎる橋だが渡りきらないと次には進めない、ならば進むだけ進もう。
「それにしてもエルフを探してきたんだろう……? どうだった、あいつが準備した報酬は魅力的だったか? 演技が上手かったか? ボロを出していなかったか? なんて本当は全て分かってはいるがな、本当うまくやったもんだ。
ああ、気づいてるか分からないが教えるがあいつは仲間だったりするんだよな。さて、真相が分かってどう思う? あいつが憎いか? でも手は出したりするなよ、あいつは有用な駒だからな」
だからそれが何にせよ使うしかない、例え予測でしか語れないとしても語るしかない。例え語って不利になるとわかっていてもやるしかない。
人質だけじゃ弱すぎる。いくらカードが強いといっても俺が死ねばすべてお終いなのだ。なら殺せぬ相手と認識させるほかない、自分達では敵わぬ相手だと、底知れぬ相手だと思わせるしかない。
エルフの体目当てというのは切り捨てた、実力があるやつが女に困るとは思えない、では何故探すのか? もちろんそれが仕事だからだ。
では報酬なしに親切心から捜索しているのか? それこそありえない。こんな死が間近にある世界で他人に親切なんてする輩なんて、世間知らずか単純バカぐらいなものじゃないか? そんな奴はすぐ死ぬのがオチだろう。
少なくともダンジョン攻略なんて命を投捨てるような場所に来る奴等が、他人を親切心から助けるなんて到底思えない。
だとすればだ。実力のある連中が来る気になる様な報酬があるのではないか、そしてそれを頼んだ依頼人ももちろん居るはずだろう。
疑心暗鬼なら全てが疑わしく見えるはずだ。例え依頼人が泣いて懇願していようが、エルフ目当てのゲスだろうが、演技だといってしまえば全てが疑わしい。
予測に次ぐ予測、正直ばれるんじゃないかと冷や冷やしたし、最悪私兵がきてるのかもしれないとも思ったが、顔を歪ませている以上思うところがあるのだろう。つまりはある程度成功しているという事だ。
「あいつに言っておけ、ダンジョンは深くて先が見えない上に罠だらけだ、だが逃げるエルフは確かに見たと。それだけ言えば伝わる、それ以上は時間の無駄だからこちらの指定したアイテム収集に努めるんだな。ああ、来るときは生贄も連れて来てくれると嬉しいな。お前らの仲間の代わりに使いたいんでな」
全てが賭け、本来賭け事なんて好きにはなれないけれど生きる為に必要ならやってるしかない、何せこちらには取引に必要なカードが圧倒的に足りないのだから。
金、物、自分の命すらこちらのカード足りえない状況で取引しようなんてこと事態がそもそも馬鹿げてる。けれど俺には、否、俺達には望みがある。紙に書かれたのはほんの些細な、日常を彩る程度のものでしかないけれど、今後役立つものばかりだ。
攻勢に出れず、攻めてくる相手と戦うことだけに意識を集中しすぎれば精神が疲弊することは目に見えているし、そんな状況が何時までも許されるはずもない。
それなら相手の大切なものを奪い、それをジョーカーとして交渉し、白紙のカードを絵柄カードだと騙して交換し、相手をむしゃぶり尽くして、少しでも有用なカードをそろえなくてはいけない。
今のままでは何年と経たずに攻略される。これは絶対だと考えている。1191人もの人間が挑戦し、失敗している中で、前の世界の知識を使い、工夫した程度で上手くいくなんて考えられない。
なら俺が変わるしかない、この世界にある力を手に入れ、この世界の人間達を超えなければならない。
ならばこその序盤で賭けにでるのだ。
ばれた時のリスクはこちらの仲間がほとんど死ぬ状況に陥ることだが、序盤のダンジョンだからこそ然程危険視されない。それでもリスクが大きい、けれどリターンもその分、いや、それ以上にでかいはずだ。
だからこそ俺は賭ける。
成功率を上げるために、得体が知れないと、狂っていると相手に思わせるよう、この上もなく可笑しな人間だと演技して魅せる。
ふざけたと思ったら計算ずくで、弱いと思ったら強くて、何もないと思ったら何もかも持っている。俺は今、そんなわけの分からない、得体の知れない何かなのだ。
「さて、時間は有限だしお前らもそろそろ動き始めてもらおう。ああ、そうだ。他の奴にも言っているが他にはばれるなよ? 一気に攻めて来て皆殺したら後の楽しみがなくなるからな」
入り口まで目隠しをさせたまま移動し、転移陣の前で拘束を解く。
「ある程度物が集まったらまた落ちて来い」
最後の言葉を聞き届けた2人は魂の抜けたかのようなふらふらした足取りで戻っていった。それを見届けてから精霊大樹の広場へと向かう前に、闇フロアへと足を運ぶ。
そして闇フロアに到着し次第、俺はあらん限りの力で転げまわった。
「いたっすぎっるっ!」
ゴロゴロ
ゴロゴロゴロ
ゴロゴロゴロゴロ
カラカラ
カラカラカラ
カラカラカラカラ
転がるたびに骨が鳴る。いくつか転がらなくても動いている骨があるのは恐らく放置された骨犬だろう。実は骨犬、まだ自力で形を修復できるのが1体しかいない。
できれば全部間に合わせたかったのだが中々上手くいかないのだ。それでも敵を圧倒し、倒してみせたアリサは流石だといえるけれど、折角撹乱用に通路を沢山作ったのに使う機会すらないなんて少し悲しい。そしてそんな機会すら作れなかった弱い格上が恨めしい。
ああ、まだ痛いけど今回はそれが良かったのかもしれないなと今更ながらに思う。もちろん別に気持ちいいとかそういうわけでなく、酷い笑みを浮かべるのに役立ったという意味でだが。
暫くひんやりした骨の上で転がり続けたらネチョッという嫌な音と共に、生ぬるい液体が背中に付着したのが分かった。
それが何か想像した所で勢い良く飛び起き、散らばる骨犬と未だ穴の中に居るゾンビを残し、ダッシュで、懐かしのBダッシュで大浴場へと向かう。
ホルン? 捕虜? そんなの後でいいじゃないか、今はとにかく風呂に入りたい。
精霊大樹の広場で待ち受けていたメンバーを総スルーして大浴場へと飛び込み、水を被り血を洗い流す。
カエルを殺した時点で血は被っていたけれど、既に乾いていたおかげで然程気にならなかったのだが、新しく付着するとどうにも耐えられなかった。
何かしらに集中しているときは別にいいけれど、あの血液と体液が混ざったヌルヌルしてねちょねちょしている感じは何時になっても慣れる事がない。
風呂でサッパリした後、ようやく精霊大樹の広場へとやってきた俺には冷たい視線が刺さったのは言うまでもない。特にアリサは自分も血まみれということもあり、根っこを齧りながら歯をギリギリと……ってまた薬草が食われとる。
インプが居たはずなのにと視線をインプに移すと申し訳なさそうに頭を下げられた。やっぱり畑を守るには俺が出張るしかないのだろうか。
申し訳なくて、けれどアリサのせいで少し呆れてしまっている。そんな複雑な心境の中俺は新たに捕虜と化したホルンに顔を向ける。
天獣族と判断した羽耳は今はしょげ返っているように力なく垂れている。ホルンと姉のアクネラは鳥の人型というわけではなく、戦乙女のような感じといってもらえば分かるだろうか、羽が所々についているただの美少女といえば伝わるかね。
そんな戦乙女なホルンだが、今は恐怖に顔を歪ませている。実際怖がるように仕向けたのだけれど改めて目にすると米粒程の罪悪感が……。
「ノリト兄さん、この人さっさと隷属化しないんですか?」
視線が大浴場の方へと釘付けになりながらも今後の方針を聞いてくるアリサに首をかしげる。
「いや、《投影》で見てなかったのか? 隷属化せずに手元に置いておくんだよ」
「聞いてましたけど別に約束守る必要ないんじゃないですか? シアの時はPが少なかったですし、将来の不安もかなり大きかったので何も言いませんでしたけど、今はあのカエルとか他の奴ら殺しましたし、Pあると思うんですけど」
アリサの言うとおり見ては居ないものの、今回殺した敵のPは十分でかいと俺は踏んでいるし、アリサは経験からPが十分取れていると確信して喋っている。
アリサのいう事も最もだし、隷属化してしまえばホルンを置いておくのは簡単だろう。しかし隷属化されているかどうかの判断は奴隷商人がいる時点でわかると考えたほうがいい、もし判断するアイテムが持ち歩けるのだとしたらそれこそ厄介だ。
復讐鬼になった相手を倒すというのは中々に骨が折れそうだし、そんなのごめんである。
第一Pは敵がどう出るかによって使い道が異なる予定なので残さなくてはいけない。
「俺としては無駄な、というより信用を失うようなマネはしたくないし、Pもなるべくなら残しておきたい」
俺の発言を吟味して「そうですか」と言った後、アリサは自然な動作で大浴場に入っていった。恐らくだが薬草を食べている事に対して俺が突っ込まれない様、それほど考えないで発言してひと段落したら大浴場に入るつもりだったのだろう。
しかも根っこを齧りながら右手新たな薬草を持っていた辺り、恐らく食べならがのんびりすると思われる。
あいつ食欲増してないかなと呆れながら見送っているとシアが近くにやってきた。先ほどまでノイリたちと話し合っていたようだがやはりこちらが気になっていたのだろう。
「パパさん、交渉は上手くいったのですか?」
今回俺達は敵が強くても中堅くらいだろうという予測を立てていた。何せ上級はダンジョン攻略のお金で平和に、あるいは好きに暮らしているというし、何よりそいつらの大半は精霊憑きという話だ。
あいつらが来る前に来た侵入者の話なので真実かどうかははっきりしなかったが、シアから聞いた話を考察するに、精霊は義理堅く、偏屈で、しかも不老の存在であるからして、例え脅された結果だろうが、そんな奴が力を貸した相手に中途半端な態度をとることはまずないという。つまりは力を貸した相手の子供にも力を貸す可能性がかなり高い。
こちらの常識から考えれば可笑しな存在だが、それが精霊というものらしいので真剣に考えるだけ無駄かもしれない。
それでも上級者が来る心配はあったものの、先祖はどうあれ、今ではのんびり暮らしていたり、旅に出ていたりする風変わりな輩達という話である。余程の事でない限り、わざわざ報酬が低いうちに来る事はないだろうと踏んだのだ。
「手応えはそれなりにあるがどうなるかはわからないね。でもま、今回は最終兵器に出てもらわなくて済んだし、それで良しとしようか」
「それもそうですね。あんないい子に虐殺なんて経験させるものではありません」
「そうだな……。この場所で生活するのに不要だと思われる感情は勝手に削られている気がするからな。そんな事になったら、色々悔やみきれないからね」
「そうですね。私もトラウマが緩和されたのは助かりますけど、乗越える訳でもなく、ただ無為に痛みがなくっていくのは、少し哀しい気もしますから……」
今回の作戦に賛同したものの、自分の内心を複雑そうに呟くシアを見て頭をかく。今回の作戦を提案し、細部を詰めて実行した本人としては言える言葉がない。
けれど何もしないというのもなんだか複雑で、あえて肩をポンポンと軽く叩くだけに留め、ノイリ達の方へと向かう。
本当ならホルンの相手をするべきなのだろうが、シアのとき同様俺よりも他の奴らから慣れていったほうがいいだろう。
「ノリトお兄ちゃんおかえりなさいっ!」
久々に聞く挨拶に驚きながら微笑む、修羅場をくぐったばかりの心にいやに染み渡るその心遣いが、未だに残る痛みを心地よく癒してくれる気がした。
恐らくアリサが教えたのだろうなと思い、薬草の件は見逃してやるかとも思ったのだけれど、ふと視界に入った大浴場の扉を良く見ると、アリサが顔をのぞかせてニヤニヤしていたのを発見してしまった。
おかげで心地良さ、相手を許す心など簡単に吹き飛んでしまったのは、はたして良かったのか悪かったのか……。
戦いが終わってみて振り返れば、今回の戦いは概上手くいったし、良かったと締めくくるべきだろう。
「ノリトお兄ちゃん、お友達まだ来ない?」
どうやら新たな戦いが待ち受けていたらしいと苦笑しながら、ノイリとマゼンダ、子ブリン、インプの子供グループに混じって気をそらすことに全力を尽くすことにした。
犬さんとアクネラが戻るまで、どうせすることなんていつもと変わらないだろうし、今はきっとこれでいいはずなのだから。
◇◇◇◇
存在を忘れられたゾンビが竪穴を敵の死体を利用しながら脱出して、同族である骨犬の骨を集め、何度も組み立てて闇フロアから戻ってきたのは、戦いが終わって約2日経ってからだったというのは余談である。
そしてその時現れた骨犬の姿が――だったのはまた別の機会にお話ししよう。
ノイリ「お友達いつくるかなー?」
ノリト「まだ当分先だよ」
ノイリ「先ってどれぐらい?」
ノリト「んー、後何回も寝ないと来ないかな」
ノイリ「だったらいっぱいねる!」
ノリト「そうするといい、おやすみ」
ノリト(思いのほか上手く行ったな……)
……1時間後
ノイリ「まだ友達来ていない?」
ノリト「あはは……、まだまだかなー?」
ノイリ「む~~、だったらもっとねる!」
ノリト「ゆっくり寝るといいぞ」
……1時間後ループ。
そのあともループ。
結局ノリトはノイリに泣かれて苦労する羽目になったのはいうまでもない。
◇真・あとがき◇
今回は句読点に気を使いましたが、自分じゃ良く分からず。多すぎる? まだ少ない? 一応これぐらいが丁度いいかな、と思う程度にしてあります。
今回は句読点や話の内容等、色々試す要素を含んだ話になっております。
なのでご意見は遠慮せずにどうぞ、むしろどんと来いってな感じです。
作品に反映させるかどうかは考えさせて貰いますが、より良い作品に出来る様、考える機会を与えていただければと思います。