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Room017 敵の動きが読めません。

◇1/12 句読点修正。

 あれから2時間ほどたっただろうか、やっと敵が来てアラームが頭の中にこだまする。


 敵が空き時間に一体何をしていたのか知るよしは無いが気になって仕方ない。とりあえず《投影》で様子を見てみると、何故か1種族しかダンジョンに入ってきていなかった。


 そんな彼らは最初のフロアをある程度調べたら、後は何もせずに早々とダンジョンから出て行ってしまった。

 それと同じように複数の種族が種族毎で調べに来ては帰ってを繰り返し、全く戦闘になる様子が無かった。


 調べるなら一度でいいだろうし一体何がしたいのか本気で分からなくなってくる。


「敵が怖気づいてこないとは、私達を恐れている証拠! 今こそ反撃のときっ」


 何か勝手に盛り上がっているおーちゃんは多分敵が来ないことにじれているのだろう。見てやるといった手前戦闘を見ようと思ったのに結果がこれではあまりに不憫である。


「アリサはどう思う?」


「恐らくノリト兄さんの罠で誰一人として帰ってこないので様子を見てるのでしょう。最初来るのが初心者ばかりといえど馬鹿ばっかりではありませんからね」


「となると当分調べて失敗したやつが狩場に落ちてくるのを待つしかないのか」


「そうなります。ただ1つ罠が解かれればチャンスだとばかりに襲い掛かってくるので、わざと教えてあげるのも手かもしれません」


 断言してるって事は経験済みか。警戒してもおかしくないだろうにとは思っていたけれどこれまた唐突だな。


 やっぱりダンジョンで思い浮かぶのって、罠は勿論だけどモンスターとか徘徊してるもんなんだよな。俺のダンジョン今の所敵が来れる場所にモンスターがいないっていうのは今更だけど、そこの所どうなんだろうか……。


 少しぐらい餌を撒いておいたほうが喜んで来てくれるのだろうか? となるとダンジョンにありがちな宝箱を準備して設置しておけばいいのかな。


 そうすると餌になりそうな装備を見繕っておかないといけないのだが、自分だとどの装備が価値があるのかとか良く分からない。


 どの道まだ初心者しか来ていないのだから良いものがあるわけも無いが……。とにかく後でシアを交えてアリサと3人で考えよう。


「とりあえず闇フロア戦闘しやすいようにしといたから確認よろしく」


「わかりました」


 アリサが早速闇フロアに向かうのを尻目にステータ画面を開いて変化が無いか確かめてみる。


 見たところ全く変化がなく、Lvも上がっていない。やはりシアと同じ様にそれらしい事をやる必要があるのかもしれない。


 ノイリとマゼンダも今の所変わりなし、勉強が落ち着いたらそれぞれに職業に見合ったことをやらせてみる事にしよう。


 久々に何か工作したいのだけれどシアに怒られそうだ。アリサやインプに物作りを教えるのも吝かではないが今はそれぞれ忙しいので却下。


 ここの所寝てないし、久々に眠ろう。




◇◇◇◇




 眠れない。


 如何せん眠るにはアラームが五月蝿過ぎる。各種族で時間をずらしてくるので常時アラームが頭の中で鳴り止んでいない気さえする。


 後回しにしていたがアラームが止められるかどうか、もしくは音量が下げられるかどうか調べないと俺の数少ない安らぎの時間が失われてしまう。


 ダンジョンの能力である《シミュレーション》でアラームを工夫出来ないかと試行錯誤してみる。


 《シミュレーション》という能力の凄いところは、ダンジョンで行われる全ての事象を想像する事によって正確にシミュレート出来る事にある。


 俺が他のフロアとの距離を図る時や罠を張る際には大いに役立ってくれている。ただ掘るという規格外の仕様に関してはシミュレート出来ないのが残念だが……。


 それも《ダンジョン把握》を使えば安全に、距離や掘っている何も無い空間の把握なども出来るのでさしたる問題ではないが。


 っと思考がわき道にそれてしまったが、つまり《シミュレーション》でアラームを止めるというのはこのシステム上で調整が可能かどうか調べるものになる。


 例え出来なくても落ち込む必要は無いが格段に難易度が上がるので面倒だ。


 ちなみに今自分のどう行動するかといった事をシミュレーションで再現しているわけだが……、結果は駄目だった。


 思いつく限りの方法を試してみたが無理だ。やはりこのダンジョンのシステムそのものを改変しない限りアラームは止められないのだろうか?


 もしそうなら睡眠をとらなくていいとはいえ、睡眠欲はあるので拷問に近い感覚を味わえるシステムに感動してしまいそうだ。


 何はともあれ先に何か対抗策を見つけないといけないかもしれない。


「パパさん、ちょっといいですか?」


 いよいよ思考の坩堝に嵌り始めているとシアからお声がかかった。仏頂面な顔が今はさらに不機嫌になってこめかみがピクピクと痙攣している。


 アラームに邪魔されて満足に授業ができないことにご立腹なのだろう。


「こうまで邪魔されると流石に困ります。他にも支障が出始めるでしょうしこのままでは不味いかと。いつまでも待ちの体勢ではいるのではなくいっそ私達から前に出ましょう」


「その場合複数の相手と交戦することになるわけだが対策はあるのか?」


「あの狼少女を使いましょう。認めるのも癪ですがこの際仕方ありません、Lv1という低さであのスペック、そして戦闘センスを考えればこれ以上の適任はいないかと」


「確かにアリサは闇の中でこそ本領発揮するタイプだし、前線に出すならおーちゃんが適任だとは思うが……」


「パパさんにいい所見せると張り切っていたのですから、そろそろ見て差し上げないと流石に不憫です。

 大体魔狼だけでも初心者は相手にならないのですから、あの集団に任せればまず間違いなく倒せるかと。最悪の場合でも素早い彼らなら逃げ出すことも容易でしょう」


 それもそうか、あまり前線に出したくないという気持ちもあるので抵抗感もあるが、経験を積ませるには丁度いいのかもしれない。

 今まで待ちの体勢だから気にならなかったけれど、罠を解くのにわざわざ待ってやる必要もないのだ、おーちゃんには存分に暴れてもらうとしよう。


「ついでにパパさんも戦ってみたらいかがですか?」


「それはまだ遠慮する」


 残念ながら最強に近いのではないか、という戦闘スタイルはまだ実用化できるほど訓練を済ませていない。爪先立ちを維持したその先へまだ辿りつけていないのだ。


「そうですか、それじゃあ狼少女にそのことを伝えてきますので、パパさんはノイリ嬢達を労って貰って良いですか? やはり私よりもパパさんの方が喜ぶかと思いますので」


「わかった」


 頼まれなくとも褒めのは当たり前だ。可愛い子は褒めれば可愛く、賢く、大らかに育つと脳内の俺が言っていたし、いや褒めなくともノイリとマゼンダはそれもう綺麗で優雅で可愛らしく育ってくれると確信しているが。


 褒めてやればそれ以上に育ってくれることはまず間違いないだろう。そんなの科学的に証明されないとか言われても間違いないのだから仕方が無い。


 とにかく俺は輝く未来の為に、ゴブリンはどうでもいいが、ノイリ達を絶対に褒めないといけないという使命があるのだ。


 なので早速ノイリ達を褒めに向かう事にした。




◇◇◇◇




「マスター何してるんですか?」


「授業だな」


「シアさんは何処へ?」


「狩場に」


「何でマスターが」


「みなまで言うな。ノイリに頼まれて仕方なくというわけではなく、俺も俺にしか持ち得ない知識があるのでそれを皆に教えようと思ってだな」


「はあ……」


「決してマゼンダが地面に何か教えてと文字を書いたから請け負ったのではなく、純然たる善意でだな」


「わかりました」


 何とかインプを誤魔化す事に成功したようだ。


 事の発端はノイリを褒めていたら勉強を見てほしいというものだったのだが、考えても見て欲しい。


 ノイリが撫でられて頬を高潮させながら勉強見てというので、実際確認して間違いを指摘したら……「お兄ちゃん凄い!」とって飛び上がりながら喜ばれたのだ。それで調子に乗って算数教えたら……。


「ぉおー! ぉおー!」


 と息を荒くして目をきらめかせてもっと教えてと言ってきたのだ。しかも近くで見ていたマゼンダがたどたどしく習ったばかりの文字を地面に書き、上目使いで懇願してきたのだ。


 誰が嫌だと、無理だと言えるだろうか。


 もしいえるのならば、それは人間ではなく化け物ではないだろうか? 人間の姿をした化け物だけが拒否できるのだ。


 ゆえに俺は拒否できない。


 教えて知ったのだが驚いたことにこの世界の言語は統一されている。それも何故か都合良く日本語に。

 今まではダンジョン内だから意思の疎通が出いるんじゃないだろうかと思っていたが、実はそうではなかったらしい。


 元はそれぞれの種族の、それこそ訳の分からない言語が溢れていたらしいのだが、どうやら初代世界の主が面倒だからと決めたらしい。本当ならこの世界の言葉をするべきなのだが、種族間どの言葉で統一するといった問題も多く、仕方なくこういう形になったのではないかと言われている。


 こんなに控えめな、否、擁護するような考えが発表されているのには、呪いの存在も大きいのではないだろうか。

 俺としては聞いている限り暴君だったのだから絶対思いつきでやっただけだろ、と思うのだが真実は今の世代の人間ではわからない。


 まあ、手間が省ける分いらないことばかりする世界の主にしては良くやったと言いたい。

 可愛いノイリ達と喋れると言うのは恨み辛みを一時無視できるだけの恩恵があると思うのだ。


 さて、授業の話をするが今ノイリ達がやっているのが俺達の世界で言う算数だ。それも足し算引き算の段階である。

 ノイリとマゼンダは結構解けていて大きい数に(つまづ)いていただけなので、俺が教えたのは3桁の足し算の簡単な解き方、つまりは上下に数を並べて足したものを下に並べていくといったものである。


 これだけで目を輝かせてくれるのだから子供と言うのは本当に愛らしい。あの子ブリン達でさえ、算数の分かる俺にキラキラした視線を向けているのには驚きだが……。

 でもまあ教本にすら載っていないものなのだから仕方が無いのかもしれない。


 シアも商人を目指していたのならこういった簡単な方法を学んでいるかもしれないが、ただ本を見て学んだのならこれが限界なのだろう。

 いや、もしかしたら暗算で全て出来るようにする為に、こういった簡単な方法を考えたり、教えたりはしないのかもしれない。


 話を聞く限りここは科学が進歩した世界ではないのだ。数字を扱うのはもっぱら金勘定だろう、そしてそれは買い物する際等に即座に行われるものだ。

 なら一々何かに書いて計算するよりも暗算した方がずっと早いはずだ。それならば十二分に考えられる。


 もしかしたら俺は早まった事を教えてしまったのだろうかと考え、簡単な方法を頭の中でやればもっと早くなるかと開き直った。


 とにかく教えてという事は全て教えて言った。


 子ブリンはとにかく頭が悪く、教えるのに根気がいるという事だけは分かった。もしかしたら頭が悪いと言うよりもやる気が無いだけなのかもしれない。


 昔授業中に見たヤンキーと呼ばれる種族の行動と似通っている所が散見される辺り、もしかしたらそれこそが真理なのかもしれない。


「ノリト兄さん、狩場突破されたみたいですよ」


 子ブリンの態度に昔見た人物を重ね合わせていると後ろからアリサの声が声が聞こえてきた。


 振り向きながら《投影》で映し出してみると妖精族の6人組が最初の罠の突破に成功して、そのまま突っ込まずに帰っていくところが見えた。


「お前闇フロアにいたろ? 何で分かったんだ?」


「私にもそれ使えましたから」


 そういって投影している画面を指差すアリサ。確かこれはダンジョンの機能だったが補佐であれば使えたのか、てかアリサなら使えると分かってても全く不思議じゃなかったな。盲点だった。


 でも教えてくれなかったのは酷い、後で問い詰めてやろう。


 ま、それは今置いておくとして。少人数でも狩場に落ちてくることを期待したが、どうやら誰一人としてかからなかったらしい。流石に慎重になっているのかね。


 とりあえず狩場のドアの開き方は後で変えないと使い物にならないと考えた方が良いだろう。喋れないだけであって、他の方法でダンジョンの攻略法を伝える術があるかもしれないのだから楽観視は出来ない。

 敵が進まず戻ったという事もその推測を後押ししている。


「一先ず狩場は一時的に放棄する。アリサと霊族は闇フロアで待機、他の者達はしたい処理のために待機しておく」


「わかりました。私が狩場に戻って伝えてきます」


「ああ、頼む」


 アリサの後姿を見送って俺は心の中で声援を送っていた。


 何せ確実におーちゃんが酷いことになるのは目に見えている。俺が励ますのは構わないが落ち着いてからだと助かるのでアリサには生贄になってもらう事にした。




◇◇◇◇




 結果から言えば敵は水フロアで躓くことになった。


 羽のある種族が中心にやってくるのだが落ちてくる水を遡って戻ると言う行為は大層疲れる。否、疲れるどころか力尽きるものさえ良く見られる。


 敵が撤退、もしくは全滅したのを確認して死体を運び出すが、水を被って重さが増している為にこちら側の苦労も半端ではない。

 だがそれも長くは続かず、またパタリと敵の流れが途絶えてしまった。


「今度は何するつもりなのかね」


「私の経験から言えば水に強い敵さんがやってくるか、道具を使うかですね。でもまだ実力の低い人しか来ていませんから、便利な道具を買う余裕は無いと思いますので前者が妥当でしょう」


「アリサさんは流石ですね。私だと道具の方がありえそうだと思ってしまったのですが、経験はやはり大事ですね」


 臨時召集したアリサとシアが的確な意見を出して俺の疑問に迷わず答えてくれる。

 頼もしいし、嬉しいのだがこの2人職業の話をしていたらというもの殊更仲良くなったのだがどうしてだろうか?


「なるほど、行動が少し遅すぎたか」


「そうですね。狼少女も頑張ろうと強襲する作戦を立てている最中の出来事だったので、相当ふくれていましたよ」


「ああっ、そういえばノリト兄さんよくもおーちゃんを押し付けましたね!」


 なんてこった、地雷をシアが踏んでしまった。わざとかどうか知らないがだがこちらにも切り札はあるのだよ!


「お前こそ《投影》使えるの黙ってたろ? そういうのは良くないと思うぞ」


 全く関係ない話に摩り替わっているのだが、負い目がある以上黙ってしまうのがアリサという名の妹分である。


 確か昔もこれでアリサの怒りを良く沈めていた気がする。ラノベよろしく機嫌取りなんてたまにで十分なのだ。

 でも良く機嫌取りしてた覚えもあるようなないような、はてどうだったか……?


「それは……、悪いとは思いましたが、実際出来るかどうかも分からないのに期待させたくなかったと言うか……、その……」


 久々に試して見たが思った以上に効果抜群だったわけだが、久々すぎて忘れてたけど、これやった後の罪悪感が凄まじいので封印してたんだ……。

 ど忘れして封印をといてしまうとはなんたることか、これからアリサにごめんと誤り続けられると思うと胃がきりきりしてくる。


「いや、俺も悪かったしお互い様って事だ。気にするな」


 ここで俺が土下座してもアリサ逆には気にし続けてしまうのでこれが一番いい手なのだが、これって実は俺が最低のやつにしか見えないと言う困った図になってしまうのだ。

 良くノリトって鬼畜で最低だよなと言われていたけれど、アリサのこの行動が大きいのではないかと俺は思っている。


 いえ……俺が悪かったんです。本当に悪かったのは俺なんです……。すみませんすみませんすみません。


 ッハ!? 危ない。前の世界でアリサのファンクラブに同じ理論を語ったら、ボコボコにされながら諭されたのを思い出してトリップするところだった。


 そいつらには後で嵌め返したからいいようなものを、俺以外だったら泣き寝入りしてるところだったな。


 と何だか昔に思いを馳せてしまったが俺が考えるべきはそんな事ではない。


「とりあえず対策でも練ろうか」


「別にいいんじゃないですか? ノリト兄さんの考えた罠まだ残ってますし……」


「いえ、楽観視は危険です。罠の出来が良くても思わぬ出来事で抜けられてしまう可能性もあるのですから、その後の対処も考えておくべきかと」


「闇フロアも完成しましたし、いざとなったら私が迎撃しますよ?」


 そう言われてしまうと言葉が出ない。

 あまり戦わせたくは無いのだが、一番先頭経験が豊富で初心者をものともしないのは恐らくアリサだろう。


 俺がLvを上げるのにあわせてアリサもある程度Lvを上げたので、正直今の敵では相手にならないと言っても過言ではない。

 さらに新しく工夫した闇フロアはアリサと霊族の為にカスタマイズされている。まず負けはしない。


 ……打開策が見つかっていない今はそれでいいのかもな。


「わかった。打開策は考えておくけどそれまでもしもの時はアリサが迎撃に当たってくれ。敵は出来れば魔族が成長できる様に幾人か生け捕りにしてくれると助かる」


「わかりましたノリト兄さん。謹んで拝命いたします」


「何でいきなり丁寧すぎる言葉遣いを」


「やはりパパさんだからではないですか?」


「そうです。ノリト兄さんだからです」


 意味が分からん。




◇◇◇◇




 何このご都合主義と言いたい。何せ敵さんは想定外の対処法で水フロアは容易く、と言っていいかは分からないが然程時間をかけずに突破してしまったのだ。

 おかげで思わずシアに「よくもフラグ立てやがったなっ!」と抗議してしまうところだった。


 なにはともあれ敵が突破してしまったものは仕方が無い、そもそも敵がどうやって突破したのかと言えば死体回収が単純に間に合わなかった、ただそれだけなのだ。

 原因はそれぞれの種族が分かれて来ていたのでこちら側が完全に油断していた事にある。

 慎重になっている今、突然全種族で再度死にに来るとは思わなかったのだ。


 もしかしたら最初の罠を突破して調子に乗ったのかもしれないと今になって思う。

 初心者特有の高揚感がありそれが実際に遅めに作用したのかは分からないが、今回はそれが上手く嵌って水フロアに死体の山が出来たために、楽に解錠できるようになってしまったというのが今回の顛末だ。


 水フロアの攻略は水に強く、体力のある者ぐらいしか突破できないと見込んでいただけに、かなり残念な結果である。


 しかも何と敵は粘着液のような即効性のある液体をつけた梯子を水フロアに勝手につけ始めてしまった。

 あの道具はシアの話ではそれなりに高いという。ダンジョンに潜り出した初心者にしては充実しすぎていて不気味らしい。


 でもこんな事態を想定していなかったわけでもない。何せこちらは王族ではない者がダンジョン運営しているのだ。積極的に各国が支援していたとしてもなんら不思議ではない。


 けれどシアの話をよくよく聞いてみると、国の補助はもっとダンジョンレベルが上がってからだという。しかし既に補助されている訳だ、シアにはそれが不思議でたまらないという。


 ギルド職員を姉に持つシアはその姿を追っていた。当然ギルドの情報もそれなりに知っていたし、こちらに来る際はより情報を集めていた。

 ダンジョンの攻略に対する各国の方針も掲示板に張り出されていたので簡単にわかったらしい。


 それだけに今回の件がシアを悩ませてならない。


 俺としては国の方針転換はありえそうなので特に考えなかったが、シアには引っかかって仕方が無いみたいだ。

 そのうち飽きるだろうと放って無事水フロアを突破した敵、12人ほどの行方を投影で見る事にした。


 敵はそのまま帰るかと思われたが、怪我人だけ帰らせて他のメンバーはそのまま突入することにしたらしい。

 ここまで恐ろしい罠を体験しておいてどうにかなるかもとでも思っているのだろうか? 良く分からない敵の思考に首をかしげながら見守り続ける。


 ちょろちょろと流れる水が斜面を流れて足を取り、1,2人が転び、通路の針に串刺しにされる。


 怪我人はまた戻っていき、10人となった敵は縦一列に並びながら通路を進んでいく。


 足元を流れる水に気を取られながらも慎重にすすみ、水フロアから流れて貯まった水底にある扉を開け放った。


 そしてそれと同時に敵が吹っ飛び串刺しに、あるいは刺されても止まらず肉片になっていく様は非常にグロい。


 あの道の先は火属性フロアが1つあるだけだ。非常に熱い床があるだけの何の工夫も無いフロアだ。


 あのフロア自体には特に極悪な罠は仕掛けていないので、せいぜい底の暑い靴で走れば十分通過することの出来る難易度の低いフロアになっている。


 けれど今敵が吹っ飛んだようにあのフロアには仕組みがある。


 水フロアから流れ出る水が通路を下り、敵よりも早く斜面の下にある扉付近に貯まり始める。


 敵が針と水を気にしながら慎重に進んだその先には案の定水がたまっているわけだが、この水は扉を開けることによって火のフロアへと一気に流れ出る。


 その際に起きたのが敵が吹っ飛ばす程の衝撃を起す現象、つまりは水蒸気爆発である。


 敵が招きいれた水によって死んでしまう、しかも《罠作成》を使って作っているわけではないので完全に自殺判定である。


 自殺を止めるシステムなど無いのだから即死してしまう。


 今までのお遊びの罠ではなく思いついた中では最も酷い罠なのだが、これは結構問題を孕んでいた。


 その問題というのが水蒸気だ。暑すぎる上に水蒸気がたまっているフロアに何ぞ誰も行きたくない。というのもあるが、何よりあそこで服を乾かしたり等するので快適な生活を送る上では大事な場所なのだ。


 まずは通気口を水フロアへと通すことで水蒸気となった水を下に落ちる水に集約するようにし、問題を解決したのだが、それを思いつくのに何度熱い思いをしたか分からない。

 生活する上で重要だったので頑張ったが、2度とあんな暑苦しい思いはしたくない。


 こうして罠が役立っているのだからそれ以上の文句は無いのだが、予想以上の威力に死骸の後始末に頭を悩ませる羽目になるとは思いもよらなかった。


 2つの罠は突破されたがあそこで結構な時間足止めできるだろう。


 後で《罠作成》で作った[ボタン]を押して扉を閉めなくてはいけないのが手間だが、自動で出来るようにするとコストがかかりすぎてしまうので仕方が無い。


 人件費の無い世界で本当に良かったと思う。


 とりあえず扉を閉めるのはインプに任せたが死体片付けは誰にやってもらうかな……。


 目を逸らす仲間達を眺めながら俺は自らがやるという選択肢を捨てて、誰がやるのか決める事にした。

ノイリ「ドォーンって音聞こえたよ?」

インプ「僕も聞こえました」

ノイリ「なにかな?」

インプ「うーん、分からないですけど今は勉強しましょうノイリ様」

ノイリ「ノイリでいいよ?」

インプ「いえ、僕なりのケジメなので」

ノイリ「ケジメ? って何?」

インプ「僕もよくわかりませんがマスターが言えば大丈夫だと」

ノイリ「わかった! ノイリもケジメやる!」

インプ「いえ、勉強しましょうよ……」

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