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漸く落ち着いてきた鈴花はエルネストがずっと泣き止むのを待ってくれていた事に気づき手で涙を拭う。



「取り乱してしまってすみません。此れからよろしくお願いします」



ペコリとお辞儀をするとエルネストは苦笑をしていた。



「スズカ敬語はいらないって言ったはずだよ?」


そうだったと思い出して鈴花は恥ずかしそうな表情を浮かべながら慌てて言い直す。



「これからよろしくね?」


「こちらこそ」



エルネストの返事を聞き嬉しそうに微笑む鈴花がエルネストには遠い昔に花畑が大好きだと言っていた幼い少女の笑顔と重なって見え、暫くの間昔の事を思い出していた。


無意識なのか指輪を撫で考え込む彼を鈴花は黙って見つめていることしか出来なかった。



二人の沈黙はエルネストを呼ぶ落ち着いた男性の声により終わりをつげた。



声は開け放れている部屋の中から聞こえてくる。鈴花は声が聞こえてくる部屋を見つめた。エルネストも声に気づき顔を部屋へと向ける。


「この声は、ロイクだな彼はこの館の使用人だ。私に使えてくれている。さて、休憩は終わりだ中へ入ろう」


エルネストはそう言いながら立ち上がり、中に居る男性に向けて声をかけた。


「ロイク私は外に居るよ今から部屋に戻る所だ。」


ロイクの呼びかけに答えエルネストは本を閉じ、指輪の入っていた小箱と本を持ち部屋の中へ入ろうと歩きだす。鈴花も慌てついていった。

鈴花が中に入ると、エルネストはロイクと呼ばれている初老の男性から封筒を受け取る所だった。


鈴花はエルネストの横に立ちロイクを見上げる。ロイクは鈴花に気付かずにエルネストに封筒を渡し予定通りに午後から来客が訪ねて来ると告げていた。鈴花はその間ロイクをまじまじと見ていた。



ロイクは茶色の髪に白髪が混じり初めてはいたが身なりをきちんとしているためか、とても気品があった。顔には皺が刻まれているが、瞳は若葉色の様な明るい黄緑色で穏やかな表情を印象付けていた。鈴花にはその瞳がとても珍しく感じ、エルネストやロイクが鈴花には余り見馴れない様な容姿をしている事に気づく。エルネストも鈴花の容姿を見馴れないと言っていた事を思い出すと前に住んでいた国とここが明らかに違う所なのだと感じた。


エルネストが受け取った封筒の差出人を確認し終るとタイミングよくロイクが話しかける。


「エルネスト様、商隊長殿が来られた後は如何なされますか?」


「あぁその事だけど、《猫の薬屋》の主に用事を思い出したから夜にでも訪ねる事を伝えておいてくれないかな?」



「かしこまりました」



ロイクは返事をし、エルネストに向かって一礼をすると、足音もたてずに部屋を後にした。


エルネストは持っていた本と指輪の小箱をベッドサイドのテーブルに置くと、封筒を持ちベッドとは反対側の壁に取り付けられているドアを開け鈴花の方に振り向く。


「スズカ私は此れから仕事をするが君も来るかい?」



そう訪ねられた鈴花は戸惑う。さすがに仕事までくっついて行くのは申し訳なかったが自分勝手に歩き回る事も気が引けた。エルネストは鈴花の気まずさを汲み取ったのか鈴花に声をかけた。


「おいで、仕事が終わったら書斎室で色々と詳しく聞きたいからね。」


そう言われ鈴花自身も聞きたい事があったため、その好意に素直に甘えようと足を向けた。


エルネストはドアを開けたまま、鈴花が入って来るのを待っていた。

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