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やっぱり青年の瞳と指輪の宝石の色は似ている。目が合った事で青年の瞳を覗き込む形になり、間近で見る事ができた。
睫毛も長くて髪と同じように金色をしている。
「あっ瞬きした」
鈴花は自身が幽霊だと自覚し始めたためか、ついつい独り言が出てしまうがあまり気にとめなかった。
「本当に綺麗な目をしてるわ」
感嘆をする鈴花に青年は再度瞬きをする。その表情は驚きに満ちているのだか、鈴花は今だ青年とバッチリ目が合っている事に気づいていない。
一方、青年はいきなり現れた少女に驚きを隠しきれなかった。
今まで一人でつかの間の休憩を楽しんでいたはずなのに、急に現れた少女は気配も何も無く隣に突然現れた。其なりの気配を感じる事が出来る青年は全く感じる事ができなかったこの鈴花に驚きを隠せずにいたのだった。
鈴花は屋敷で働くメイド達とは違う白いワンピースを来ており、この屋敷で働く人々には見えなかった。どうやって屋敷に入ったのか不思議に思われるほど怪しい。また、鈴花の容姿は青年が住んでいる大陸では余り見かけない黒髪をしていた。瞳も黒に近い焦げ茶色で、今はその双方の目が瞬きもせずに青年を覗き込んでいる。
確かに家族の中でも青年の瞳は透き通るような青い色彩をしているが、青年には自分の瞳がありふれた色にしか感じず、少女にそこまで驚かれるとは思わなかった。
こうも純粋に見られると青年の心に悪戯心がニョキニョキと芽生えてくる。
「君も素敵な瞳をしているね」
普段は余り出てこない甘い言葉がついつい出てくる。しかも、我ながらありきたりな表現力しかない事に笑いがでた。今はその笑いは鈴花からは微笑に見えるだろうと思いながら、鈴花がどう反応するのか様子を伺う。
青年がこれ迄会った女性達は青年が微笑むと青年の美貌にうっとりと見とれ、甘い言葉を囁けば顔を真っ赤にする事が多かった。
鈴花もそういった反応を見せるだろうと思った青年は、鈴花の出方を待った。
しかし、鈴花は黒に近い焦げ茶色の瞳をパチクリと瞬かせるだけだった。
しばらく二人の間に沈黙が流れる。
先に口を開いたのは鈴花だった。
「喋った!?」
鈴花は一歩下がり青年から距離を離して叫ぶ。部屋の中ではあんなに呼びかけても無反応だった青年が今自ら声を発した事に対して、驚きの声しか出てこないのは当たり前だった。
一方青年は、顔を赤く染める少女を想像していただけに、鈴花の行動は予想外すぎた。まさか、自分が喋る事にこんなにも驚かれるとは思わなかったのだった。
「私は普通に喋る事ができるよ?」
鈴花は青年がはっきりと答えるのを聞いた。
「私が見えるんですか?」
鈴花の疑問に青年はますます疑問が浮かぶ。
「もちろん見えるよ?」
「本当ですか!?変な事を言いますが、私は幽霊ですよ?」
鈴花はドキドキしながらも、彼と話せる事が嬉しく後先も考えずに自分の正体を話した。
今度は青年が目をパチクリと瞬かせる番だった。少女は幽霊と言う言葉をはっきりと伝えてきたが、青年の頭の中に上手く情報が行き渡らない。
「幽霊?」
鈴花に対してもう一度聞き返す。
「はい!信じられないと思いますが、幽霊なんです。ちょっと、失礼しますね」
鈴花は試しに、青年の肩に触れてみた。鈴花の指先が青年の肩を通り抜ける。鈴花の指先が肩を通り抜けても青年には何も感じる事はなかった。