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内側に開くドアを避けるため、鈴花は慌て左側に移動をする。
この部屋の主かもしれないと考え、緊張しながらも中に入って来る人を待った。
入って来たのは青年で鈴花よりも背が高く、ブロンドの髪は緩いウェーブが肩に掛かるほどの長さがある。鈴花からは横顔しか見れないが鼻筋もスッと伸びていて、顔立ちは整っている事が見て分かった。背が高いために鈴花は青年を見上げる形になった。
青年は鈴花の横を通りすぎ、部屋の奥へと進んで行く。透き通った空のような瞳は鈴花を捉える事はなく、真っ直ぐと部屋の奥にある本棚へと向けられていた。
私よりも背が高いから気付かなかったのだろうか?不思議に思いながらも、声をかけようと近づく。
青年は鈴花に気づく事なく、本棚から目的の本を直ぐに見つけだしたようで本を手に取っていた。
「あっ、あの…すみません」
本の表紙を開く青年に鈴花は声をかけるが、青年は気付く様子もなく本を読み始めた。
声が思っていたよりも小さかったのかもしれないと思い鈴花は青年の背後まで近づき、先ほどよりも大きな声で話しかける。
「あの、すみません!」
鈴花は青年の背後に立っており後2歩程で彼に触れられるほどの近さに居るため青年には鈴花の声がはっきりと聞こえるはずだが、青年は未だに本を読んでいる。
鈴花は先ほど落ち着いた不安な気持ちがまた暴れ始めるのをわざと気づかないように、さらに大きな声をだした。
「すみません!」
その声は少し震えてはいるものの部屋に響く程の声の大きさだったが彼には鈴花の声が聞こえてはおらず瞳は文字を辿るばかりだった。
もしかしたら、この人は耳が聞こえないのかもしれないと鈴花は青年の肩を叩こうと右手を伸ばしかけたが、青年は本に目を落としたまま振り向き真っ直ぐと鈴花の方へと歩きだす。
鈴花は伸ばしていた手がぶつかりそうになるのを避けるため腕を慌て引っ込めようとしたが間に合わずに指先が青年に触れそうになる。
彼は今だに気付くことはなくぶつかってしまうと思った鈴花は目を瞑りやがてやって来る衝撃に備えた。
しかし衝撃は中々こず、変わりに暖かい風が通り過ぎるのを感じ不思議に思った鈴花は恐る恐る目を開けた。すると、目の前に居たはずの青年がそこには居らずその事に驚いた鈴花は慌てて後ろを振り向く。
鈴花は不安な気持ちがますます心の中で存在をましてゆくのを嫌でも感じていた。
後ろを振り向くと青年は本を片手に持ちバルコニーに出ようとドアを開けている。
青年がドアを開ける事で部屋に外からの風が入り純白のレースカーテンがふわりとはためく。薄暗い部屋により一層と明るい光が外から溢れてくる。
その光とレースカーテンの方に向かって青年はゆっくりと歩いて行く姿が見えた。
外光によって、青年の背は暗くなっているが鈴花にはその背が何故か尊く見え不安は一瞬だけ忘れていた。
鈴花が彼の背を見つめている間にその姿はレースカーテンのはためきの中に消えて行った。