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ハイファンでよく出てくるハゲの鍛冶屋が追放された若者を助けなかった話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/09/06

 ズンドコ♪ズンドコ♪ズンドコ♪

「はっ!はっ!はっ!」



 終わった・・な。と思った。


 目の前の少女は太鼓を叩き自分で合いの手を入れている。


「ニャ♪ニャ♪ニャ♪」


 黒猫がそれに合わせてピンと背筋を伸して鳴いている。


 少女は魔女の末裔のロザリー、魔素草、何かの虫、カビの生えたパンとかを目の前の鉢に入れ燃やしている。


 ここは領主屋敷の庭園、公開治療対決の場だ。王都から審判で来られた回復術士たちも困惑の表情を浮かべている。


 対決の相手であるリヒト君はニンマリ笑いを・・・


「ア~ハハハハ、原始人だ!」


 いや、腹を抱えて笑っている。




 俺はハンス、通称ハゲのハンスだ。ああ、商売では役に立つよ。『ハゲの所』で通じるらしい。

 ただ頭髪がなくて頭皮が露出しているだけだ。


 まあ、良い。ここまで至った経緯を述べよう。

 あれは三ヶ月前だった。


 全てはリヒト君が回復術研究所を追放されてから始まった。


 



☆☆☆


 ちょうど三ヶ月前、俺の工房にリヒト君が訪ねて来た。



「僕は追放されました・・・。回復術研究所の薬草科で毎日研究をしていました。

 しかし、成果がでないからと所長直々から追放の宣言を受けました・・」



 当たり前じゃーないか?


 とその時は思った。今も変わらない。


 リヒト君はお得意様の研究所で働いている青年だ。

 時々顔を見ているぐらいの間柄である。



「魔素草の研究をしています。庶民でも安価で治療を受けられるようにしているのに、所長は回復術が廃れるからと研究をやめさせたに違いありません!僕の研究論文を燃やしたりもしました!ヒドいです」



 お前が魔素草での利権が欲しいだけじゃーないか?


 魔素草とはわずかな魔力を帯びている草だ。有難そうな草なので

 民間療法で使われたりする。そこら辺に生えている草だが回復術院で採用されたと聞いたことがない。



 と思ったが、元とは言えお得意様の研究所の人だ。


 丁寧に今までの謝辞を述べた。


「リヒト君だっけ?今までありがとうな。他でも頑張りなよ。若いのだからやり直しはきくよ」


 だが、奴は意外そうな顔をした。


「あの、実は作ってもらいたい物がありまして・・」


 図面を見せる。長方形の箱、人が独り入るくらいの箱か?それにつながる管と機械がある。



「これは、個人用蒸し風呂で、魔素草を煮た蒸気で部屋を充満します。患者さんは顔だけ出して息が苦しくない設計です」


「ほお、素晴らしいな。図面を正確に作って試作を作るとしたら最低金貨5枚欲しいな」



「・・・いえ、出世払いでお願いします」


「お断りします」


「大勢の者が助かるのですよ!」


 いや、その前に俺が餓死するぜ。

 リヒト君は不思議そうな顔をして工房を出た。



「あんた。よく断ったね」

「おう、リリー、大丈夫か?」

「もう、いくら妊婦でも歩く位できるわ」


 女房は身重だ。昔みたいに見込みで仕事はしない。


「しかし、リヒト君、どうしてこんな無茶な頼みをしたのかな?」


「あんた。ハゲで厳ついけど優しいじゃない?ギャップがすごいのよ。だから善い人認定されたのだと思うわ」


「ああ、そうか・・・ハゲ・・・」


 俺の頭はツルツルだ。



 それから回復術士の所長、マリーン女史が打ち合わせで来た。



 その中でリヒト君の話が出てきた。



「あの子、いくら言っても言われた研究はしないのよ。魔素草の研究ばっかり。魔素草は縦断研究がされていて各国では気休め程度にしかならないと結論づけているわね」


「なるほど、研究論文を燃やしたのは?」


「可哀想だけど、重複している物が多くてね・・・書庫が満載になっちゃうわ」



 まだ、20代前半の女性だ。新進気鋭らしい。


「では、野戦救急用の鋏、この図面で作って納品させてもらいますね」

「ええ、これでいいわ・・・」

「毎度!」


 野戦用の鋏、怪我した将兵の軍服を切り裂いて治療する物だ。戦場で服を脱ぐのはなにかと実情にあっていないそうだ。



 それからしばらくして、リヒト君が評判になった。


 魔素草でどんな病気も治すそうだ。


 何故か、マリーン女史と俺の評判が悪くなった。


『回復術院は利権をむさぼっている!』

『ポーション高くて買えないわ』

『マリーンは気休め程度と言っているぜ!』


『ハゲのハンスも仲間だぜ!』


 リヒトの評判が良くなるのは分かるけど何故だ?

 そして、凱旋か?訪ねて来やがった。三人の女がいる。



 隣にはどこか依存心が強そうな令嬢とあれは野良聖女か?

 耳の生えている獣人少女もいた。


「ハンスさん。僕の魔素草治療、評判になったよ」



「おめでとう!」


「で?何か言うことないの?ハンスさん次第で治療器発注しても良いよ?」


 謝罪しろと言うのか?金がないから仕事を断った。それを謝るのか?



「実はエミリー、この領地の令嬢です。森で魔物に襲われているところ僕が助けたんだ。とっておきの魔物が嫌うポーションを投げつけたのだ」


 ポーション?盗んだのか?


「フフフ、リヒト様、勇ましかったですわ」

「エミリー、寄りかかるなよ」


「あー、ズルイ、あたしも」

「ゴホン、皆様、はしたないですわ」



 イチャコラを見せつけられて。


「でさ、近々、領主命令が下るよ。魔素草の公開実験だ。楽しみにしているよ」


 挑戦状をたたきつけられた。


 マリーン女史のところに報告に行くが、既に領主様から実験に参加せよとの通達が来ていた。王都から回復術の重鎮が審判で来る。



「断っても良いけども、それじゃ研究所の名が廃るわね」

「そうですか・・・」

「魔素草を使って患者を治療しろとのことでしょう?研究されまくっているのね。リヒト君の治療は皮膚から摂取するのでしょう?民間療法を調べまくるわ・・・」


民間療法で思い出した。そう言えばいた。



「あの、俺、魔素草を使う魔女を知っています!」

「あら・・・本当かしら?」

「ええ、俺が子供の頃聞きました。黒猫を連れていた老婆で魔素草を使っていると大人が話していました。今も生きているか分かりません」



「是非、呼んで下さい。お金はお支払いしますわ」

「分かりました」



 これも商売だ。子供の頃の聞いた話を頼りに森に行く。


 そしたらお亡くなりになっていた。

 しかし、お孫さんと黒猫がいた。


「グスン、お墓参りに来てくれて嬉しいのです」


「どうも、ハンス工房のハンスと申します」


 15歳でヨレヨレの黒髪に背が低い。

 黒猫は代替わりだろう。


「ニャア!」

「お師匠様は育ての親なのです・・・でも、回復術院がこの領地にできてから女神教の敵として誰も治療を頼まなくなったのです」


「そうですか・・」


「私も女神教徒です。なのに、グスン」

「その回復術院からの依頼だ」

「断るのです!」


「ロザリーさん。それはいけない。鼻を明かしたいと思わないか?」

「グスン、どうせ、商売なのです」


「商売さ。でなければここに来なかった。それよりもお師匠様の技を皆に見せつけてみないか?」


「本当ですか?信用できないのです」

「ニャ」


「だから商売だ。君の技が証明されれば回復術院は潰れなくて済む。そして、仕事をもらっている俺も助かる。だから、信じてくれとは言わないが、信用は出来ると思うぜ」


「分かったのです」


 これで何とか招待することが出来た。



 工房で泊まらせて打ち合わせをした。女房は気に入ったらしい。



「妊婦さんなのです」

「ニャア!」


「あら、見るのは初めて?」

「はいなのです」

「ニャン、ニャ-」


「あら、猫ちゃん。お腹にスリスリして分かるのね」


 リリーに気に入られた。良い子らしい。



 そして、対決の日を迎えたら・・・





 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 公開実験の当日。ロザリーさんは

 ズンドコ♪と太鼓を叩いてやがる。


 香の煙が立ち上がったら。


 次は吹き矢・・・を取り出して。


「フウ~、フウ~なのです」


 自分でフウフウと口に出して患者さんに吹きかけていた。



 患者は金貨10枚のポーションでなければ治らない。金がない貧民だ。

 傷口から悪霊が入り込み腐る病気と判明された。

 腐病だ。


「ウウ、ウウ-」

 患者さんは苦しそうだ。



「はい、ロザリー殿、治療は終わり。・・・・変化なし」


「違うのです。これは日に分けて治るまで治療するのです」

「ニャア!」


「そうか、魔女殿の意見、認めよう。リヒト殿も同じだ」


 一方、リヒト君も同じだった。


「フウ、中々、手強いです。僕も明日行います」


「うむ。認める」



 その後、リヒト君は領主屋敷に泊まり。貴族が群がっている。

 利権だろうな。


 もう、エミリー嬢は婚約者扱いだ。



 一方、俺とロザリー、マリーン女史はそのまま帰った。


 ふざけた治療方法だがマリーン女史は違った。


「これは・・・もしかしてよ・・・」

「完璧なのです」

「うっかりしていたわ。私、専門馬鹿になっていたわ。すぐに歴史の資料を集めるわ」


 何か、回復術士の琴線に触れるものがあったらしい。


 そして、三日後。ロザリーさんの治療は・・・効果があった。



「ゴホ、ゴホ、あれ、起きられたぞ・・」


「ロザリー殿の患者、トム殿!完治に向かっています」

「良かったのです!」



 一方、リヒト君の方は・・・

「患者、悪化しております!緊急のポーションが必要です」

「うむ。やむを得ない。実験に参加した対価としてポーションでの治療に切替える」



「待って!僕もポーションを持っているよ!ポーションで少し直して継続させて下さい!」


「ダメだ。許容出来ない。完治だ!そのポーションを全部飲ませなさい。これは審判の命令だ」



 リヒトは高級ポーションを持っていた。

 今の身分なら持っていても不思議ではないが・・


 患者にポーションを飲ませて完治だ。これはロザリーさんの勝ちか?いや、両方治って良かった。


「ちょっと、リヒト、そのビン見せなさい」


 マリーン女史がリヒ君の空き瓶を奪い取った。


「うわ、何を・・」


「これは、私の回復院で作った高級ポーションよ。ビンに紋章と製造番号が入っているわ!」


「そ、それは、退職金代わりにもらったものだよ!」

「たいしょくきん?」



 結局、リヒト君は横領で捕まった。

 周りの女達も精霊が落ちたように元に戻ったようだ。


 それからここら辺の歴史を調べたら、腐病を治している魔女がいたとの記録があった。

 魔王軍の死霊にも効果が見込まれるとのことだ。


 ロザリーさんの治療を研究することが決まった。


「ロザリーさん。当回復術士院に来て下さいませ」

「分かったのです」

「ニャア」


 ロザリーさんの太鼓か?黒猫の鳴き声か?魔素草か、虫か?それとも青カビの生えたパンなのか?それとも全部か?

 徹底的に分解して研究するそうだ。でも、青カビはないだろうな。



 あ、俺は・・・子供が出来た。


「オギャー!オギャー!」


「可愛いのです。手が小さいのです」

「ニャ!」


「フフフフフ、女の子よ。お姉さんになってくれたら嬉しいな」

「はいなのです」

「ニャア!」


 ロザリーさんと黒猫は二階に下宿してもらったが、

 何故か俺の生活圏に入り込んでいる。

 女房も気に入っているし養子にでもしようかと思案中だ。




 ・・・欧州でもルネッサンス前に民間療法で大論争が起きた。いわゆる武器軟膏論争だ。

 この異世界も同じで回復術士は論争をし治療に使命を感じていることをリヒトは知らなかった。

 尚、リヒトの研究はサウナの発熱による健康促進以上の効果は無かったと伝えられている。




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