第1章 入学式 第2節
僕が教室に着くと、みんなはもう周りと喋ってたりしていた。最後の列だったから当たり前か。6×6で36人クラス。クラスの決め方がどうなっているのかを調べたいところだが、まずは席につくとしよう。少し考えすぎて立ち止まっていたせいで周りからの視線が痛い。席について荷物を置いたらすぐに、隣の子に話しかける。
「僕は氷室。3年間よろしく。あなたは?」
正直なかなか勇気ある行動に見えるが、隣は男の子だったので小林の時よりはグレードダウンしてしまう。
「俺の名前は中川。アホだから勉強教えてくれよ。隣同士仲良くしようぜ。」
アホなことを自慢しているかのような口ぶりだった。
きっと仲良くできるタイプだろう。僕は初めての高校の友達として彼を勝手に登録した。
ここで僕は一つの出来事を思い出した。この高校の入試について。家庭での受験だったが問題自体はAIにとかしても難しい問題ばかりだったはず、なのに中川はなぜ受かったのかが少し気になってしまう。だが、この関係性で聞くのは違うがやはり気になる。
『いや、聞いてみよう。』
心の中で決断をする。でもこの決断には意味がなかった。前の時計で11時ちょうどになった瞬間に先生らしき人物が入室してきた。まずは顔をよく見るのだが、よかった。司会をしていた先生ではない。
「ほっ。」
安心した時の一息を心の中で声に出す。正直言って口から声が出るところだった。最初のガチャはハズレではなかったな。周りを見渡せばみなも、安堵の表情を浮かべていた。
「これからこの1-Aを担当する早川だ。まずは夏休みまでよろしく頼むよ。」
女の先生みたいだが、顔がすごくキリッとしている。女子が惚れるタイプの先生だと今までの経験から分析する。はっきり言って中川よりかっこいい。よく見たら何も持ってきていない。にしても若いな、この先生。
「まずはメールに届いてるクラスの招待を受けてくれ。拒否もできるが、したらどうなるかはわかるだろう。」
察しの悪いやつは何でもかんでも聞こうとする。
「拒否したらどうなるんですか。まさか退学とかになったりしませんよね?」
教壇の前にいる生徒が話し出した。
はっきり言って僕も停学期間や基準は明確に知っておきたい。今後どうなるかわからないし。
「退学は流石にかわいそうだろう。一週間の停学とさせてもらう。さっきのアイスブレイクでも停学者が出たのだが、そいつも停学一週間だ。」
それを聞いた途端一斉にメンバーの中に生徒が追加されていく。
「君の出席番号がないけど、拒否したのかい。そんなことをするような人にはみえないけど。」
名簿には出席番号が順番に並んでいたので25番がないのくらいすぐにわかった。
「俺は参加ボタンを押したさ。そしたら画面に参加を拒否しましたって表示された。俺だけ不参加とかありえねえだろうがよ。どうしたらいいんだよ。」
これは相談を持ちかけているのだろう。
「まずはこれを見て落ち着いてほしい。拒否者は中川。お前だけじゃない。まずはその時計の画面を僕に見せてくれないか。」
停学がかかったやつの最後の希望がこの僕にある。見せるほかないだろう。そこには再度参加を要求すると書いてあるボタンがあった。僕は押そうとするが直前で止める。その瞬間文字が変わり、今後一切参加をしないというボタンに置き換わる。
「これは運命だ。これから表示されたものを全て押すしかないだろう。」
そんなのは理屈として成り立っていないことはわかっている。だがこれは、高校からの支給品である以上可能性の範疇に入れておく必要がある。
彼は僕の言葉に頷き、ボタンを押し始める。
「あと5分以内に参加できなかった人は停学となる。」
僕はもう一度、名簿を見返して番号のない席を探す。
「2番と16番、そして25番か。」
と誰にも聞こえない声を発する。三人に共通する特徴があるのではと思い、まずは外見を観察する。集中が限界まで達した時に、
「参加できたー。よっしゃー。」
中川の声が教室中に響きわたった。
「おめでとう。」
初めて喜んでいる顔をみた。さっきまで少しイキっている感じがあったがこれが素なのだろう。
「うるさい。少しは周囲のことも考えろ。」
この言葉は彼の顔を真顔にさせた。僕はあることに気づく。こいつの根は真面目だ。もしかしたらこれが入試においていちばんの加点材料になっていたのかもしれない。入試での合格基準が定めきれていない。どんなやつらがこの高校にはいるんだ?
先生が時計を確認する。
「それでは2番と16番は一週間の停学とする。まずはマップをみて校長室を訪ねなさい。」
2番の生徒は反抗して先生に殴りかかろうとする。だがそれを冷静に1番がとめる。
「退学になるぞ。」
その一言で彼の動きはとまる。その後バッグを持ってすぐに教室から出て行った。あと追うようにして16番も出ていく。
「今から名前の設定をおこなう。どんな名前にしようが自由だが、こちら側が不適切と判断すればこれからは番号で呼ばれることになる。その点は気をつけるように。」
もちろんメールでの回答だ。そして僕は
「作兎」
と入力し、教室内に設置されているたった一つの時計を睨んだ。早川は全員が入力したのを確認し、次の連絡を始める。
「すべてはメールに書いてある通りだ。今から時間をやる。詳しい説明や質問が聞きたい場合はあとで挙手をしてくれ。クラス全体に共有しておこうと思う。それでは20分間の時間をとる。先生は用事があるので出るがくれぐれも騒がないように。」
と言って去って行った。
「ピロン」
全員の時計に通知がくる。マナーモードにはできないようになっている。
「これが全容。」
まず僕の目にとまったのは、・親について という項目。タップすると詳細が表示される。
・親について
一,親が必要であれば、親を選択し家に呼ぶことができる。
二,必要がなければ呼ばなくてもよい。
三, 親は基本的に家事などを全ておこなってくれる。
四,これ以上の詳細は親を迎え入れた場合にのみ連絡される。
急にこんな話をしても納得するはずがない。だが、
「それが嫌なら自主退学を進める。」
と言われるのはめにみえている。そういえば、重要な箇所を読み飛ばしていた。
・この街のルールについて
一,この街から出ることを禁ずる。
二,もしも出たとしたら、実験体として国に貢献してもらう。
三,街から出ていいのは許可が出た時と卒業証書をもらったあとのみ。
四,生徒証をかざせばすべてのものをもらう権利が与えられる。
五,一人につき一つ家が与えられる。内装も外装もどれも全く同じである。
六,わからないことは先生に聞くようにすること。
そして最後に書かれてある高校の目的についてをみる。
・厚生双立高校について
この高校は成績に応じて就職先が与えられる。
成績は100段階での評価とする。
初任給は最低でも30万円ですでに親の元に送られている。
停学すれば成績に大きく影響する。
退学者は実験体として日本国に貢献してもらう。
簡潔にまとめたため、質問があれば校長室をたずねるように。
これ以外の項目は担任にたずねるように。
要項すべて確認したところで教室のドアが開く。
「今から親が欲しいものの集計をする。メールを送るから回答してくれ。」
自分のことは自分でできるからいらないかな。僕は必要ないというボタンを押す。
「氷室はどうした?俺は母親をもらおうと思うんだ。」
絶対的に自己管理ができなさそうな彼はそれが得策だと思う。
「僕は自分のことは自分で管理できる。君はそれでいいんじゃないかな?だけど僕はまだ君のことをあまり深くはしらない。結局いまの時点では自己判断を優先すべきだよ。そんなこともわからないのかい?中川くん。」
と言ったあとつけてもないのにメガネをくいっとあげる動作をする。彼は顔に怒りを表していたものの、意見には納得した様子であった。
「親を迎え入れる選択をしたものは今から指定された場所に向かってもらう。だがその前に電子機器の回収をおこなう。外部から仕入れたものは使用不可というルールがあるんだ。了承してくれ。このあと家電量販店に行って買ってもらう分には問題ない。一人ずつ前に全ての荷物を持ってきてくれ。」
すると、早川は金属探知機を取り出した。一人一人調べるがみんな先に電子機器は出してるので最後まで反応することはなかった。そしてクラスの大半が教室から出ていく。残ったのは10人といったところだ。今の時間を確認する。11時半。
俺は指定された第4校舎の3階へと向かう。周りに人がたくさんいるからそれについていく。空き教室の扉を開けると階段が用意されている。そこには、さっきみた校長の姿があった。
「この下に行く覚悟がある奴はいけ。ない奴はいかないでもよい。」
その一言で周りがざわつき始める。覚悟あるないに関わらず俺には母親が必要な状況に変わりはない。
「俺は降りる。母親が必要だからだ。」
といい階段を降りていく。
「中川くん。俺たちもいくよ。」
そのあとに何人か続けて降りていく。結局そこに残った者は誰もいなかった。
「今から親を選んでもらう。母親は左側、父親は右側へ進んでくれ。両方を選んだ場合は先に右側に進んでもらう。」
大体は母親を選んでいるみたいだ。そして俺も左側へと進んでいく。そこには大量の40代が寝ている。生きているかもわからない状況だ。そして寝ている横には札があり、名前の特徴が書いてある。基本的に特徴は意味がないらしい。そして選択したのは結局一番母親に似ている人だった。周りもきっと同じ選び方をしているだろう。
「今日、自分の家に帰る頃には家事をしているだろう。母親の連絡先を今からメールで送る。もらったものは各教室に帰るように。」
そして、俺はAクラスの教室へと戻っていった。
「今から昼ごはんの時間とする。1時半までにはこの教室に戻っておくように。それでは今からひとりひとりに弁当を配っていく。」
さっき登録した名前付きの弁当が配布された。中身は自分の好物ばかりだが、健康も考えてくれているようだ。
「昼からについてだが、わかり次第こちらから全体にメールを送ることにする。もしかしたら口頭で説明することになるかもしれない。」
そう言い残して早川は出ていく。そして、僕は中川と一緒にご飯を食べることになった。中川の弁当はみんなよりも二倍くらい大きく、食べ応えがありそうだなと思った。約15分で弁当を食べ終えた。本当は一人で行くつもりだったが、中川も誘うことにする。
「学校の外に興味はないかい?一回学校外を探検してみないかい?あいにくこのAクラスの人たちについて調べる意欲は湧かなくてね。」
一人で行くのが怖いとかじゃないけどやはり、中川を誘うことにした。
「お願い。きてくれないかい?」
あいつのことだからきっと了承してくれると思っていたが、予想外の回答が返ってくる。
「もちろんいいさ。だがこいつらも連れていっていいか?」
と言って二人を前に出す。
「こんにちは。中川の手下Aの下川です。」
「同じく、中川の手下A'の下川です。」
心強い仲間が二人も増えてしまう。こんなにも運があって良いのだろうか。
「氷室もこいつらにコキ使っていいからな。」
許可をもらってしまったなら仕方がない。思う存分手下として扱うことを心に決めた。
「じゃあ、これからはよろしく頼むよ。下川二人。」
そして僕と中川は二人を連れて教室から出ていった。まずは正門に向かい、学校から脱出できるかを確認しよう。廊下を歩いていくが一人も人がいない。あれだけの人数がいたのにここまで出会わないのは不自然だと思い、校舎から出て校庭から校舎側をみると大量に校舎があり今見えるだけでも5つの棟があった。
「ワクワクしてくるぜ。この学校生活が。」
そう言った中川に同意するように僕は頷く。
「君がいれば退屈しなそうだよ。この3年間の学校生活は。」
四人は正門の前に立った。まずは囮としてAを送り込もう。
「A出てくれないか?みんなで出るのは一応やめておこう。これで四人が停学は馬鹿馬鹿しい。」
そういった時、隣を生徒が通り過ぎていった。躊躇のなさにびっくりしたがこれで学校外へはいつでも行けることがわかった。正門を出て周りを見渡す。異様な空気を感じる。ビルが一つも建っていない。この街で一番高いのはきっと高校の4階だろう。それに加え、すべての家が同じつくりをしていて等間隔に並んでいる。色の違いはあれどそれ以外は本当にそっくりだ。一番の違和感は街に人が誰もいない。そして、交通量が0だ。学校の横を見るとコンビニを発見する。ここにいるのは先生と生徒だけなので駐車場は非常に小さい。だが建物は非常に立派でここに住んでも不便が全くないようなレベルだ。
「中に入ろう。買い物もしてみたいからさ。」
一行は自動ドアの先での光景に驚きを隠せなかった。レジ打ちするところがない。そして、タバコも置かれていない。セルフレジだけが存在している。そして、もっと奥へと進むと酒類も置かれていない。だが、日用品は大量に存在しており、中が広いこともあってか異様な感覚に襲われる。
「まずは買い方のおさらいをしよう。」
僕は腕時計をみてルールを確認する。
・物品販売について
一,基本的に街に置かれている値札のついたものは腕時計を使えば購入することができる。
二,腕時計の右側上部のボタンを3回クリックすればバーコードが表示され、それを読み取ると購入ができる。
三,袋についてはエコバッグを持参するように。(配布あり)
四,食料品などについては午前4時から5時は販売をしていない。
中川は腕時計を3回クリックする。そして、説明通りバーコードが浮かび上がってくる。みんなのバーコードをそれぞれ確認したがわずかに違いがあり、誰のか先生たちは分かるようになっているだろう。まず最初はボールペン一本と筆ペンも一本レジへと運んだ。そして、バーコードをかざす。レシートが出てくる。値段の欄がすべて0になっていて、面白い。
まだ時間が残っているので僕たちはもう少し奥に行ってみることにした。歩いていると、中川のポケットから何かが落ちてマンホールの中に入っていった。僕は某電気屋が見えたのでそこに向かって走り出す。なんでも売ってると聞いていたのであれだってあるだろう。
「待っててくれ。」
AとA'はこちら向いて頷くが中川はマンホールをこじ開けようとしていた。そんな簡単にとれたらバケモノというしかない。中に入ったらすぐに、あるものを探し始める。まずは一つ1番大事なのを手に取る。次のはいまの時代なのもあってなかなか見つからない。5分ほど探したあとようやく例のものを見つけた。
「あった。」
そう言って僕はレジにマンホールオープナーを運んだ。買ったあとすぐに中川のところへ向かう。昔から色々なものに興味があり使い方はわかるが購入したことはなかった。初めて使うのではっきりいって興奮が止まらない。冷静を装って、
「こんな時はこれを使うといいよ。マンホールオープナー」
少々息遣いが荒いがまぁ決まっただろう。
「なぜにドラえもん風?」
彼らは引き攣った顔をする。そして、マンホールオープナーを取り出し設置する。
「3.2.1」
マンホールのなかを覗いても真っ暗でよくわからない。そんなこともあろうかと懐中電灯もさっき買っていたのである。懐中電灯を僕が取り出すと
「おー」
と歓声が起こった。そして中を照らす。ハシゴがついていて、降りれるようになっている。中川の決断は早い。すぐにハシゴを降りていく。整備がされていて、まだ新しいのもあり非常に綺麗な状態を保っている。降りた中川がなかなか上にあがってこない。みつからないのか。
「おい、中川。まだ見つからないのかい?そんなに大事ならなぜ落とすような真似をしたんだい。」
そして、すぐに登ってきた。
もちろん僕たち3人はもちろん鼻をつまむ。
「これだけ探して見当たらないのは不自然だ。ぜってえ盗まれた。」
そう言ってるのはいいが、確実に匂いがついてる。そして、一人は犠牲になってもらうことに。A'の手をどける。彼は中川の匂いを嗅いだ。
「大丈夫。全然匂わないや。手を退けてごらん。」
僕たちは彼の言葉を信じて手をどける。ひどい匂いが充満する。一斉に中川から距離を取る。A'はあとでしばいておくことにしよう。
「こんな時には消臭力」
といってAがバッグから本当に消臭力をとりだし中川に撒き散らした。さすが近未来の消臭剤だなと感心しつつ、匂いが消えたことに安心を覚える。
「そろそろ学校に戻ろうか。」
僕はあえて中川の落とし物のことは聞かないようにした。




