第4話 修道女リタ
「お、驚いた。ザレス一味をこんなにあっさり。あんた、本当に強いんだね」
店主の親父が駆けつけてくる。
気づけば周りの客もガヤガヤとどうやら俺の戦いぶりを話しているようだった。
急に恥ずかしくなってきた。酒の勢いとはいえ、少し目立ち過ぎた。
「ま、まぁな。一応、A級冒険者だからな」
「憲兵は呼んどいたから。すぐ来るはずだよ。いや、助かったよ。もう死んじまうかと思ったけど」
「大丈夫だ。寝ててもこいつらには勝てる」
親父は冗談だと受け取ったらしく笑っていた。
まぁ、本当に寝てても勝てるのだが。寝ててもこんな殺気丸出しのやつらならすぐ起きて相手出来るんだが。
しかし、わざわざ言うことでもないか。
「あ、あの。ありがとうございました」
と、俺にそんな言葉をかけてきたのはまさにゴロツキに絡まれていた二人の女性だった。
そうだった、なんか悪漢をこらしめて一件落着な感じだったがこの二人を助けるために戦ったんだった。
「い、いやいや。大したことじゃ」
「本当になんてお礼を言えば良いか。危ないところを助けていただいて」
「ははぁ、訳アリか」
俺の言葉にスラリとした、おそらく大人の女性は言葉を止めた。
「まぁ、こんな身なりですし、分かりますか」
「いや、あんた本当はこいつら一人で倒せただろう」
「...なるほど」
女性は少し声のトーンを落とした。
最初絡まれている時からなんとなく思っていたが、今こうして対峙して改めて分かる。
この女性はかなりの手練れだ。どうやら隠しているようだが、体の動きが素人じゃない。
間違いなく、俺がやった程度のことはこの女性も出来るはずだった。
「どうやら、あなたも本当に強い方のようですね」
「あんまり騒ぎを起こせない事情があるみたいだな。なら、なんでわざわざ酒場に来たんだ。トラブルの温床だぞここは」
「すみません、情報と仲間を集めるなら酒場と聞いていたもので」
「なるほど。まぁでも、こんな場末の酒場じゃ情報も仲間もたかが知れてるぞ」
居るのは俺も含めて酔っぱらいだけだ。
この街の隅の小さな酒場に有益な情報も良い仲間も転がってはいない。
そもそも若い女性が二人で入るにはあまりに治安が悪い。
少し世間に疎いのだろうか。
「いえ、来て正解でしたよ」
しかし、俺の言葉に女性はそう返した。
「こんなトラブルに巻き込まれたのに?」
「ええ」
そう言って、女性はフードを外した。
すると中から現れたのは。
「あんた、シスターだったのか」
現れたのは修道服を纏ったブロンドの髪の女性。女神に仕えることを主とした聖空教、そのシスターだった。
「なんで、シスターが酒場に???」
ますます分からなかった。
なんで聖職者がこんな場末の酒場にやってくるんだ。確か聖空教の聖職者は酒を飲めなかったはずだが。
「私たちはある目的のために旅をしています。我々は隣国のシグウォートからやってきました」
シグウォート、このレスティア王国の東にある国だ。しかし、この街に来るだけでもかなりの距離だ。
「私はリタ・イルゼマと言います。あなたは?」
「シズマ・アラタキだ」
「シズマさん、あなたは今なんの仕事を? その強さならさぞ高名な冒険者なんでしょうか」
「いや、今はこの人無職だよ。S級パーティをクビになったんだ。だから、毎日この店に来て飲んだくれてるってわけ」
「なんで親父が全部言うんだ」
親父は俺が正直に言おうか一瞬悩んだ内容を全部言いやがった。
人のプライバシーを勝手にさらすな。毎日酒飲んで金を落としてることに義理とかないのか。
「それは良い」
「なにも良くない」
「いえ、実はシズマさんに相談があります」
女性は、リタはずいと俺に近寄ってきた。
「シズマさん、私たちの用心棒を引き受けていただけませんか?」
「用心棒ぅ?」
用心棒、つまりこの二人の身を守る役割なわけだが。
「あんたの強さで用心棒がわざわざ必要なのか?」
「それについても込み入った事情がありまして。そうですね」
リタが言った時だった。
「あ、いけない。憲兵が来たみたいだ」
親父が言った。
「まずいですね」
「やっぱり、憲兵に事情聴かれるとまずいのか」
「ええ」
「なら、裏口使いなよ。カウンターの後ろから出れるから」
「良いのか親父」
一応、あんまり良いことではない気がするが。
「良いんだよ。ザレスを黙らせてくれたし、毎日酒飲んでくれたよしみだ」
「親父、悪いな」
「良いってこと」
と、確かに表に人影が見える。もう、憲兵が店に入ってくるだろう。
俺たちはそそくさと移動を開始する。
リタと、もう一人の女性。いや、どうやら少女だ。
どうも、子供にしか見えない。一体、この二人はどういう事情なんだ。
まぁ、それも聞かないことには始まらない。
俺たちは親父の言う通りに裏口に向かう。
「良い仕事だと良いね」
去り際に親父が俺に言った。
「ああ、ありがとう」
俺は短く返す。
場合によっては、しばらくここの酒は飲めなくなるかもしれないと思いながら。




