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第3話 酒場での騒動

「なんだなんだぁ?」



 親父が困惑した顔で俺の後方を見ている。


 グデグデの頭だが、俺も振り返ってそっちを見る。


 するとそこには。



「良いだろ、姉ちゃん。ちょっと一緒に散歩するだけじゃねぇか」


「やめてください。私たちは旅の途中だと言っているでしょう」


「まぁまぁ、良いじゃないの。長旅は疲れてるだろう? お兄さんたちとちょっと骨休めしようじゃない」


「いい加減にしてください。私たちはあなたたちに構っているほど暇ではないんです」



 見れば、明らかにゴロツキと分かるガラの悪い男たちが二人の女性に絡んでいるところだった。


 二人は外套を着こんでフードを目深に被り、どんな人物なのかうかがい知ることは出来なかった。


 しかし、明白なのは二人が明らかに嫌がっているということだった。



「ちょっとだけだって。あんまりつれねぇこと言うもんじゃないぜ」


「やめてください」


「そうだよ、俺たちの親分が誰だか分かってる? 『剛力のザレス』、この辺りじゃ逆らっちゃダメってことで有名だ」


「おいおい、お前らその辺にしとけよ。嫌がってるじゃねぇか」


「なんて言っといて、ザレスさんもこの子たちに興味津々じゃないですか」


「くっ、あなたたち...!」



 ゴロツキのうちの一人の大男は上機嫌で仲間たちを盛り上げていた。


 酒場は異様な空気だ。


 みな、関わり合いになるまいとゴロツキ達から目をそらしている。


 まぁ、なるほど。確かに、あの大男は少し腕に自信があるようだが。



「なんてこった。また、ザレスの野郎だ。あのチンピラ、来るたび面倒起こしやがって。早く、憲兵呼んでこないと」


「なんだ親父。あいつら、そんな厄介者なのか」


「そりゃそうさ。ザレス一味っていやぁこの辺りじゃ有名なチンピラさ。一応冒険者の資格を持ってるらしいが、もっぱらたかりだの恐喝だので生計を立ててるロクでもない連中だよ。あんたも関わらない方が良いよ。ザレスはこの辺じゃ誰も相手が出来ないほどで」


「なるほど」



 俺はヨタヨタと立ち上がる。



「え? ちょ、ちょっとどうするんだい! まさかあんた」


「良いか親父」



 俺はビシリと人差し指を親父に突き付ける。



「俺はむしゃくしゃしてるんだ。暴れたいんだよ」


「なんて無茶苦茶言ってるんだいあんた...」



 親父の呆れた声を背中に受けながら俺はあまりにも頼りない足取りで店の中央の騒ぎに近寄っていく。



「なぁなぁ、姉ちゃん。いい加減に諦めろよ」



 まだ、二人のうら若き女性に迫っているゴロツキどもの後ろまで来る。



「おい!!! ボケナスども!!! やかましいから黙れ!!!」



 そして、大声で叫んだ。


 途端にゴロツキどもはぴたりと動きを止めて俺の方を見た。



「なんだ? この酔っぱらい」



 ゴロツキどもはげたげた笑う。



「お前ら冒険者なんだってな。俺は同じ冒険者がこんなことしてるの見るとブチギレそうだ。今すぐやめろ」


「ああ? お前も冒険者なのか? なんで昼から酔っぱらってる。魔物退治はどうした?」


「パーティをクビになったばかりだ」


「は? ははははははは!!!!!」



 大笑いするゴロツキども。


 か弱き女性二人はこの状況がどういうものかいまいち分かっていないのか。少し動揺しているように見える。



「お前面白いな。で? その無職の冒険者様はどうするんだ? なにがしたい」


「お前らがムカつくからとっととこの店から出ていけ」


「へぇ、そうかい」



 そして、ゴロツキのうちの二人がナイフを取り出して俺の前に立った。



「酒の勢いって怖いよな。そのせいでお前は死ぬわけだが」



 そして、二人はナイフを振り上げ、俺に襲い掛かってきた。


 しかし、



「あげっ」


「ぐごっ」



 二人は間抜けな声を上げてぶっ倒れた。


 意識を失い痙攣して立ち上がることはない。



「なんだ!!!」



 清らかな二人の女性が目を見開いたのを感じた。


 ふむ、悪くない。普段は目立ちたくはないのだが、たまに酒の勢いでこんなこともしてみるものだ。


 大体、こいつらは本当にムカつくのだから。



「魔法か?」


「こいつ、ちょっと厄介だぞ」



 ゴロツキたちは口々に言っている。



「ちょっと厄介じゃない。悪いが、こんだけベロベロでもお前たち全員相手にしても負けることはない。とっとと出てけ」



 俺はグデグデでようやく回った呂律で言った。



「舐めやがって」



 しかし、そこで言ったのは大男だった。確かザレスとか言ったか。『剛力のザレス』とかなんとか。この辺じゃ誰も敵わないとか言う。



「俺に逆らうってことがどういうことか分かってるのか?」


「分からん。お前より俺の方が強いからな」


「殺す」



 ザレンの仲間が3人がかりで引っ張ってきたのは巨大なハンマーだった。


 ザレンはそれを取るとすぐさま俺に振り下ろしてきた。



「ははは! うまく避けたな!!!!」



 途端、店の中に悲鳴が響く。ザレンのハンマーは床をぶち抜き、地面まで砕いていた。店の真ん中に大穴が空いていた。



「そら、来いよ。俺より強いんだろ? 来た瞬間ぺしゃんこだがなぁ!!!」



 ザレンは叫んでまたハンマーを振り下ろしてくる。



「あ?」



 しかし、次の瞬間ザレンの体は宙を舞っていた。無論、俺がザレンの腕を掴み、ハンマーの勢いを利用して投げたからだが。


 それから、俺はザレンのみぞ落ちに一発掌底を叩きこんだ。



「ぐがっ....」



 そして、ザレンは地面に叩きつけられた。


 ぴくぴく震えて、まったく動かない。


 勝負ありだ。



「『碧刀のシズマ』だ」



 誰かが言った。気に入ってない俺の異名だ。

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