第2話 飲んだくれの日々
「ああ...酒がうまい...」
そして、それから1週間。俺はものの見事に酒場で飲んだくれになっていた。
もはや気分はやさぐれ放題だった。なにをするにもやる気が起きない。
しかもクビになったのでハイマ―は退団保障金まで出さなかった。
つまり、俺は今ある貯金でどうにか暮らすしかないということだった。
「そ、そんな! なんでシズマがいきなりクビに!!!???」
「こんなのおかしい!! みんなで抵抗しよう!!!」
「なんで黙って去るんだシズマ!!!」
旅団を去る時にかけられた仲間たちの言葉が思い出される。
俺はそんな言葉を背に集会所を出ていったがあの後どうなっただろうか。
ハイマ―のことだから全部権力でねじ伏せていることだろう。一週間経っても音沙汰無しなのが証拠だ。
リーゼは遠征でいなかった。帰るのはひと月後だったから会えるはずもない。リーゼに挨拶できなかったのは心残りだったな。
「おい、あんた飲み過ぎじゃないのか?」
酒場の店主の親父がカウンターにうなだれる俺を見かねて言ってくる。
「良いんだよ。S級パーティを突然解雇されたんだぞ。ちょっと自暴自棄になる自由くらいあるはずだ」
「そう言ってもう1週間だろう。そろそろ仕事探した方が良いんじゃないか?」
「それはそうだけど」
さすがに『赫時の旅団』は給料は良かったので蓄えがないわけではない。
しかし、このままでは増える当てもない。
仕事が無くては生きていけない。それは残念ながらこの世界のルールだ。
しかし、何もする気が起きない。全然働く気力が湧かない。
「S級パーティに居たってことは腕は立つんだろう? なら、働き口はいくらでもあるだろう。何なら自分でパーティ起こして見返してやれば良いじゃないか」
「簡単に言うけどな親父。パーティの運営って結構大変なんだぞ」
なんだかんだ小さくてもパーティ運営は組織の経営なのだ。ギルドの下請けのようなものとはいえ、ある程度の経営スキルは要求される。強ければそれで良いというものでもない。
そして、俺は剣の腕に覚えはあったが組織を動かしたりするのはまるで分からなかった。そもそも、組織の一員として働くのさえ苦手な部類だ。パーティのリーダーとして運営することなど出来るだろうか。いや、出来ない。その自覚がある。
「もういっそ、ソロで魔物討伐して細々生きてくかなぁ」
「でも、ソロって危険なんだろ? 死にかけても誰も助けてくれないし」
「まぁなぁ」
ソロで動くと当然そういった問題も出てくる。いくら俺がA級冒険者とはいえ、絶対に無傷で依頼をこなせるというわけじゃない。そうなった時に助けてくれる人が居ないのがソロパーティだ。正直そっちもあんまり気が進まない。
そもそも、依頼の細かい金銭のやり取りや契約書の取り交わしとか、マネジメントとか全部ひとりでやらないとならない。それが面倒すぎる。
「やっぱり、どこかのパーティに入れてもらうのが一番か」
「どうやら、下っ端根性が染みついてるみたいだねぇ」
「急にひどいこと言うなあんたは」
この親父は俺の相談に乗ってくれてるのか俺を蔑んでるだけなのかどっちなんだ。
だが、親父の言う通りだ。
俺は腕は立つとは言え、根っこが小市民なのだ。
身の丈に合った生活を。出る杭は打たれるのだから目立たないように。ほどほどのポジションでほどほどの生活を。
そんな風に生きてきたのだ。
俺みたいなやつがS級パーティに入れたのがそもそもかなりの幸運だった。
だが、突然クビになった。人生そううまい風には運ばない。
「でも、小市民なりに結構頑張ったんだけどなぁ。そうだろ親父。あんたから見ても下っ端根性の塊みたいなやつが、S級パーティの最前線で必死に働いてたんだぜ? それが、いきなりこんな...こんなのってないよ...。俺は頑張ってた、必死に頑張ってたんだよぉ...」
そう言いながら俺はまたジョッキの酒をグビグビ飲んだ。
そうなんだよなぁ。こんなやつが良くあんなところで頑張ってたものだ。しかも結構実力も認められて。本当に、信じられない幸運だった。
それが今やこの有様だ。
「ああ、ダメだ。悪い酒だ。良くないよあんた」
「働きたくない。働きたくないよぉ」
俺は半泣きでうめくように言った。
親父は明らかに可哀そうなものを見る目で俺を見ていたが関係ない。
俺は今完全に自暴自棄だった。
さらに酒を胃に流し込む俺。
このまま、全部忘れて幸せな世界に行きたい。そのためにはあと3杯くらいジョッキを空にしなくてはならない。
「親父酒...」
俺が言おうとした時だった。
「いい加減にしてください!!!!!!」
突然大声が背後から響き渡ったのだ。




