後編
あれから何年が経過しただろうか。
途方もない鍛錬の果てに、俺は迷宮最下層のさらに先まで潜っていた。
光源のない下り坂を進んでいくと、金属製の大扉が見えてくる。
俺は助走をつけて大扉をぶん殴って破壊し、広々とした空間に足を踏み入れた。
そこには数十体のエルダーゴーレムが待ち構えていた。
ゴーレム達は規則的な動きで一か所に集結し、複雑な変形と合体を繰り返す。
出来上がったのは一体の巨大なゴーレムだった。
纏う魔力は膨大で、対峙するだけでぴりぴりと骨の身体が痺れる。
同じ魔物として、圧倒的な格の違いを感じた。
「おお、感謝するぜ。図体がデカいと殴りやすいんだ」
蓄えた魔力で疑似的な声帯を形成した俺は、喜びを声に出した。
全身を巡る魔力の出力を一気に上げて戦闘態勢に入る。
巨大なゴーレムは右手をゆっくりと掲げた。
そこから無造作に腕を振り下ろしてくる。
単純明快な攻撃……それで俺を叩き潰すつもりらしい。
「俺と拳の勝負か! 上等だァッ!」
拳が衝突し、凄まじい衝撃波が発生する。
一瞬の拮抗を経て砕け散ったのはゴーレムの拳だった。
派手な金属音と共に肘の辺りまでバラバラになって崩れていく。
「脆いな! もっと鍛えろ!」
俺は大笑いして疾走し、追撃の拳をゴーレムの胸部に叩き込んだ。
内部の核が割れたエルダーゴーレムは機能を停止し、地響きを立てて倒れる。
着地した俺は自らの拳を確かめる。
倒したばかりのゴーレムの力が流れ込んでくるのを感じた。
祝福の効果でまた拳が強化されたのだ。
「……生きてた頃の二割弱ってところか」
全盛期に比べればまだまだ弱い。
それでも蘇った当初よりはマシになった。
ただのスケルトンにしては規格外の強さと言えるだろう。
さて、この迷宮で最強の魔物を倒した以上、長居する意味もない。
鍛錬するならまた別の迷宮へ向かう必要がある。
何より騙し討ちで俺を殺して力を奪った元仲間達……あいつらに痛い目を見せないと気が済まない。
最低限の実力を取り戻したので、そろそろ復讐を視野に入れた行動も取るべきだろう。
(スケルトンの身体で外に出たら騒ぎになりそうだが……まあ、なんとかなるだろ)
俺は細かいことを考えるのが苦手だ。
頭より体を動かしたい。
今後の方針を定めた俺は踵を返して地上を目指す。
――これは、俺が"拳聖スケルトン"と呼ばれるまでの物語である。




