中編
次に目覚めた時、俺の身体は骨だけとなっていた。
しかし意識はあるし、問題なく動ける。
(死んでスケルトンになったのか?)
迷宮で死を迎えた冒険者は魔物になることがある。
俺もその例に漏れず、不気味な骨の魔物になってしまったのだろう。
とりあえず立ち上がってみた。
骨の身体は不安定で力が弱く、気を抜くと倒れそうだ。
全身を巡る魔力も貧弱で頼りない。
怪しげな呪具で力を奪われた挙句、死んだのが原因だろう。
ただし、能力の根源である祝福は残っているようだ。
そこだけは安心した。
俺は膝をついて、地面に軽く拳を当てる。
ぴきり、と音が鳴って指の骨にヒビが入った。
(いくらなんでも脆すぎるだろ……)
己の弱体化にうんざりするが、文句を言ったところで生前の肉体は返ってこない。
だから俺は左右の拳で黙々と地面を殴り続けた。
骨は容赦なく砕けて折れた。
それでも俺は気にせず攻撃を繰り返す。
俺が持つ"拳聖の祝福"は、殴れば殴るほど拳が強化される。
ただそれだけのシンプルな能力で、便利な効果が多い祝福の中ではハズレ扱いをされる。
実際、使い勝手という面で見れば劣悪に近い部類だろう。
攻撃手段が限定されるし、拳以外に祝福の強化が乗ることはない。
つまり自力で身体能力を向上させる必要があるのだ。
手に入れただけで強い祝福というわけでは決してない。
しかし俺はこの祝福を極限まで鍛え上げた。
祝福を手に入れたその日から、とにかくあらゆる物体を殴って殴って殴りまくった。
結果、Sランク迷宮の魔物すら屠る力を手にしたのだ。
(その力を仲間に奪われたわけだがな……)
地面を殴る拳はどんどん砕けていくが、空気中に含まれた魔力で再生する。
魔物の身体は魔力を取り込むことで素早く回復するのだ。
高濃度の魔力に満ちた迷宮だからこそ可能な荒業であった。
そうして何度も殴るうちに、拳ではなく地面に亀裂が走っていく。
拳の損傷はだんだんと小さくなる。
俺はペースを上げてとにかく拳を打ち込み続ける。
数千発も殴った頃には、骨の拳は地面を大きく抉るほどの威力を手にしていた。
(よし、悪くねえな。次の段階に進むか)
俺は周囲を見回し、エルダーゴーレムの残骸に注目する。
地面とは比較にならない硬度で、高純度の魔力を宿している。
拳の強化としてうってつけの素材だ。
そう確信した俺は、嬉々として拳を叩き付けた。




