前編
Sランク迷宮の最下層。
立ちはだかるエルダーゴーレムに対し、俺は正面突破を選択した。
拳を構え、雄叫びを上げながら疾走する。
「オオオッ!」
全身全霊の魔力を乗せた一撃が、古代魔法金属で構成された巨体を捉えた。
七色の光を迸らせる拳がエルダーゴーレムにめり込み、一気に打ち砕く。
大穴の開いたエルダーゴーレムは立ち上がることなく沈黙した。
巨体から滲み出した魔力が拳に吸い込まれてる様を見て、俺は満足して微笑む。
「ハハッ、悪くねえな」
その時、胸に鋭い痛みを覚えた。
見れば血みどろの矢が生えている。
俺は堪らず倒れた。
少し遠くから声が聞こえてくる。
「敵の力を吸収する瞬間、あなたは油断し、攻撃が通りやすくなる。仲間の不意打ちなら尚更ですよね」
「お、お前ら……一体何を……ッ!?」
霞む視界に映ったのは、三人の仲間達だった。
リーダーの魔剣士ユージンはクロスボウを持って言う。
「矢にニーズヘッグの麻痺毒を仕込みました。いくらあなたでも動けないはずです」
「畜生が……」
俺は地面を掻いて立ち上がろうとする。
しかし毒のせいで力が入らない。
クソが、確かに俺は油断していた。
いつもなら察知できていたはずの矢を避けられなかったのは、ボスモンスターの討伐で気が緩んでいたからだった。
まさしくユージンの指摘通りである。
「拳聖ロドン。僕達はあなたの能力が羨ましかった。戦いを重ねるほど力を増すその拳……その素晴らしい祝福を独占するなど、あまりに傲慢だとは思いませんか?」
「そうよそうよ。戦闘以外は役立たずのオッサンのくせに」
「汗臭いし汚い……声もうるさい……」
残る二人の仲間、リンとセレーナが蔑んでくる。
彼らの言葉に俺は激しい怒りを覚えた。
(実力差があるのは、お前らが鍛錬をサボってるせいだろうが! 戦闘だって何かと理由をつけて俺任せだ! そんなんだからいつまで経っても強くなれねえんだよッ!)
思い切り怒鳴ってやりたいが、舌が上手く動かない。
頭のボンヤリしてきた。
これは、本当に不味いぞ。
(腰の袋に解毒薬を入れておいたはずだ。あれを……どうにか……飲まないと……)
ユージンがゆっくりと近付いてくる。
クロスボウを捨てた手には、代わりに禍々しい黒い短剣が握られていた。
「先日、祝福を奪う呪具を手に入れました。これであなたの力をいただきます」
「ま……て……」
「安心してください。拳聖の能力が僕達が有効活用しますから」
振り下ろされた短剣が、俺の眉間を突き立てられた。
俺の視界は闇に染まった。




