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  作者: korudo
和解と出会い
9/18

彼女との夜

 浴室でしっかりリラックスした後、部屋に戻った。20:01、寝るにはまだ早い。今日の課題を終わらせて、ここ数日放置していた本を読もう。


 あれこれ考え事をしていたせいで、なかなか頭に入らなかった。だが今や思考の枷は解けた。


 僕は勉強が好きというわけでも嫌いというわけでもない。自分を高めるための必需品、ただそう認識している。


 親から受け継いだ悪くない頭脳のおかげで、授業を真面目に聞き復習する集中力さえあれば難問ではない。復習と予習を終え、本棚へ向かう。


 ……気になる本は全て先輩に先を越され、読むには彼女が読み終わるのを待つしかない。


「はあ…」


 ライトノベルを読もう。カバンから『実妹生活』を取り出し、序章の既読部分から読み始める。文章は細やかで流れるように滑らかで、たちまち物語に没頭していった。


 物語が二人の同居生活開始後の展開に差し掛かった頃、現実世界でどれだけ時間が経ったかも分からない。階段から璃茉の足音が聞こえてくる。


 お風呂上がりで部屋に戻るんだな、そう思っていると、彼女は僕の部屋の前で立ち止まった。


「トントントン!」


 ドアをいきなり開けて入ってきたのに、璃茉は口でノックの音を真似している。


「突撃0721検査、その手中のわいせつ読物を置け!」


 何を言ってるんだこいつは。


「入る前にノックしろよ…まあいい、用は?」

「兄の生理的行動を視察に来た」

「……」


 どこのエロガキこいつ。


「ほら、男子が一人暮らしするときってあれするでしょ。急に私と同居することになったから、部屋に入るタイミングがまずくないか心配で」

「ならノックしろ。君は最初からまずいタイミングを狙って入ってきたんだろ」

「ちがうよ。さあ、早く兄のオ○ニー時間帯を教えて」

「……」


 璃茉の一貫して無機質な表情の中で、ぶっ飛んだ言動が展開される。ならば付き合ってやろう。もしこれが彼女にとって必要なことなら —— それが僕にとっての変化であるのと同じように。


「実は僕もずっと同じこと聞きたかったんだ。ちょうどタイミング合ってたかもな」

「え?マジで…って違う、これ罠にはめるやつでしょ、きもい」

「そんなこと聞く方こそきもいわ」

「ヤダヤダ」


 璃茉が僕のベッドに飛び乗り、ごろごろと転がり始める。湯上りの香りが湿気を帯びて鼻腔に届く。せめて髪は乾かしてほしいものだ。


「困ったな、変態兄がいて」


 腰を上げた璃茉は、ベッド脇のデスクに座る僕を見て、大げさに額に手を当てて悩むふりをする。さて、本題に入る頃合いだろう。


「で、用件は?ただの遊び?」

「うんー、明日入る部活、文芸部でしょ」

「そうだけど、なんで知ってる」

「友達にその先輩のこと聞いたし、それに兄が興味ありそうな部活って、本に関係ないの想像不能」

「まあそうだな」

「でね、部活やるから、本借りるの」


 意外と真面目だ。顔見せだけの幽霊部員になるかと思ってた。友達いたのか。兄さん、感動したぞ


「なんだか見下されてる気が……で、何かおすすめの本ある?」

「うーん…どんなジャンルが好きなの?」

「普段は漫画ばっかり読んでる」

「どんな漫画?」

「…」


 なぜか璃茉が顔を背ける。そんなに言いづらいジャンルなのか。まあ、言いたくないならいいんだけど、そう言おうとしたら彼女が振り向いた。


「恋愛と…少年漫画」

「そう。じゃあそんなライトノベルを何冊か紹介するよ。漫画に近いテイストだし」

「…変じゃないと思う?」

「趣味は君の自由だ。他人がとやかく言う権利はない。それに僕だっていろんな本を好きだし」

「自由…」


 璃茉はうつむき、かすかに笑った。それから僕を見上げる。


「じゃあ私が何を好きでも、兄は嫌わない?」

「君に害があるものなら別だ。それ以外は、僕の君への見方は変わらない」

「そうなんだ」


 秘密のひとつふたつくらいあるだろう、人だもの、そんなに強くはないからだ。人は何をしていても傷つく可能性がある。生きている限り、人生は絶え間なく傷つき続けるんだ。


 彼女を襲う傷は、いつか必ず訪れる。だからそれまで、僕は彼女の緩衝材でいよう。語りたくないことは、彼女にとってふさわしい相手が現れるまで、胸の内にしまっておけばいい。


「どうぞ」

「うん、ありがと」


 差し出したライトノベルを受け取り、璃茉はそのうちの一冊を開いた。部屋を出る気配はなく、僕のベッドに寝転がったまま読み始める。


 比較的シリアスな学園恋愛とライトなラブコメ各一冊、それにキャラクター成長に焦点を当てた異世界転生ファンタジーを選んでおいた。


 再び手元の『実妹生活』に意識を戻すと、部屋には二人のページをめくる音だけが響いている。気づけば一冊読み終え、デジタル時計は21:13を表示していた。


 文庫本を閉じ、ベッドの璃茉を見やる。彼女は均等な呼吸を立て、すでに深い眠りに落ちていた。


「自分の部屋で寝ろよ…まあいいか」


 心地よさそうに眠る彼女を起こすに忍びず、布団を掛け、予備の毛布を手に明かりを消した。今夜はリビングのソファが僕の寝床だ。

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