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  作者: korudo
和解と出会い
14/18

15日の朝 僕と彼女、彼と彼女

「おはよう」

「おはー」


 こんな日常もすでに慣れっこだ。相変わらず朝の挨拶をして洗面所へ向かう璃茉と、キッチンで朝食の準備をする僕。


 お気に入りのエプロンを外し、リビングに戻ってきた璃茉と食事を始める。


「兄」

「何」

「今日も弁当ある?」

「残りカレー」

「王道だね」

「だろ」

「ふふふ~じゃあ今日の昼も一緒に食べられるね」


 一緒に食事をする相手は言うまでもない。先輩は普段一人で部室で食べているようだが、僕の知らないうちに、璃茉と先輩は毎日一緒に昼食をとる約束をしていたらしい。


 これでいいのだろうか、里奈さんを置き去りにして。まあ相手にも自分の交友関係があるだろう、僕が知らないだけだが。


「あ、そうだ。先輩が兄も来る?って聞いてたよ」

「遠慮する。昼飯の時間は、神聖なんだ」

「はーい」


 言葉にはならない期待が、璃茉の表情を普段の無機質さから一変させた。ごく稀に、彼女はこんな表情を見せる。


 窓の外を見つめる彼女は、まるで夕食に揚げ物が出ると知ったかのように、少女らしい笑顔を浮かべていた。


 いや、それは期待とは少し違う。言うならば憧れ、どこかで見覚えのある他人の表情に似ている。


「…璃茉」

「んー?」

「先輩のことどう思ってる?」

「超優しいお姉さんで、それにすごく綺麗」

「そうか」


 人間同士が関わると、必ず何らかの反応が生まれる。反応色は様々だ。たとえ同じ人間性でも、触れ合う相手が変われば反応も変わる。まるで多彩な花火のように、全く異なる色を導き出す。


 それは眼底に焼き付いた烙印であり、人生という線の上で、「他人」という存在と接触した後、振り返った時に見える異色の点であり、その残る温もりが、人への印象となる。


 僕はずっとそう信じてきた。あるいは、信じざるを得なかったのだ。


 優しさ、包容力、平穏 —— これは短い時間のふれあいの中で、藍咲先輩が璃茉の心に残した印象だ。


 一人でいることを受け入れ、話題が交わせる —— これだけの単純な行為でさえ、相手が他人である場合、璃茉にはなかなか成立しえないことだった。


 数時間のふれあいでは、璃茉の他人に対する境界線は消えない。それでも感受性の強い彼女が先輩という存在を受け入れた。


 三人で同時に過ごした時間は短いが、僕にも先輩が璃茉を気に入っていることはわかった。


 だが相手の言葉が冗談であろうとなかろうと、璃茉はその優しさに身を委ねることに固執している。


 恐らくこの独特な距離感も、彼女の(変化)に由来するのだろう。


 ジャムを塗ったトーストにかじりつき、幸せそうな表情の璃茉を見て、「彼女を傷つけたくない」という思いが湧いた。たとえ肉親であれ、自分以外の人生に干渉することが果たして正しいのか、同時にそんな考えも浮かんだ。


 答えは見出せぬまま、登校の時間が訪れた。


「璃茉」

「なに?」

「やっぱり昼飯は一緒に食おう」

「そう」

「信子との件が終わるから、やっぱり経緯を話そうと思って」

「うん、待ってる」


 柔らかく微笑む、その小さな彼女の姿は、いつ振り返っても同じだった。やはり、こんな璃茉が傷つくのは見たくない。


 正しいかどうかは、もう重要ではない。少なくともこの時間だけは、手に入れたいと思う。


 金曜日。教室の空気にはかすかな解放感の予兆が漂う。今日の放課後の遊び場、女子グループへの誘い、そんな興奮に満ちた談笑が教室を満たしている。


「おはよう」

「おぉ」

「くらげおっす、昨日は助かったぜ」

「殺す…」


 珍しく静かな茂真はさておき、なぜ田中までくらげ呼びを始めたのか。そしてなぜ佐藤はまだ殺意を向けてくるのか。


 君らいったい何を言いやがった。


 田中と佐藤、それに茂真以外の男子たちが話している。いじめられてるのか?いじめは良くないぞ、そう思いながら『実妹生活』を開く哀悼の意を込めて。


「くらげ、ちょっと話せるか?」

「…承知」


 教室の一角へ移動する。昨日の合コン前の、あの話題の続きだろう。深く息を吸い込んだ茂真は、苦笑いを浮かべて僕を見た。


「結局、お前の言う通り、ついあの子たちと葵を比べちゃってさ」

「そうか。何を比べた?」

「あの子たちに目で追われてる時、つい思っちゃうんだ。葵はこんな目で見ないって。話してる時も相手の反応をそこまで気にしなくていいとか。いろいろ考えた」


 人間には「眼差し」というものがある。たとえ言動がどれほど純粋に装われていても、目の中の何かを求める意図は露わになる。


 おそらく渡辺さんと過ごした日々は楽しく純粋だったのだろう。だから同じ異性の存在に出会うと、無意識に彼女たちの一挙手一投足を比較材料にしてしまうのだ。


 彼女の顔の方が可愛く、声の方が心地よく、髪の毛の方が柔らかい。その先には、一緒にいてより楽しく、共通の話題が多く、あるいは単純に知り合ってからの時間が長い。幼なじみとは、かくも不思議な存在だ。


「自分の感情が確かなら、そのまま伝えるのが一番だ」

「あ、うん。わかった」


 僕らの間にはこんなに真剣な空気は滅多になく、少し照れくさそうな茂真が僕らの表情を見て、こくりとうなずいた。


 親しい存在ほど、好意を伝えることは難しい。親に迷いなく「愛してる」と言える者は少ない。ましてや血縁ではなく、名付けられた「関係」で結ばれた他人なら尚更だ。


 ただの「失いたくない」という言葉、あるいはもっと単純な「嫌われたくない」という一言でさえ、一つの心を救い戻すには十分なのだ。


 相手を嫌っていないなら、そうしない理由はない。

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