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  作者: korudo
和解と出会い
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春 4月11日 朝

 春先の通りを歩いしていると、口から吐き出した溜め息が風に消え、残雪を溶かす熱に変わる。高校二年生になってからもう二週間が過ぎたけれど、毎日通学途中に溜め息をつくのが癖になっちゃった。地球の二酸化炭素濃度を上げるという罪を、謝罪します。


 そんな頭の中のダジャレがおかしくて、思わず空を仰ぎ上げた。広がる快晴な空と心地の良い風が嫌味だと感じた。


 白樺台の襟章が風になびく姿が、少しずつ瞳に映り込み、家から教室へと続くこの無為な思索の時が、もうすぐ終わりを告げる。手前に見え始めた校門を目指し、足取りを少し遅くめた。


 室内シューズケースに到着し、靴を履き替えて足を踏み出そうとしたが…凝視は後ろからに無視不能、同じシーンに今朝も上演、か。


 振り返って、思って通そこに立つのは彼女だった。


 僕の視線を逸らしたその顔には、反射する眼鏡越しに心の中が読み取れなかった。()()()以来、僕らの目や心も、二度と合わさってなかった。


 前髪、随分伸ばしたな。そう思うって、視線を外すだった。明見(あけみ) 信子(のぶこ)、知り合い以来、もう十年になる。言われる、幼馴染(おさななじみ)だろう。


 相対的に、同じクラスに編入されるまで、同校だと気づかなかった。すぐそばにいるのに、言葉はもちろん、目配せすら交わさなくなった。


 別々の道を行かず、心も通わず。他人より長く共に過ごしたのに見知らぬ人同士 —— これが今の僕らの関係。


 平行線の果ては何物か、いつの日か知るだろう。こ思って、再び足を取り。


 教室に入ると、顔見知りのクラスメイト達に気まぐれに「おはよう」と挨拶し、まっすぐ自分の席に向かった。


「おはよう、くらげ」

八鳥(やとり)、おっす」

「おーっす」

「おはよう、茂真(しげま)佐藤(さと)田中(たなか)


 相変わらずな朝、挨拶してくれた三人に会釈し、カバンを机の横にさっと掛けた。


「その呼び方、まだ使うするの?」

「いいじゃん、面白いし」


海月(かいげつ)の代わりに「くらげ」で僕を呼ぶのは、三人組ひとりの森下(もりした) 茂真。本人の話では、漢字が同じだからだという。


 直すのも面倒だから、ため息ついてカバンから読みかけの文庫本を取り出した。


 お決まりの挨拶の後、HRまでの時間を本に浸って過ごすつもりだった。窓から入り込む春の香りのする風を鼻に吸い込みながら、季節の移り変わりの速さに感慨深く思った。文字の行を目で追いながら、茂真たちの隣での会話が耳をすり抜けていった。


「話を戻る。諸君、聖戦が近づいている。準備はととのえた?」

「ああ、問題ない。計画通りに」

「木曜日午後5時30分、()()()()()が」

「我々の戦場だ」

「そうであれば、もし万事順調にいけば、戦果の甘美さは計り知れないだろう」

「ククク…」

「シシシ…」


 謎のコミュニケーションを進めているの茂真と田中は下品な笑声を出し。隣の佐藤は何故か黙っている、茂真はそれを気づいた。


「どうした佐藤?緊張してんのか?」

「いゃ…その…」


 佐藤は短時間で迷い後、頭を低く。


「本当にすまんない!俺、あの日はどうしても参加しなければならないな家族会がある、だからごめん!」


 手を合わせた佐藤の姿で、さっきまで大声で笑っていた二人は固まってしまった。どうやら、誰かの彼女想いは今日、砕け散ったらしい。僕は注意力を手中の本に戻し、心を砕いた男たちを哀悼しながら、HR到着をまっている。


 午前の授業が終わると、顔が靄ぐような茂真を置いてきぼりに、一人で非常口の出口でランチを食べるつもりだった。ところが茂真は突然元気を取り戻し、僕に突進してきて、両手を僕の肩に組み付けた。

 なんか嫌な予感がする。


「くらげ!これは俺の一生のお願いだ!」

「断る」


 十中八九は僕に合コンに行かせようとしてるんだろう。こんな単純に個人の時間を浪費する活動、どうしても気が上がらない。


「いや、焦るな。俺してるだぞ、お前、欲しい本がいくつあるけど、金はただ一冊買えるだろ?というわけで、もし合コンに行ければ、お前の本代、全部俺が払う!」

「次に機会あるでしょ、今回ダメでも」

「あのさ、くらげ」


 茂真は情けなさそうに首を振り、僕に説明していた。


「高一の新入生がまだ足を固めていない今こそ、一番の手を打つチャンスだ。例え今回の合コンに失敗したでも、彼女たちの交友圏を活用すれば、無限の可能性が俺たちに開かれているんだ!」


 どうでもいいだろう。


 わずかの時間を割く、何冊も本が手に入るのか…相当お得な提案だな。ところで、なんでこいつがしってるんだ?しかも、どこからこんな金を持ってろんだ?


 顔出すだけくらい、友達として助けろう。しかも報酬を貰うし。


「でも、合コンは初めてだから、合わせるくらいでも無理ぞ」

「心配するな、簡単に自己紹介をして、あとは俺達に任せてくれ」

「……ハァ。承知、受け取るよ。場所は?」

「ああ、頼むぞ。北区横新道、つばはち」


 茂真は僕に向かって片目をさすっと閉じ、肩を叩いた後、田中の方へ歩み去った。キモ。


 合コンと言えば、大部分の人の印象は陽キャたちの配偶者選びイベントだろう。青春怪獣の茂真とは違って、僕はそんなものに全然興味がない。


 だが、この時間をこれに費やすことに決めた以上、何かを得ようと試すつもりだ。初対面の人たちに対して、今回はどこまでできるだろう。短時間の相処で、僕に何を残してくれるだろう。微妙な期待を抱えて、教室の後ろのドアに向かって歩いた。


 振り返ると同時に、視界の端に人が入り込んだ。信子はこっちの様子を観察しているらし。多分騒がしい茂真が彼女の注意を引いたのだろう。


 視線が合い、また逸れた。その僅かな瞬間に、彼女が何かを語りたいとする思いが見えた。逃げているのは僕なのか、彼女なのかを知らず、僕らの間には沈黙以外何もなくなった。

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