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戦友

砂埃が舞う、瓦礫の中。

 草薙は昔を思い出していた。

 岡田は、兵士のくせに、気が弱くて臆病な奴だった。

 口下手なくせに寂しがり屋で、いつもみんなの中、なんだかんだと後をついてくる奴だった。

 俺の言う事なら間違いない、と指示は良く聞いてくれたし、言われた事は素直に従う奴だった。

 普通の人間に戻りたい、と部隊の中で最初に言ったのは確かあいつじゃなかったか?

 それが、なんで分かれ分かれになったのか。

 そして、過去の思い出に想いを馳せる草薙の「耳」に、足音が聞こえる。

 草薙は、ゆっくり歩いてくるその足音の方向に顔をむけ、立ち上がった。

 そして、その視線の先の瓦礫の陰から、ゆらりと一体のサイボーグが姿を現す。

 潜入用の上下黒ずくめの服は、擦り切れてボロボロになっており、頭部のパーツも弾痕などで半壊している。

 だが、その猫のようなゆらりとした構えと仕草は、間違いなく岡田曹長のものだった。

「ま、まさかとは思ったけどよぉ、く、草薙だ。ひ、久しぶりだな。探したぜ。」

 言いつつ、岡田は「顔」を外し、下の顔を見せた。

 サイボーグ同士でも、あの戦闘用の「顔」は本当の顔という認識はない。

 挨拶をするときは外す時が礼儀だ。

 そして、現れた「顔」は草薙と同じく、人工皮膚が一部欠損はしているが、間違いなく岡田のものだった。

 彼は嬉しそうに笑うと、こちらに駆け寄ってきた。

 それに、草薙はわずかな微笑みを浮かべる。

「久しぶりだな、岡田。……みんなはどうしてる?」

「……へへ、お、置いてかれちまった。ほら、俺、要領が悪いからよ。」

「……そうか。」

 少し恥ずかしそうに頬を指先でかく岡田。

 ああ、間違いなく岡田だ。

 その言いよう、仕草。

 何も変わってはいなかった。

「お、おかげで、長い事薬切らしててよ。か、体中か痒いんだ。お、おかしいだろ?き、サイボーグなのによ、へへっ。」

 そう言う、岡田の手は確かに震えていた。

やや口調にもおかしな感じがある。

肉体的にはともかく、神経はずいぶんと弱っているようだ。

草薙はその姿をただ、静かに観察していた。

「……そうか。俺を探していたと聞いたんだが、そう言う用事か?」

 その言葉に、岡田は大きく頷いた。

 何度も大げさに頷くその姿は、草薙にはどこか幼児のようにも見える。

「そ、そうなんだ草薙ぃ。お、おめぇにしか頼めねぇ事があ、あ、あってよ。」

 そう言って、岡田が一歩踏み出す。

 そして、同時に、彼の右手が動いたのを草薙はハッキリ捉えていた。

 呼吸を合わせ、一歩後退し、胸をそらす。

 その瞬間、岡田の腕仕込まれた刃が展開され、草薙の鼻先の空間に閃いた。

「さ、さすが草薙だ。こ、にこの程度の芝居じゃ、だ、騙されやしねぇ。」

「この距離はお前の間合いだからな。訓練でさんざんやっただろう?相変わらず、ワンパターンなんだよ。」

 そのまま間合いを取りながら、草薙は笑顔で答えた。だが今度は、半身をむけ、つま先に力を入れる。

 それは、次なる攻撃をいつでもかわせる姿勢になっていた。

「へへっ、そうか。や、やっぱり、草薙にゃ、か、かなわねぇなぁ。お、俺も体痒くてよ、気が散ってしょうがねぇ。時々、か、体も言うこと聞かなくてよ。」

 言いつつ、岡田は、震える手で、もう一度戦闘用の「顔」を拾い上げ、装着し始める。

 彼がそれを起動させれば、本気の殺し合いが始まる。

 草薙は、それをただ静かに見守っていた。

「か、神谷がよ、仲間に入れてほしけりゃ、お、おめぇを殺ってこいって、い、言うんだよ。ほら、おめぇ、い、い、色々軍にチクりそうだからってよ。も、もう、普通に手に入る薬じゃ、こ、この痒みは止まんねぇんだよ。」

「……そうか。」

 「顔」を装着しようとする手が震えているため、うまく入らないらしい、目の前で首を振りながらもがく岡田を、草薙はただ静かに見守っていた。

「た、助けてくれよ、草薙。痒いし、さみしいし、怖えぇんだ。戦ってる時が、い、一番楽なんだ。なぁ?草薙、いつもあんた、お、俺を助けてくれたじゃねぇか?さ、最後に、俺を、助けてくれよォ!」

 岡田の言葉と共に、ついに「顔」が起動し、カメラアイが光を放つ。

次の瞬間岡田は獣のように奇声を上げ草薙に斬撃を加えた。

その動きを、草薙は姿勢を低くして回避する。そして岡田とすれ違うように、驚異的な脚力で大地を蹴り上げ、岡田のはるか後方に飛び込んで転がりながら着地した。

「解ったよ、岡田。お前を「救って」やる。お前のフォローが俺の仕事だったもんな。」

 そして草薙は、「顔」を装着した。

 センサー類が脳に直結し。視界が切り替わる。

草薙のカメラアイが光を放ち、戦闘開始の合図を告げた。


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