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機人戦士クサナギ  作者: 宮城 英詞


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暗雲

爆散した岡田の爆炎を背に、草薙は「顔」と呼ばれているヘルメットを外した。

 中からは、冷たい目でこちらを見る草薙の顔が現れる。

 そして彼は無事な方の左手で、熱田少佐足元に「顔」を投げつけた。

「……これで満足か?」

 そう言って睨む草薙に、少佐は笑顔で返した。彼は足元に転がった「顔」を拾い上げると、丁寧に土を払う。

「上出来だ。市民の被害を最小限に、岡田を処分できた。準備不足だったが、完璧な仕事ぶりだよ。約束通り、君に適切なメンテナンスを提供しよう。」

 その言葉に、草薙はふん、と一言言うと、壊れた右手を器用に取り外す。

 もともと分離交換できる設計なのか、肘から下が奇麗に取り外されていたそれを、草薙は無造作に放り投げた。

「少なくとも、腕はちゃんとしたものを用意してほしいもんだな、あと、退役の話も忘れるな。」

「わかっている。」

 そう言うと彼は、自分を連れてきた車へと歩いて行った。

 それを見送りながら、熱田少佐は、雅美にそっと「顔」を手渡す。

「申し訳ないが、しばらく彼の身柄を預かって欲しい。私の方からは、信頼できる技師をと補修用のパーツを送らせてもらう。彼も、習志野に連れていかれたくはないだろうからな。」

 熱田少佐の要請に雅美は不思議とに驚きはしなかった。

 草薙がおとなしく基地へ連れていかれるとはとても思えなかったし、何より色々引っかかることが多い。

 今、彼の話を聞ける機会があるのは非常にありがたいことですらある

 まぁ、自分の仕事が増えるのが悩ましい事ではあるのだが……。

 雅美は草薙の「顔」を見ながらしばし考えた後、大きくため息を付いて少佐の提案を受け入れた。

「いいわ。どうせ、嫌がってもなんだかんだごり押ししてくるでしょうし、私も彼をなるべく目の届くところに置いておきたいわ。それに、私はいろいろ知り過ぎたみたいだしね。」

「ご理解いただけたようで大変うれしい。……では、私も部下とドローンを撤収させるとしよう。」

 雅美の言葉に満足げにうなづくと、熱田少佐も軽く敬礼して車へと歩いて行った。

 そんな熱田少佐に、雅美は鋭い顔と大きな声で声をかける。

「最後に一つ、聞かせてくれない?」

 雅美の言葉に、少佐は足を止めたが振り向かない。

 そんな彼に雅美は、慎重に声をかけた。

「……『オロチ』の隊員は全部で何人いたの?」

「24名だが、なにか?」

「そのうち。確実に死亡が確認できたのは?」

「……今の岡田で一人目だ。」

 やはり。

 雅美は小さくつぶやいた。

 外国の戦場で行方不明になったサイボーグが、この札幌の地で偶然出会ったなどという事は考えにくい。

 彼は何らかの手段で国内に舞い戻り、何らかの事情で草薙を追っていたのだ。

 それは、サイバーサイコになっていた岡田一人でできる事とは思えない。

 つまり、何らかの共犯者がいる可能性があるのである。

「まさか、全員脱走していた……なんてことはないでしょうね。」

 雅美の問いかけに、熱田少佐は背中で笑った。

 そしてようやくこちらを振り向くと、

「その可能性は低いな。」

 と彼女の言葉を否定した。

「全員がどうかは解らないが、あなたの言う通り。『彼ら』は組織だって行動している。そして日本に舞い戻り、何かしようとしているらしい……これはもはや、脱走とは呼べない、言うなれば……。」

「……言うなれば?」

「反乱、だろうな。」

 なぜか嬉しそうに。熱田少佐は言い放った。

 サイボーグ部隊の反乱。

 まさかと思っていたその可能性が提示され、雅美は眩暈がする思いだった。

「あとは草薙特務曹長に聞いてくれ。私も立場上言えないことは多いし、彼も私には話したくないこともあるだろう。まずは彼の修理を急がないとな。」

 そう言うと、熱田少佐は、いそいそとこの場を後にした。

 その後ろ姿を見送りながら、雅美は重苦しい顔で、振り返り、岡田の残骸に目をやった。

 こんな、サイボーグがあと22人いる。

 彼らは、全員正気でいるかどうかの保証がない。

 現在、それに対応できるのは、彼、草薙のみ。

 そして、草薙は誰かに追われている……?

 雅美は熱田少佐が、何を押し付けていったのかうすうす見えて来た気がした。

 何が起こるか予測もつかないが、それはきっとろくでもないことに違いない。

「……大変な事になりそうね。今年は有給、ちゃんと使えるかしら?」

 ため息をつく雅美が見上げる空には、暗雲が近づきつつあった。


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