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心が走り出す、恋のレースが始まる

夕食を終え、賑やかだったリビングにも静けさが戻っていた。


「おやすみ〜」


「じゃあね、また明日〜」


それぞれが部屋へと引き上げていく中、優太だけは布団の上で何度も寝返りを打っていた。


(……落ち着かないな)


慣れないマットレスの感触、そして共同生活という新しい環境。どこか体が浮いているような感覚が抜けず、眠気はやってこなかった。


ふと、優太は息苦しさを紛らわせるように部屋を出た。


二階の廊下には夜風が優しく吹き抜けていた。


と、その時。


廊下の向こうに人影があることに気づいた。


「……エリカ?」


ほのかな照明の下、スマホを胸に抱くようにして立ち尽くしていたのは、普段明るくて堂々とした彼女、霧生エリカだった。


だがその顔は、いつもの彼女とはまるで別人。目元はどこか虚ろで、唇はぎゅっと閉じられていた。


「……どうしたんだ?」


優太が声をかけると、エリカは驚いたように振り向き、慌てて目元をぬぐって、笑顔を作った。


「な、なんでもないよ。ただ、ちょっと寝付けなくてさ」


だが、その一瞬――スマホの画面に映っていたコメントが、優太の目に入った。


『こいつ、男に媚びてるだけの安い女じゃん。インスタでしか存在価値ないくせに。』


(……酷い)


「……隠さなくてもいいよ。そのコメント、見えたから」


優太の言葉に、エリカは一瞬肩を震わせた。


「お願い……誰にも言わないで。こんなことで心配されたくないの」


「言わないよ、約束する」


優太は、まっすぐな瞳で言った。


「モデルって、外から見ると華やかだけどさ。本当は誰よりも気を張って、笑顔を絶やさずに、誹謗中傷にも耐えないといけない。……そんなの、簡単じゃないよな」


エリカは目を見開いた。


「……優太って、優しいんだね」


その時の笑顔は、どこか救われたようで、柔らかくて――とても美しかった。


「ありがとう。私の“表面”じゃなくて、“私”を見てくれて」


「い、いや……そんな大したことじゃ……」


エリカはくすっと笑って、「おやすみ、優太」と言って部屋へ戻っていった。


そして優太も、胸の奥に温かい何かを感じながら、ゆっくりとベッドへと戻った。


ようやく、眠れそうな気がした。


翌朝 — 静かな始まりと走る想い

朝日が穏やかに差し込む中、優太はすでにスニーカーを履いて家を出ていた。


(毎朝のランニングは、体型維持とメンタルのためにも欠かせない)


家の裏手にある小道を軽やかに走っていると――


「あれ? あれって……舞?」


向こうから走ってくるのは、クラスメイトであり、明るく元気な舞だった。


(そういえば、来月はバドミントンの大会があるって言ってたっけ)


だが、よく見ると、その走りはどこか焦っていて、彼女らしくなかった。


「舞!」


呼びかけると、舞は驚いたように振り返る。


「ゆ、優太!? な、なんでここに?」


「朝ラン。けど、舞の表情がちょっと不安そうだったからさ。大会、緊張してる?」


「えっ……エスパー?!」


「図星か」


舞は、バツが悪そうに笑いながらも、ぽつりと口を開いた。


「……負けたらどうしようって、考えちゃうんだ。期待されてる分、怖くて……」


「大丈夫。舞のプレイ、見たことある。真剣で、情熱的で、めちゃくちゃカッコよかったよ」


舞の目が少し潤んだように見えた。


「……本当に、そう思う?」


「もちろん。大会の日、応援に行くから。最前列で、絶対に!」


「ほ、ほんと……? じゃあ……その時は、すっごく頑張れるかも」


顔を赤くしたまま、舞は突然スピードを上げた。


「ちょっ!? おい舞!」


(まさか……本気でレース!?)


負けじと全力疾走する優太。ふたりの間に、どこか甘く楽しい風が吹いていた。


家に戻ると——

息を整えながらキッチンへ行くと、そこには湯気の立つカップと、眼鏡をかけたクールな少女の姿。


「……コーヒー、飲む?」


夕貴ゆきが、わずかに頬を染めて差し出したカップ。


「……ありがとう」


二人の間に漂うのは、コーヒーの香りと、まだ名前のない感情だった。


その後、リビングには他のメンバーも集まり——

「はぁ……起きるの早ぇよ……」


「ぐぅ……魂がまだ寝てる……」


眠そうな出泉と天音を見て、舞がにやりと笑う。


「ねえねえ! 聞いて聞いて! 優太、さっきのランで私に勝ったんだよ!」


「な、なんだとおおおおおお?!」


「え、え、え!? 舞に勝った!? あの陸上部をも圧倒した舞に!?」


優太:「いや……たまたまというか……」


舞:「ふふ〜ん、でも次は負けないからねっ!」


エリカ:「これはもう、みんなで朝ラン習慣にするしかないね」


夕貴:「賛成です」


出泉:「……朝は……反対です……」


全員:「アハハハッ!」


学校の登校時、ついにその「日常」は“事件”になった。

「えっ、あれ優太? あの3人と!?」

「付き合ってんの!? どれと!?」

「……全部!?」

「……俺も優太になりたい……」


生徒たちの視線を浴びながら、優太は首をかしげた。


「なんか、今日はみんなテンション高くない?」


舞:「あんたがその理由だよ、バカ」


エリカ:「主役は気づかないもんなのよ」


夕貴:「……ふふっ」


優太:「???」


作者コメント:

優太の心を最初に動かすのは誰…?そして、この“完璧すぎる共同生活”に平和はいつまで続くのか?

あなたの推しカップルや印象的なシーン、ぜひコメントで教えてください!

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