親友の好きな子たちと俺の好きな子と同居することになるなんて!?
藤尾高校では、夏休み前最後の日。教室は、期待と興奮でざわざわしていた。
その騒がしさの中、一人の声が教室中に響き渡った。
「決めた! この夏で俺は人生を変える!」
声の主は、鎌戸ユウタ。藤尾高校の二年生、十七歳。
ぽっちゃり体型、成績は平凡、クラスの中でほとんど目立たない存在。
誰の記憶にも残らないような、そんなモブ男子だった。
でも今日のユウタは、どこか違った。
まるで少年漫画の主人公のように、彼は(背はそんなに高くないけど)胸を張って宣言した。
「体を鍛えて、勉強もできるようになって、最高の自分になって帰ってくる!」
しかし、彼の親友二人は目も上げなかった。
教室の端で、天音は夢見るように黒髪ロングの女の子を見つめていた。
そう、エリカ。彼の永遠の片思い。強くて、クールで、美しい。
その隣で、和泉は溜め息をつきながら、ポニーテールを結んでいる元気な女の子を見ていた。
舞。二年間、密かに想いを寄せ続けた相手。明るくて、可愛くて、いつも笑顔。
「おい、お前ら変態か! 主人公気取りで見つめ合ってんじゃねーよ!」
ユウタがツッコミを入れる。
天音は肩をすくめた。「お前だって見てんだろ。聖人ぶんなよ。」
「見てねーし! いや、たとえ見てたとしても、俺は誰が好きなのかすら分かんねーし。」
和泉がニヤリと眉を上げる。「じゃあ、ユキは? ユキが通るとき、幽霊でも見た顔するくせに。」
ユウタは一瞬固まった。
相羽ユキ。銀髪ショートの不思議な雰囲気の女の子。窓際で雲を見つめ、誰ともあまり話さない。
だけど、その存在感は…なぜか目を引かれるものだった。
「…わかんね。」ユウタは小さく呟いた。
三人は同時に爆笑した。「お前も結局ダメじゃん、兄弟。」
ユウタは小さく笑い、窓の外を見つめた。
もうモブのままじゃ終わりたくない。この夏こそ、俺の物語を書き換えるんだ――。
***
――二か月後。夏休みが終わった。
藤尾高校には、太陽が眩しく降り注いでいた。
生徒たちは休み明けのだるさと共に、教室に戻ってくる。
天音と和泉はいつもの席でゲームの話をしながら、「結局、夏にLINEすら送れなかったな…」と嘆いていた。
そのとき。
ガラッ。
教室の扉が開く。反射的に全員の視線が向く。
そこに立っていたのは――
長身で、引き締まった体。シャープな顎、サイドに流した黒髪、V字の上半身を白シャツが際立たせる。
静かながら深い目、その佇まいはまるで嵐の前の静けさ。
一瞬、誰もその正体に気づかなかった。
そして――
「ま、まさか…ユウタ!?」
天音の口が開いたまま固まった。「嘘だろ!? あれが俺たちのユウタ!?」
和泉も目を丸くする。「あの変身、犯罪レベルだろ…誰の仕業だよ…!」
教室は騒然となった。
「イケメンすぎ…」
「海外でモデルでもやってたの?」
「信じられない…!」
女子たちの視線が突き刺さる。今まで存在にすら気づかなかった子たちが、まるでドラマの主演を見る目で彼を見た。
ユウタは落ち着いた様子で席に向かった。だが内心、心臓はドキドキしていた。
こんな注目、まだ慣れてない。
そこへ先生が入ってきた。
「新学期、気合い入れるためにこれを解いてみろ。」
先生はホワイトボードに最難問の微積の問題を書いた。教室が静まり返る。
そしてユウタが立ち上がった。
無言で前に進み、スラスラとそれを解いていく。
わずか一分足らずで正解に辿り着いた。
「正解…だ。」先生は呆然と呟いた。
ざわっ――
また教室がざわめきに包まれた。
天音が和泉に耳打ちする。「これ、漫画の新章か?夢じゃね?」
和泉は小声で答える。「レベルアップどころじゃねぇ。完全に別次元だ…。」
その日からユウタの名前は学校中に広がった。
その容姿だけでなく、知性と冷静さ、そして努力の姿勢が皆の心を掴んだ。
先生たちは褒め、女子は憧れ、男子は尊敬した。
だがユウタは、静かに本を読むだけだった。地に足をつけるために。
そこへ――
『生徒の皆さんにお知らせします』
校内放送が鳴り響いた。教室が一瞬で静まる。
『厚生労働省および文部科学省からの通知です。
少子化対策と早期の情緒的成長を目的とした、新たな実験的同居プログラムが導入されます。』
誰もが目を見開いた。
『藤尾高校はそのモデル校として選ばれました。
今学期より、選抜された男子三名・女子三名が共同生活を行います。
協調性、感情知能、恋愛発展を評価し、卒業時には相応しいカップルとして正式認定されます。』
……静寂。
「ええええええええっ!?」
天音は雷に打たれたように立ち上がった。「これ、エ◯アニメの設定かよ!?」
和泉は胸を押さえて青ざめた。「エリカ…舞…そして…ユキまで俺たちと一緒に…!?」
ユウタは硬直していた。
右を見ると、舞が信じられないという表情で自分を見ていた。
左には、眉をひそめながらも頬を赤らめるエリカの姿。
真正面には、あのユキが、今までにないほど真剣な眼差しでユウタを見つめていた。
ユウタの心の声:
(俺はただ、少し鍛えたかっただけなのに……
なんで親友の好きな子たちと、もしかしたら俺の好きな子と同居することになるんだ!?
どんなストーリーだよ、これ!!)
作者コメント
「読んでくれてありがとう!
ユウタは最初に誰に恋をすると思う? コメントでぜひ教えてね!
コメントは全部返信します!」